第440話 盗賊に慈悲はない
「……動いたか!!」
地図製作の画面を見つめていたグレイは3つの反応が動き出した事に気付き、馬車を離れて自分が存在する方向へ動き出したのを確認した。先ほどの射撃で位置を掴まれた事は把握していたが、それでもグレイは動かない。
敵との距離は十分にあるため、その間にいくらでも攻撃は可能だった。しかし、強風のせいで砂煙が激しく、ある程度まで近づかないと相手の姿を視認は出来ず、正確な射撃は行えない。
(今度は外さない……!!)
依頼人からは勇者に関しては殺しても構わないという指令を与えられており、この際に自分の実力が勇者を殺せる程の力を持つのか確かめるため、グレイは準備を行う。しかし、ここで画面上に異変が生じた。
(別れた?別方向から俺を挟み撃ちする気か?いや、俺の正確な位置を掴めていないから別々になって探すつもりか)
3つの反応の内の1つが別方向へと向けて移動を開始したのを確認すると、即座にグレイは弓に矢を番えた。そして冷静にこちらの方向へ向かってくる反応に矢を撃ち込む。
最初にグレイが狙ったのは別行動を取った反応ではなく、二人で行動している反応に向けて撃ち込む。この際にグレイは射手の称号専用の戦技を発動させた。
「射撃!!」
グレイの両腕の筋肉が膨れ上がり、傭兵時代にあらゆる強敵を屠ってきた戦技を発動させる。通常時よりも矢の速度と攻撃威力が上昇し、放たれた矢は正確に二つの反応へ向けて接近する。
仮に相手が防具で身を固めていようとグレイの射撃の威力ならば防具ごと貫通する自信はあった。しかも今回使用したのは魔法金属のミスリルで作り上げた鏃、さらに特製の毒を塗り込んでいた。仮に相手が巨人族だろうと化すれば死は免れない程の猛毒であった。
(これで終わりだ勇者……!?)
必勝を確信して撃ち込んだグレイであったが、砂煙の中から予想外の出来事が発生した。それはこの地域には存在しないはずの生物の鳴き声であり、それを耳にしたグレイは目を見開く。
――ガァアアアアアッ!!
牙竜の咆哮が周辺一帯へと響くと、デュランダルの衝撃波で砂煙を振り払い、黒竜に乗り込んだレアが姿を現す。レアは迫りくる矢を確認するとデュランダルが発生させた衝撃波で弾き返し、そのままグレイが存在する方角へと向かう。
「そこかぁっ!!」
「ガアアッ!!」
「なっ!?」
まさか黒竜に乗り込んだレアが現れるとは思わず、いったい何が起きたのかとグレアは目を見開くが、すぐに正気に戻って慌てて退散しようと待機させていたファングを呼び寄せる。
「おい、逃げるぞ!!」
「ウォンッ!?」
ファングに乗り込もうとしたグレイは道具を回収する事も忘れて背中に飛びつき、ファングを走らせて逃走を試みた。だが、黒竜の移動速度はファングの比ではなく、徐々に追いつかれてしまう。
このままでは殺されると思ったグレイはファングに乗り込みながらも黒竜の気を引く道具を探し、そして毒薬が入った瓶を発見した。効くかどうかは分からないが、毒瓶を矢に巻き付けて彼は黒竜へ撃ち込むために弓を構える。
「くそっ、化物めっ!!これでも……!?」
しかし、ここで予想外の出来事が起きた。それはファングの進行方向の先の地面が盛り上がり、突如として巨大な土の壁が出現する。それを確認したグレイは慌ててファングを止めようとしたが、間に合わずに衝突してしまう。
「ギャインッ!?」
「ぐあっ!?」
壁に衝突した際にグレイは弓と毒瓶が取り付けられた矢を離してしまい、地面に転倒してしまう。いったい何が起きたのかとグレイは痛む身体を無理して顔を上げると、そこには黒竜と同様に存在するはずのない生物が立っていた。
――グレイの目の前には巨大な土気色のミミズを想像させる化物が存在し、その正体を「サンドワーム」だと見抜くのに多少の時間が掛かった。地中から出現したサンドワームはグレイの顔を覗き込み、巨大な口を近づける。
後方からは黒竜、前方からサンドワームによって挟まれたグレイは呆気に取られ、自分が夢の世界にでも存在するのかと思った。だが、転倒した際の身体の痛みが嫌でもここが現実の世界だと思い知らされ、彼は怪獣と称してもおかしくはない大きさの生物たちに挟み撃ちにされてしまう。
「ギュロロロロッ!!」
「ガァアアアアッ!!」
「ひいいっ!?」
傭兵でありながらグレイは情けない声を出してしまい、2匹に取り囲まれた彼は顔色を青くして死を覚悟した。サンドワームに飲み込まれるのか、あるいは黒竜に食いちぎられるのか、どちらにしろ明るい未来はない。
しかし、グレイの予想に反して2匹は特に倒れたグレイに対して何かを仕掛ける様子はなく、不思議そうに首を傾げる。そんな2匹の様子を見てグレイは驚き、どうして自分を襲わないのかと考えていると、大剣を背負ったレアがグレイの前に迫っていた。
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