第439話 盗賊団の正体

青年の名前は「グレイ」元々は腕利きの傭兵だったが、ある時に彼は依頼主と問題を起こしてしまう。その依頼主というのが厄介な事にケモノ王国の貴族だった。報酬に件に関して依頼主が権力を傘にして減額しようとしてきたため、当然ながら不満を抱いたグレイは貴族の依頼を途中で放棄する。


依頼の内容は貴族の護衛だったのだが、グレイが去った後にその貴族は敵対する貴族の暗殺者に殺されてしまい、その事を恨んだ貴族の遺族があろうことかグレイを殺害犯に仕立て上げた。当然だがグレイは自分の無実を訴えたが、相手が貴族であり、しかも依頼主と口論している姿を他の人間にも見られ、依頼人に恨みを抱いたグレイの反抗だと決めつけられてしまう。


無実の罪でグレイは指名手配され、その後の彼は酷い生活を送った。傭兵としてはもう生きてはいけず、山奥でひっそりと狩りを行いながら暮らしていた時、一人の男性が訪れた。その男性は自らの事を「グノズ」と名乗り、グレイを雇いたいと言ってきた。



『単刀直入に言わせてもらうと、貴方には我々が支援する盗賊団に入って貰いたいのですよ』

『盗賊団、だと?』

『ええ、我々は貴方の腕を買っています。だから盗賊団の団長になってもらいたいのですよ』

『馬鹿な、俺に犯罪者になれとでもいうのか!?』

『おや、貴方は世間的にはもう犯罪者ではないのですか?』



グノズの言葉にグレイは言い返す事が出来ず、言われてみれば彼はもう貴族に恨まれている時点で傭兵としては生きていけない。それに自分の事を犯罪者に仕立て上げたケモノ王国に対して恨みを抱いていた。



『貴方の役目はハナノという街に近寄る商団と旅人を襲うだけでいいんですよ。ああ、人手や物資が足りなければこちらに申し出ればすぐに補充します。それと奪った積み荷に関してはそちらの自由にしてください』

『何故、そんな真似を……その条件だとそちらに何の利もないだろう?』

『いえいえ、我々の目的はケモノ王国でどの程度の騒ぎを起こせば「勇者」が動き出すのか把握したいだけですよ』

『勇者だと……』



勇者に関する噂はグレイの耳にも届き、近頃に白狼騎士団と共に巨塔の大迷宮を制覇したと聞いていた。しかし、勇者が本当に存在するのかは未だに世間の間では半信半疑であり、大迷宮を制覇したといっても勇者の存在はまだまだケモノ王国の住民からは認められているとは言い難い。


大迷宮以外で勇者が特に大きな活躍をしたという噂はなく、そもそも本当に勇者が存在するのかと疑問を抱く人間は多い。しかし、グノズは勇者が実在する事に確信を抱いている様子だった。



『貴方の役目は盗賊団を率いてハナノの街に接近する存在を襲う、単純明快な仕事内容でしょう?』

『……どうしてハナノに拘る?あそこはただの観光地だぞ』

『まあ、王都からほどほどに近くて大きい街だからですかね。我々の目的はどの程度の騒動を引き起こせば勇者が動くのか、それを確認したいだけです』



グノズはそれだけを告げると本当にグレイに盗賊団の団長を負かせ、彼に部下と物資と資金を提供した。正直に言えば犯罪者の真似事など最初は抵抗感があったグレイだが、仕事を終える度に旅人や商団から奪った物資や金銭も独占する事に依頼主側は何も言わなかった。


傭兵時代の時よりも収穫が多く、しかも時々観光に赴くケモノ王国の貴族もいたため、彼は復讐も兼ねて盗賊団を率いて仕事を忠実に全うする。最近では王都から冒険者も派遣されるようになったが、それでも彼は仕事をやり遂げた。グレイは傭兵として戦場を生き抜くためにあらゆる手を駆使して戦い、例え卑怯な戦法だと他の人間に思われるような手段でも躊躇なく実行し、任務を果たす。




そして遂に勇者が現れたという報告が情報に届き、彼はグノズから新たな依頼を引き受けた。それは勇者の実力を把握するため、万全の準備を整えて勇者を襲えという内容であった――






「どうした勇者、何故動かない?」



退却の準備を整えながらもグレイは地図製作の画面を確認し、商団に偽装した勇者達の様子を伺う。いつでも逃げる事は出来るが、このままでは依頼人の任務は果たす事は出来ず、彼は苛立ちを抱く。


勇者が出向いた時点でグレイは絶好の好機だと判断し、今回は確実に作戦を成功させるために足手まといの部下は連れず、一人で動いていた。傭兵時代からグレイは単独で行動する事を好み、盗賊団を率いていたといってもあくまでも依頼人の命令であったので従っていただけに過ぎない。


本来の彼は一人で動く事を好み、他者と協力して戦うなど苦手だった。第一に前回の襲撃の時は信じられない程に出鱈目な行動を取る女に襲われて以来、グレイは警戒心を高めていた。

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