第438話 敵の能力の把握
「隊長、聞こえるか!!敵の能力を把握したぞ!!」
「え、本当に!?」
「ああ、どうやら敵は俺達の位置を何故か正確に掴めるようだが、俺達の姿は見えていないはずだ!!」
「どういう意味!?」
位置を特定しているのに姿が見えないという言葉にレアは戸惑うが、すぐにレアの馬車の中に隠れて乗り込んでいたチイが声を上げる。
「そうか、そういう事だったのか!!」
「うおっ!?そ、その声は副団長か!?一緒に居たのか!?」
「我々も乗っています」
「んしょっ……狭かった」
「ぷるりんっ(待たせたなっ)」
レアが乗り込んでいた馬車の荷物の中からティナ、ネコミン、シルも姿を現す。今回の作戦では前回にレアが同行していた3人は念のために荷物の中に身を隠していたのだが、オウソウの話を聞いて姿を現す。
木箱の中から現れたチイは考え込む素振りを行い、オウソウの話を聞いて敵の能力を分析し、結論へと辿り着く。そしてレアに振り返って敵の能力の正体を知らせた。
「レア、敵は私達と同じで「地図製作」の能力を所持している。そして、気配感知か魔力感知の技能を習得している!!だから見えない私達の位置を把握していたんだ!!」
「地図製作……そういう事だったのか」
チイの説明を受けてレアは納得し、風が強くて砂煙によって視界が悪い中、正確に自分達の位置を把握して攻撃を仕掛けてきた理由を知る。確かに地図製作の能力を覚えていれば相手の姿が捉えられずとも、敵の位置を探る事は出来る。
恐らくだが狙撃手のハナノの周辺一帯の地域をマッピングしており、視界に表示される画面を確認してレア達の位置を把握し、攻撃を仕掛けている。実際に目で見て攻撃を行っているとしたら完全武装したオウソウだろうと狙い撃ちしていただろう。
だが、砂煙によって視界が封じられた状態ではオウソウの装備までは確認できず、彼が大盾や鎧兜を身に付けているとも知らずに何度も攻撃を繰り返している。つまり、現在の狙撃手はレア達の位置を掴めて姿までは確認出来ない状態に陥っていた。
「くそ、盲点だった!!道理で今までの冒険者も不意打ちを喰らっていたわけだ……まさか、地図製作の能力を持つ狙撃手なら先手を打てるのも当たり前だ!!」
「嘆いている暇はありません。これからどのように行動しますか?」
「こうも風が強いと私の鼻も頼りにならない……二人ともどうしようも出来ないの?」
「無理だよ、俺とチイは地図製作を発動してもこの辺一帯を記録していないから敵の位置は掴めない」
相手が地図製作の能力を持つとは思わず、レアとチイは地図製作の能力の発動はしていなかった事が災いした。一方で狙撃手の方は先ほどから攻撃を中止し、馬車の中に引きこもったレア達を警戒しているのか、あるいはもう退散している可能性もある。
この状況下でレア達はどうするべきか悩み、敵の位置を把握できなければ対処は出来ない。だが、これまでに矢が撃ち込まれた方向からオウソウは敵のだいたいの位置を把握していた。
「隊長、恐らくだが敵は南東の方角から矢を撃ち込んでいる!!恐らく、その先にいるだろう!!」
「南東の方角か……よし、作戦は決まった」
「どうするんだレア?今回はシロとクロは連れていないから敵に接近しても逃げられたら厄介だぞ」
前回の時は狙撃手はファングを従えていたため、レアも追いつけずに見逃すしかなかった。しかし、今回は逃さないためにレアはクロミンとサンに視線を向け、二人の頭を撫でる。
「クロミン、サン……君たちの力を発揮する時が来たよ」
「ぷるんっ?(そうなの)」
「サンも?」
レアの言葉にクロミンとサンは不思議そうな表情を浮かべると、レアは二人に対して指先を構えた。
「解析――!!」
――同時刻、馬車から200メートル以上離れた位置に存在する丘にて一人の青年が存在した。青年の手には大きな弓が構えられており、その足元には毒液に浸した矢が並べられていた。
この青年こそがハナノの周辺地域に出没する盗賊の一人にして前回にレア達を襲った狙撃手でもあった。彼は商団を装ったレア達の馬車の位置を地図製作の画面で把握し、舌打ちを行う。
「ちっ……失敗したか」
弓を下ろした青年は画面上で動かない商団を確認して舌打ちを行い、警戒された事を知って退散するべきか迷う。今回は仲間を用意しておらず、彼の単独行動で動いていた。
(勇者とやらが乗っていると聞いていたが、結局は姿も能力も確認できなかったか……仕方あるまい、引き返すしかなさそうだな)
彼は既にレア達の作戦の情報を掴んでおり、彼等が商団を装って自分達を嵌めるために動いている事は知っていた。しかし、その作戦を逆に利用して敢えて青年は単独で動き、敵の様子を調べるために赴く。
情報源はハナノの街に潜伏する仲間からの報告で彼は勇者がハナノに赴いたと知った時、自分達の作戦が成功した事を悟る。なにしろ彼等がハナノの周辺に近付く商団や旅人を集中的に襲った真の目的は「勇者」をおびき寄せるためである。
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