第447話 魔王軍の目的とは?

「グノズの口ぶりだと、俺は性転換が出来る能力者だと思い込んでいたらしいけど、肝心の解析や文字変換の能力に関しては知らなかったみたい」

「なるほど……それは運が良かったですね。もしもレイナさんの真の能力まで知られていたらまずかったです」

「ふむ……性転換が出来る能力者か、もしかしたら魔王軍はレイナ君とレア君が同一人物だとは見抜いたが、それはあくまでも憶測であって確信には至っていないんじゃないだろうか?」

「え?どういう意味ですかリル様?」

「よく考えてもレイナ君の正体が外部に漏れているのが少し気になってね……今まで、レイナ君は性別を変化させるときは常に細心の注意を払っていた。まさか期待の騎士団の新人隊員と勇者が同一人物だと知られれば大きな騒ぎになると、我々は常に細心の注意を払ってレイナ君とレア君の正体を見破られないようにしてきた」



リルの言葉にティナ以外の者達は頷き、巨塔の大迷宮の際もレイナの傍には常に変装したハンゾウが存在し、彼女はレアと振舞っていたので増々他の人間に気づかれる恐れは低い。


しかし、現実に魔王軍の幹部であるグノズはレイナの事を勇者レアと見破った上で行動を起こしてきた。だが、リルは本当にグノズが確信を抱いてレイナとレアが同一人物だったのかを見抜いて行動したのかが疑問だった。



「恐らくだが、レイナ君とレア君が同一人物だと見破られた理由……それは武器じゃないだろうか?」

「武器、ですか?」

「ああ、レイナ君は普段の戦闘では聖剣をよく多用しているが、それが問題なのかもしれない。勇者レアの時に使用していた聖剣をその姿の時に使用した事もあるんじゃないのか?」

「あっ……!?」



リルの言葉にレイナは衝撃を受けた表情を浮かべ、確かにこの状態の時にレイナは何度かデュランダル以外の武器を使用してしまった。その時のレイナの姿を何者かに見られ、勇者とレイナが同じ聖剣を使った場面を見られていたとしたら非常に問題である。



「表向きにはレア君もレイナ君も所有する武器は聖剣だとは知られていない。しかし、仮に聖剣の存在だと知られていなくても全く同じ形状の武器を所有していれば怪しまれるだろう」

「そうですね、特にレイナさんの聖剣はかなり特徴的ですから、市販では絶対に販売されていませんですし……」

「もしかしたら今までの冒険者ギルドの依頼の際、レイナ様が勇者様と同じ武器を使うところを見られて、それで正体が判明したと……?」

「いや、それだけでは別に断定できない。これはあくまでも予測にしか過ぎないが、グノズは本当にレイナ君の正体を見破っていたのか、もしかしたらだが……実はかまをかけていたんじゃないだろうか?」

「えっ……」



レイナはリルの言葉を聞いてグノズとのやり取りを思い出し、彼に自分の正体が勇者だと見抜かれた時の台詞を思い返す。




『やっと毒が回ってきましたか。全く、大型用の魔物の毒でもここまで効き目が遅いとは……流石は勇者と褒めるべきですかね』

『勇者……どうして俺が勇者だと知っている?』

『……色々と貴方の事は調べさせてもらいましたよ。それにしてもまさか、追放された勇者が男性ではなく、女性というのは少し驚きましたがね。自由に性別を変化させる、それが貴方の能力なのですか?』




言われてみれば確かにこの時のグノズの言葉には微妙な間が存在した。グノズの言葉を聞いてレイナは正体を知られていると思ったが、その後のグノズはほんの僅かな時間ではあるが間が開いてから話していた。


この時のグノズの発言は実はレイナの反応を伺うために敢えて勇者という単語を口にした言葉だとしたら、レイナはまんまと騙されて自分の正体が既に相手に知られていると勘違いして自ら正体を晒した事になる。



「あ、ああっ!!そういう事だったのか、くそっ……騙されたぁっ!!」

「れ、レイナ様!?」

「どうやら心当たりがあるようだね。だが、グノズが確信を抱いていなかったとしたら完全には魔王軍側にはレイナ君とレア君の正体が同一人物だと気づかれていないはずだ。最も、かなり怪しまれているのは事実だろうが……」

「ど、どうすればいいんでしょうか……これ以上、レイナに目立つ行動はさせない方がよろしいですか?」

「いいや、それだと逆に怪しまれるだろう。ふむ、それならこうしたらどうかな?敵の混乱させるのも兼ねて、この際に勇者レア君の能力を明かすんだ」

『えっ!?』



リルの発言にレイナ達は驚き、まさかレイナの「解析」と「文字変換」の能力の秘密を他の人間に知らしめるつもりなのかと驚くが、すぐにリリスが察した表情を浮かべた。



「ああ、なるほど。つまり、レアさんの能力を知られないように嘘情報を流すんですね?」

「嘘とは人聞きが悪いな……まあ、確かに間違ってはいないが」

「ど、どうするつもりですか?」

「簡単な事だよ、世間の間ではレア君は女たらし勇者として知れ渡っている。それを利用するんだ」

「お、女たらし!?レイナさんは女たらしだったんですか!?」

「ちょ、誤解だから!!色々と理由があるんだって!!」



ティナはレイナの発言を受けて衝撃を受けた表情を浮かべ、恥ずかし気に胸元を抑えると、レイナは彼女の誤解を解くために慌てて説明を行う羽目になった――




※新作「初級魔術師、舐めんじゃねえよ」も投稿しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る