第446話 雷龍

「さあ、魔王軍の幹部なら色々と教えて貰おうか」

「ぐっ……私が口を割るとでも?」

「別に答えなくてもいいよ、こっちから質問するだけだから……!?」



レイナはグノズを足で踏みつけると、フラガラッハとアスカロンを地面に突き刺し、グノズが逃げられないように刃で彼の首を挟み込む。二つの剣の刃を鋏の様に重ね合わせて開いた状態で首筋を抑えつけた。


これでグノズは自力では逃げ出せず、更に念のために両腕を縛り付けようとしたとき、ここで再び黒雲から雷鳴が轟く。それを耳にしたレイナは貌を上げると、そこには黒雲の中から東洋の「龍」を想像させる生物が浮かんでいる事に気付く。




――グオオオオッ!!




かつてレイナが対峙した火竜や牙竜とも異なる生物の登場にレイナは驚き、それでも咄嗟に身構えようとすると、雷竜は全身から電流を発光させる。それを確認してレイナは嫌な予感を覚え、咄嗟にグノズを抑えつけて命じた。



「おい、あいつもお前の操っている魔物なら何とかしろ!!このままだとお前も死ぬぞ!?」

「ち、ちがっ……あいつは私が操っているんじゃない、そもそも奴は……」

「奴?」



グノズの妙な言い回りにレイナは疑問を抱いたとき、黒雲を身体に纏った龍は口を開き、電流を一か所に集中させる。それを見て竜種の吐息だと確信したレイナはこの場に残るのはまずいと判断すると、その場にグノズを置いて走り去る。



「くそっ!!」

「ま、待て!!置いていかないでくれぇっ!?」

「オァアアアアッ――!!」



情けなく命乞いをするのグノズに対して龍は容赦なく口元から電撃を発射さっせ、その光景を確認したグノズは声にならない悲鳴を発した。


雷の如く放たれた電撃はグノズの身体を飲み込み、そのまま一瞬にして焼き尽くすと、二つの聖剣が弾き飛ばされてしまう。恐ろしい事に今までどんな攻撃を受けても刃毀れもしなかった二つの聖剣だったが、雷竜の電撃を受けて一部が溶解した。その様子を見てレイナは冷や汗を流し、龍に視線を向ける。


しかし、既に雷竜は黒雲の中に姿を隠し、やがて黒雲は徐々に消散していく。レイナは龍の姿を見失い、追いかけようにも姿も見えなければどうしようもない。そもそも今のレイナが追いかけたところでどうにかなる存在なのかも分からなかった――






――帰還後、真っ先にレイナは冒険者ギルドではなく、王都へ戻って他の者達に報告を行う。国内で魔王軍の幹部を名乗る存在が現れた事、そして既にレイナの正体が知られている事、何よりも得体のしれない「龍」が出現した事に関してリル達は動揺を示す。



「まさか……それって雷龍ボルテクスの事じゃないですか?」

「知ってるのかリリス!?」

「いえ、私も名前ぐらいしか……ただ、電撃を操れる竜種となるとボルテクスしか有り得ません。少なくとも他の種の中に電流を操る竜種は確認されていませんから」

「雷龍ボルテクスか……そんな存在がケモノ王国に?しかも、魔王軍の支配下に収められている可能性があるのか」

「……レイナの能力で何とかならなかったの?」

「ごめん、急に襲われて対処できなかった。それに解析の能力も相手をちゃんと視認した状態じゃないと発揮できなくて」

「ぷるるんっ(気にしないで)」



レイナは申し訳なそうな表情を浮かべるとクロミンが膝の上に飛び乗って慰めるように身体を摺り寄せると、他の者も特にレイナを責めはしない。そもそも話を聞く限りでは突然の奇襲にレイナは危うく命を落としかけたのである。



「それにしてもクラーケンにヒッポグリフにゴーレムですか……どうやら、レイナさんが倒した魔物使いというのは相当優秀だったようですね」

「生きていれば拷問でも何でもして情報を聞きだせたが……」

「確か、グノズと名乗っていたそうですね?それは確か、少し前に捕まえたグレイという男を盗賊団に雇った依頼人の名前ではないでしょうか?」

「ああ、報告書には確かにそう書いてあったな。しかし、そのボルテクスとやらは操り切れていなかったのか、あるいはそもそも最初から操っていなかったのか……どちらにしろ魔王軍の幹部の一人だった事は間違いない」

「以前に私達が倒した紅血のアルドラと同じ幹部……それにレイナの正体も知られている」

「そこが一番の問題ですね、どうしてレイナさんの正体が見破られたのか……そこが問題なんです」



レイナが性転換して勇者レアからレイナに変身している事に関しては知っている人間は限られる。それこそ最初にレイナが正体を明かしたリル達か、最近になって仲間になったティナしかあり得ない。


いつ誰が何処でレイナとレアが同一人物だと見切ったのかが問題であり、気になる事があるとすれば魔王軍はレイナを殺すのではなく、捕まえようとした点でもあった。魔王軍はレイナを捕まえて何をさせようとしたのかも気にかかる。

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