第450話 童顔の巨人

『失礼、ここに黄金級冒険者のティナという娘はいるか?』

「……誰?ティナの知り合い?」

「いえ、聞き覚えはありませんが……」



部屋の外から女性の声が響き、聞き覚えの無い声だったのでティナは不思議そうな表情を浮かべるが、クロミンを頭に乗せたサンが扉を開く。



「誰?どちら様?」

「あ、サン!!相手が誰かをちゃんと確認してから……」



レイナが止める前にサンは扉を開いてしまい、扉の前に存在するはずの人物に尋ねようとした。だが、何故か彼女の視界は真っ赤に染まり、不思議そうにサンは顔を見上げると、そこには通路の天井ぎりぎりの高さの女性が立っていた。


あまりの大きさにサンは驚愕の表情を浮かべ、女性の身長は2メートル近く存在し、サンが目にしたのは女性が身に付けているチャイナドレスのような衣服だと知る。



「きゅろろっ!?オウソウより大きい!?」

「む?君が黄金級冒険者のティナか……?噂では金髪の少女だと聞いていたが、こんなにも小さいとは……それに褐色肌、ダークエルフか?」

「いえ、その子は違います!!私がティナです!!」



慌ててサンの元にティナは駆けつけると抱き寄せ、他の者達も警戒した表情を浮かべて女性に視線を向ける。女性は身体を屈めて部屋の中に入り込むと、改めてレナ達を見下ろして自己紹介を行う。



「失礼する……あたしの名前はリュコ、この国で活動する黄金級冒険者だ」

「ムサシ、さん?」

「あ、貴方が巨人族の格闘家にして黄金級冒険者のリュコさんなんですか!?」

「大きい……でも、女性の巨人族にしては小さい方?」



リュコと名乗る女性は身長は2メートル近くは存在するが、ネコミンの見立てでだとこれでも巨人族の女性の方では身長は小さい部類らしい。


身長が非常に高い事を除けば外見の方は人間とあまり変わりはなく、彼女は赤色の髪の毛をポニーテールにまとめ上げ、瞳の色も炎を想像させる赤色だった。顔立ちは身長の割には若干幼さを感じさせる童顔であり、それでいながら身長はレイナよりも30~40センチ近くは高いため、まるで自分が子供になって大人を見上げているような感覚に陥る。


唐突に部屋に入り込んできたリュコに対してレイナ達は警戒心を高めるが、サンの方はこれほどまでに大きい人間(巨人族だが)を見て興奮したように両腕を広げてはしゃぐ。



「お姉さん、オウソウより大きい!!サン、肩車してほしい!!」

「ん?そうか、お前はサンというのか。肩車して欲しいのか?」

「だ、駄目です!!知らない大人の人に簡単に懐いては駄目ですよ!!」

「きゅろろっ……でも、このお姉さんは良い匂いがするから悪い人じゃないと思う」

「……確かにいい匂いがする。これは、お菓子の香り?」

「ああ、さっきまでクッキーを作っていたからな……良かったら食べるか?」



嗅覚が鋭いサンとネコミンはリュコから甘い匂いがするのを勘付き、それに気づいたリュコは腰に取り付けていた小袋を取り出す。彼女は袋を開くと随分と大きなクッキーを取り出し、それをサンとネコミンに差し出す。


巨人族用のサイズの大きめのクッキーにサンは目を輝かせ、ネコミンも涎を垂らすが、そんな二人をティナが抑えつけてリュコに先に用件を問う。



「お待ちください、それよりも貴女は何の目的で私達の元へ訪れたのですか?勝手に部屋に入って……」

「むう、そうだったな。すまない、どうにもあたしはこの国の常識に疎くてな……無礼な事をしたのなら謝ろう。ごめんなさい」

「え、いや……」

「ティナ、悪い人でもなさそうだからとりあえず話だけでも聞いてあげたら?」

「ふぁんもそうおもふっ!!(←クッキーを口に頬張りながら賛同する)」

「うまうまっ……(←同じく)」

「「…………(←スライムなので歯がなくて噛み砕けず、口に頬張った状態で黙り込む)」」



既にリュコが差し出したクッキーをサン達が食し始め、その様子を見てティナは頭を抑えるが、とりあえずはレイナは部屋の中にリュコを招いて話を聞く事にした――






――黄金級冒険者のリュコは巨人族にしてこの国では只一人の格闘家の黄金級冒険者らしく、彼女がこの宿屋に訪れたのは同じく黄金級冒険者のティナに会いに来たという。その理由は偶然にも彼女が遠征の仕事を終えて戻ってきたとき、黄金級冒険者のティナが王都に滞在していると聞いて一度挨拶しようと思い、宿屋まで尋ねたらしい。


自分と同じ黄金級冒険者でありながら、自分よりも若くてしかも最短期間で黄金級冒険者に昇格したというティナに大してリュコは前々から興味を抱いていた。だが、今までは仕事の都合で会いに行ける機会が中々巡り合えず、結局今日に至るまで会いに行けなかったという。

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