第437話 囮作戦

「よし、じゃあ皆!!準備はいいね!?出発!!」



レアの合図の元、商団に偽装した数台の馬車が走り出し、とりあえずは近くの街に向けて出発を行う。馬車の他には数名の兵士が馬に乗り込んで護衛役として同行し、その中には大盾を装備する人間もいた。


既に盗賊の噂は知れ渡っているため、ハナノに赴く殆どの商団は盗賊の対抗策として守りに特化した護衛を雇っている。しかし、その護衛すらも打ち破って盗賊は何度も商団を襲い、物資を奪っていた。


ここで気になるのはどうしてハナノに近付く商団や旅人ばかりを狙うかであり、こんな事を続けていれば冒険者や王国の軍勢も黙っていない。実際に既に王都の冒険者ギルドは腕利きの冒険者を30名近くも送っているはずだが、盗賊は彼等を返り討ちにしてまでハナノの街に近付くに人間を襲い続けている事にレアは不思議に思う。


だが、どんな理由があるにせよ盗賊の行為は許される事ではなく、レア達は作戦に集中する。しかし、今日に限って運が悪い事に風が強く、砂煙が舞って周囲が見えにくい状況だった。



「勇者様!!風が強くて砂嵐のせいで視界が悪い!!流石にこれだと狙撃手も現れないんじゃないですか?」

「確かにちょっとこれはきつくなってきたな……一旦引き返す?」

「いや、それだと怪しまれるだろう。風が強いという理由だけで馬車が引き返す所を万が一でも知られたら正体がバレるかもしれんぞ」

「それもそうか……なら、次の街まで移動しよう」

「了解しました!!」



盗賊は何処から見ているかも分からず、商団が少々風が強くて視界が悪いという理由だけで街を引き返す光景を見られたら怪しまれる可能性を指摘され、レアは先へ進む事を提案する。


砂煙のせいで視界は悪いが移動できないほどではなく、商団は次の街まであと半分という距離にまで辿り着いたとき、異変が起きた。



「うぎゃあっ!?」

「がはぁっ!?」

「どうした!?お前達!?」

「う、後ろの二人が撃たれた!!止まってくれ……があっ!?」

「馬鹿なっ!?この砂煙だぞ、何処から撃ってきたんだ!?」



馬車の後方を護衛していた団員の3人が矢で撃たれ、異変に気付いた馬車は停車する。すぐに他の者が助けに向かおうとするが、その人間さえも撃たれてしまう。



「今、助けに……ぐあっ!?」

「おい!?大丈夫か!?」

「あ、ああ……足に掠っただけで……うぐっ!?」

「くそ、毒か!?」



助けに向かおうとした兵士は足元に矢が掠っただけだが、先日のように強力な毒が含まれているのか兵士は顔色を青くして倒れ込む。その様子を見てオウソウは馬車の中に用意しておいた大盾を取り出す。


何処から狙われているのかは分からないが、少なくとも馬車の後列から狙われている事は間違いなく、オウソウは両手に大盾を身に付けた状態で倒れている兵士の元へと向かう。



「おい、大丈夫か……うおっ!?」

「オウソウ!?」

「へ、平気だ!!盾に当たっただけだ……だが、なんという威力だ」



オウソウは倒れている兵士に駆け込もうとすると、右手に装着していた大盾に矢が衝突し、派手な金属音が鳴り響く。矢が衝突した箇所は凹んでいるのを見てオウソウは冷や汗を流し、もしも大盾を身に付けていなければ死んでいただろう。


どうにか矢を防いだオウソウは倒れている兵士達の元に駆け込み、周囲に気を配りながらも一人ずつ兵士を近くの馬車の中に移動させようと試みる。しかし、そんなオウソウの行動を読んだかのように再び矢が放たれた。



「うおっ!?」

「大丈夫か!?」

「へ、平気だ。今度は外れた。足元に刺さっただけだ」

「そ、そうか……」

「オウソウ!!こっちに投げて、サンが受け止める!!」



馬車の中のサンが声をかけると、オウソウはそれを見て手段は選んではいられないと判断し、矢が撃ち込まれた角度を確認して敵のだいたいの位置を予測し、危険を承知で大盾の一つを手放して兵士の身体を掴む。



「行くぞ、小娘!!」

「きゅろっ!!」

「うあっ……!?」



サンが存在する馬車に兵士を投げ込むと、彼女は両手を広げて受け止め、すぐに馬車の中に寝かせる。同じ手順で他の兵士も救出する事に成功すると、オウソウは自分も避難を行う。



「オウソウ、早くこっちの馬車に乗り込め!!」

「分かってる……ぐおっ!?」

「どうした!?」

「くっ……鎧に当たっただけだ。問題ない!!」



馬車に乗り込む際にオウソウは背中に衝撃が走ったが、黄金の鎧を纏っていたお陰で毒矢を弾き返し、馬車の中に逃げ込む。結果的には彼のお陰で後列を守っていた兵士達は救出され、すぐに解毒薬を飲ませる。


ちなみに市販の解毒薬では効果がないと言われてたため、今回はレイナが文字変換の能力で解毒薬の方も効能を強化させている。そのお陰で兵士達は解毒薬を口にした瞬間に症状が瞬く間に回復し、意識を取り戻した。



「皆、これを飲む」

「ううっ……はっ!?お、俺は何を……」

「ここは馬車の中か?」

「ううっ……何が起きたんだ?」

「お前達、無事か!?」



兵士達の声を聞いて隣の馬車に存在するオウソウは安堵する一方、先ほどまでの矢の攻撃を思い返し、彼なりに考察して一番先頭の馬車に存在するレアに話しかける。

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