第435話 狙撃 その3

「待てっ!!逃がす……うわっ!?」



レイナは逃走する敵を追いかけようとしたが、足元に矢を放たれて泊まってしまう。走行中でも相手はレイナを狙い撃つ事が出来るらしく、その腕前から恐らくは最初に走っていた馬車の馬を撃ち殺したのと御者のチイを狙った狙撃手は逃げ去っていく人物だと判断する。


このまま追いかけようとしても相手はファングに乗っているため、レイナでも本気で走らなければ追いつけない。しかも相手から常に狙撃される危険性を考慮して追いかける危険性を考えると、残念だが諦めるしかない。



「この矢……毒が塗られている。という事はやっぱり最初に撃ってきたのはあっちの方か」

「レイナ!!無事?」

「あ、ネコミン……そっちも大丈夫だった?」

「問題ない、馬車も皆も無事」



追いかけてきたネコミンがレイナと合流し、特に怪我を負っていないレイナを見て安堵する。一方でレイナは投げ飛ばしたフラガラッハを回収すると、一先ずは倒れ込んだ男二人に顔を向け、自分達を襲った理由を尋ねようとした。



「おい、顔を上げろ。お前らがこの街の付近に現れる盗賊だな?」

「「…………」」

「黙ってないで、何とか言え……!?」

「レイナ、こいつら……もう死んでる」



レイナは最初に小堤を食らわせた男の肩を掴んで立ち上がらせようとしたが、いったい何が起きたのか男は泡を吹いた状態で倒れており、もう一人の方も同じ状態だった。


まさか自分が力加減を誤って殺してしまったのかとレイナは焦るが、男達の顔色は異常なまでに青く、その様子を確認したネコミンはすぐに二人の死因が毒だと見抜く。



「……これを見て、二人の身体に毒矢が突き刺さっている」

「毒矢!?そんな馬鹿な、何時の間に……まさか!?」



レナは逃げ出した狙撃手が最初に自分に矢を撃ち込んだ際、状態を逸らして回避した事を思い出す。あの攻撃は最初から自分を狙った攻撃ではなく、レイナが他の二人から目を離した隙に毒矢を撃ち込んだのかと冷や汗を流す。


一瞬にして3人の人間に矢を撃ち込んだ敵に対してレイナは焦りを抱き、しかも仲間だと思われる相手を躊躇なく殺している時点で狙撃手の冷酷さが伺える。これでは男達から情報を聞きだす事も出来ず、厄介な事態に陥った――





――その後、一先ずはレイナ達は無事だった馬車と共にハナノの街へ辿り着き、盗賊だと思われる男達の遺体を運んで警備兵へ引き渡す。だが、残念ながら確認した限りでは二人の素性は分からず、指名手配されるほど大物ではない事が発覚した。


依頼人であり、この街の管理者でもある「街長」からレイナ達は話を聞いたところ、過去にも盗賊の討伐に参加した冒険者が捕まえた盗賊が殺されるという事態があったらしく、今まで盗賊の手がかりを掴めないのはレイナ達を襲った「狙撃手」の仕業だという。



「我々も何度か腕利きの冒険者様を雇い、警備兵を総動員して盗賊の始末を行おうとしました。しかし、敵には余程腕のいい狙撃手が存在するようで、今まで誰一人として盗賊を生きたまま捕まえる事が出来ませんでした……それどころか、敵の扱う毒矢のせいでこちらの被害は増す一方です」

「そうだったのですか……」

「冒険者様も毒矢の対策のために解毒薬を常備したり、甲冑を纏った方もいましたが、敵は相当な手練れで市販の解毒薬ではどうしようもないほどの強力な毒矢を使用し、更に甲冑を貫くほどの威力の矢を放ちます。恐らくですが相当に高レベルの「射手」か「狩人」の称号を持つ敵がいるのでしょう」

「甲冑を貫くって……」



この世界の称号持ちの人間の中には常識離れした力を持つ人間は珍しくはなく、レイナやティナも特に良い例である。高レベルの射手が放つ弓矢は現実世界の銃器にも匹敵し、下手な甲冑では簡単に撃ち抜かれるらしい。


今までも何十人の冒険者が依頼を引き受けて挑んだが、結局は誰一人として盗賊を捕まえられず、返り討ちにあった事から街長も最初はレイナ達が訪れた時は特に期待していない様子だった。実際、現れたのがまだ全員が若い女性の冒険者だと知った時はあからさまに落胆したが、ティナが黄金級冒険者であると知ると態度を一変させて彼女に頼み込む。



「お願いします、黄金級冒険者様!!どうかこの街をお救い下さい、そのためなら何でも協力します!!」

「……分かりました、全力を尽くします。但し、私はあくまでも手伝いのために同行しただけです。そういった事は冒険者集団パーティ団長リーダーであるレイナ様に相談して下さい」

「えっ……ティナ様が団長ではないのですか?」



黄金級冒険者であるティナが冒険者集団を率いていると思い込んでいた街長は驚き、慌ててレイナへと振り返る。正確に言えば別にティナは正式に銀狼隊に加入したわけではなく、そもそも銀狼隊の団長はリルである。


だが、彼女の不在の今はレイナが臨時で団長を任せられている立場であり、とりあえずは街長に対してレイナはともかく盗賊に関する情報を教えて貰う。

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