第449話 金級冒険者への昇格

――王城内の人間が勇者レアの能力が覚醒したという噂が飛び交う中、一方で当人のレアは冒険者のレイナとして正式に金級冒険者に昇格した。銀狼隊の新人団員でありながら、ただ一人の金級冒険者である事に王都では彼女の存在も話題となり、興味を抱く者も多い。


街を歩いているだけでレイナの存在を気づく人間も増え始め、見目麗しくそれでいながら黄金級冒険者のティナと互角の実力を持つという噂も流れ始め、中には貴族や商人の方から彼女と良好な関係を築こうとする人間もいる。


しかし、レイナの存在を怪しむ者も中には多く、何しろ彼女は現役の白狼騎士団の団員でありなが冒険者稼業を兼任し、しかも王都では話題になっていた銀狼隊の団員でもある。あまりにも肩書が多すぎる事からレイナの存在を調べようとする輩も多く、良くも悪くもレイナは王都の有名人として名前を広めていく。



「ふうっ……落ち着ける場所が宿屋の自分の部屋だけなんて何かやだな」

「気持ちは分かります。私も黄金級冒険者に昇格した時は似たような状況でした」

「レイナは有名人だから仕方ない……さっきも風呂に入りに行くだけで宿中の男性客が騒いでた」

「覗き見しようとした輩もいましたが、私の方で処理しておきました」

「いや、怖いよっ!!何したの?」

「ぷるるんっ(子供には言えない折檻だった)」

「サンも勝手にレイナの部屋の中に入ろうとした奴を追い出した!!でも、後で宿屋のおばさんに怒られた……」

「それは宿屋の従業員ですね、レイナさんの部屋を掃除しにきただけなのに子供に追い出されたと文句を言われました」



サンはレイナが留守の時は宿屋でクロミンと留守番を任される事が多く、基本的に一人の時は彼女は人間社会の常識を学ぶために勉強に励んでいる。ちなみに文字の読み書きに関してはサンもクロミンも既に習得しており、元々は魔物だった二人が非常に頭は良かった。


ダークエルフに変身したサンの場合は肉体の変化と共に知能も上昇したと考えられるが、そもそも脳どころか生身の生物ですらも怪しいスライムのクロミンも知能が高いに事に関しては理由は不明である。元々、こちらの世界のスライムは犬猫のような存在で大抵の人間の命令は理解できるようだが、クロミンのように完璧に人語を理解するだけではなく、人間のように行動するスライムは珍しい存在だった。



「それよりも今後の事を話し合いましょう。レイナさんが金級冒険者に昇格した以上、これからは指名依頼も多くなるでしょう」

「指名依頼……ああ、冒険者が外部の人間から指名されて依頼を申し込まれる奴か」

「そうです。しかもレイナさんの場合は銀狼隊に所属しているため、単独ソロではなくて冒険者集団パーティで指名される場合も出てくるかもしれません」

「リンさんの話によると、私達が不在の間に結構な指名依頼が届けられていた。でも、殆どの依頼が私達の実力じゃなくて、私達が目当ての依頼人ばかりだった」

「どういう意味……ああ、そういうことか」



レイナはネコミンの言葉に途中で意味を理解して嫌な表情を浮かべ、指名手配してきた人間の目的は優秀な冒険者を雇いたいわけではなく、銀狼隊の団員が目当てだと悟る。銀狼隊に所属する団員は一人残らずが「美少女」と表現しても過言ではないほどに容姿が優れており、しかもレイナも加わったせいで増々その手の依頼が増えたという。


黄金級冒険者のティナも最近は銀狼隊に加入したという噂まで流れており、正式に言えばティナは銀狼隊の団員ではない。黄金級冒険者であるティナが白銀級冒険者のリルが団長の冒険者集団パーティに入る事も疑問視され、そもそも数が少ない黄金級冒険者のティナを冒険者集団に独占されるとギルド側としても困る。


ティナが団長を務める冒険者集団ならば特に問題はないのだが、銀狼隊の団長であるリルとしては自分が団長を辞める事は流石に困るらしく、結局はティナは正式に加入していない。最も団員であるレイナが既に金級冒険者に昇格した件に関しても問題あるように思えるが、リルの方も近いうちに金級冒険者の昇格試験を受けるつもりらしい。


何だかんだでレイナが加入前の時点で銀狼隊の団員達も評価点を上げているらしく、大きな依頼を受けて達成すれば晴れて全員が金級冒険者に昇格するための試験を受けられる状況まで上り詰めたという。



「しばらくの間はレイナさんも目立つ行動は避けた方がいいのでしょうが……実は、近いうちに黄金級冒険者の一人がギルドに戻ってくるという情報を掴みました」

「え?本当に?そういえば……他のティナ以外の他の黄金級冒険者はどんな人たちだっけ?」

「一人は「剣聖」の称号を持つおじいちゃん、こっちの方は最近戻ってきたけどすぐに王都を離れたみたいだから何時戻ってくるのか分からない。もう一人の方は……」

「金剛拳と呼ばれる武術を扱う格闘家です。その強さはケモノ王国中の拳士の中でも随一を誇り、黄金級冒険者に昇格する前に素手でロックゴーレムの大群を撃破したと言われています。私も噂だけで実際に顔を合わせた事はないのですが……」

「素手で!?」

「きゅろっ、強そう!!」



ティナの言葉にレイナ達は驚き、いったいどのような人物なのかと尋ねようとした時、部屋の外から扉がノックされた。

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