第436話 狙撃の対抗策
「今までどれくらいの犠牲が生まれたのか教えて貰えますか?」
「正確な人数は我々の方も把握していませんが……ですが、これまでに雇った冒険者様は30人近く、そのうちの3名が金級冒険者様でした。しかし、3人とも毒によって……」
「死んだの?」
「い、いえ……一命は取り留めました。ですが……」
「ですが?」
街長のはっきりとしない発現にレイナ達は疑問を抱き、彼は少し答えにくそうに冒険者達の身に何が起きたのかを話す。
「3人とも実は毒矢を受けた時、狙撃手の方から接触して解毒薬を渡して貰ったのです」
「え?毒矢を撃ち込んだ本人が解毒薬を渡した?」
「言っている意味が分からないが……」
「我々の聞いた話によると、毒矢を使用した狙撃手は金級冒険者様の装備と所有物と引き換えに解毒薬を渡すと約束したそうです。3人ともその条件を飲むしかなく、毒を受けた肉体を治したといってました」
「何だと……!?」
チイは街長の話を聞いて立ち上がり、怒りと呆れが混じった表情を浮かべる。冒険者がよりにもよって敵と取引して命拾いしたという話には流石に他の者達も驚き、ティナも表情を険しくさせる。
一方でレイナの方は街に赴く商団や旅人だけではなく、討伐に出向いた冒険者さえも狙い、所有物を奪うという盗賊のやり方に疑問を抱く。そんな方法を繰り返せば流石にケモノ王国も黙っているはずがなく、冒険者ではどうしようもならないのならば軍隊を動かしてもおかしくはない。
「狙撃手以外にどれくらいの仲間がいるのかは分かりますか?」
「申し訳ありません、そこまでは分かりません。ただ、襲撃を受けた者の話によると奴等は大量のファングを従えているそうです。他に従えている魔物も何体かいますが、基本的にはファングを利用して襲い掛かってきます」
「ファングは足が速いからな、簡単に馬車には追いつくし、それに魔除けの石の波動にも抵抗力を持たせていた事を考えれば敵の中には余程調教が上手い魔物使いもいるんだろう」
「一筋縄ではいかない相手のようですね。どうしますか、レイナ様?」
「う~ん……」
レイナは色々と考え、とりあえずは敵を引き寄せる手段を考えなければならない。そのためには色々と準備が必要だと考え、街長に相談を行う。
「あ、そうだ。この街では馬車とか売ってますか?それと、連絡を取りたいんですけど――」
――数日後、ハナノの街には数台の馬車を購入したレイナと、王都から派遣して貰った白狼騎士団の団員が十数名集まっていた。今回の作戦には彼等の強力も必要であり、同時にレイナは文字変換の能力で久々に「勇者レア」の格好へと戻る。
馬車を購入した理由は狙撃手をおびき寄せるため、レアは「商団」を装うために商人の格好をする。白狼騎士団の団員を呼び集めたのはその人手が必要であり、彼等ならばいざという時にも戦えるため、戦力には申し分ない。
「よし、この格好なら俺達が騎士団の人間だとは思わないよね」
「……作戦は分かったが、どうして俺はこんな悪趣味な鎧を身に付けなければならない?」
「ははは、お似合いじゃないかオウソウ!!黄金の鎧に黄金の兜なんて、まるで成金趣味の商人の護衛兵みたいだな!!」
「やかましい、ぶっ飛ばすぞ!!」
今回の作戦にはオウソウも呼び寄せ、彼にはレアの護衛役として行動してもらうため、敢えて目立つ格好をしてもらう。オウソウには文字変換の能力で作り出した黄金の兜と鎧と盾と剣を身に付けさせ、その恰好を見た他の団員は笑い声をあげる。
オウソウとしてもこのような格好は不本意だが、今回の作戦は盗賊をおびき寄せるための大事な作戦である事は理解しており、渋々と指示に従う。なんだかんだで巨塔の大迷宮を突破した辺りから彼も他の仲間と打ち解け、上司の命令を聞くようにはなっていた。
「ごめんね、オウソウ。この役目は腕の立つ人間にしか出来ないからオウソウに頼めないんだよ」
「ふん、おだてた所で嬉しくもなんともないぞ」
「きゅろっ……オウソウ、尻尾が揺れてる」
「き、気のせいだ!!」
「それよりもサンは可愛くなったね、これなら何処からどう見ても貴族のお嬢様にしか見えないや」
「きゅろろっ」
今回の作戦はサンも同行し、彼女は立派なドレスを着こんでいた。前回の襲撃の際にサンは馬車の中に待機していたので狙撃手には気づかれていない可能性が高く、万が一の戦闘要員として同行させる。
「ぷるんっ」
「クロミンも立派な王冠だね。でも、その姿で巨大化して青くなったら駄目だよ?」
「ぷるんっ(なんのこっちゃい)」
サンのペット役としてクロミンも同行し、彼には小さな王冠を頭に乗せていた。ちなみに他の面子は馬車の中に隠れておくように指示を出しており、準備を整えたレアは出発を指示した。
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