第434話 狙撃 その2

「新魔法……水霧!!」

「おおっ!?」

「これは……霧を作り出したのか!?」



コトミンが両手を向けた瞬間、彼女の掌が青色の光を放つと、スラミンとシルが吐き出した水が突如として蒸発するかのように煙と化し、やがて霧へと変化して周囲を覆い込む。


周囲が霧によって覆われたため、遠方から狙撃を行っていた敵もレナ達の存在を確認できなくなったのは間違いなく、この好きにファングの群れを討伐するためにティナが乗り出す。



「ファングは私が仕留めます!!その間に皆さんは射手を探してください!!」

「分かった……外に出れば臭いで敵の位置を探る事が出来る」

「分かった、ここは任せるよチイサン!!」

「へ、変な呼び方は止めろ!!」

「きゅろっ!!サン達は馬車を守る!!」

「ぷるるっ……(←いつも通りに水を吐き出して萎れた)」

「ぷるるんっ(←水筒で水分補給中)」



ティナの言葉に全員が即座に行動を移し、ネコミンは外に飛び出すと臭いを嗅ぎ分けて敵の位置を探り、チイとサンは馬車の守護を行い、ティナはファングの群れを一人で相手にする。


レイナはネコミンの護衛を務め、彼女を狙撃手から守りながら敵の姿を探す。霧のお陰で周囲は見通しにくくなっているため、敵の位置を視覚で探るのは不可能に等しい。しかし、獣人族の中でも嗅覚に特化したネコミンはすぐに臭いを嗅ぎ分けて狙撃手の位置を見抜く。



「レイナ、こっちの方向に敵がいる……まだ動いていないと思う」

「こっちか……霧を抜けたら狙われるかもしれない、ネコミンはここにいて」

「一人で大丈夫?」

「大丈夫だ、問題ない」

「……そのセリフ、凄く不安に感じる」



敵の位置を把握したレイナは鞄に手を伸ばし、フラガラッハを引き抜く。相手が人間の場合はフラガラッハだけでも十分だと判断すると、前方へ向けて駆け出す。


レベルも上昇し、更に「神速」と「俊足」の効果によって現在のレイナは人間でありながら獣人族を上回る速度で走る事が出来る。その素早さは白狼種や黒狼種にも匹敵し、霧を抜け出すと一気に加速して駆け抜ける。



(敵は……あいつか!!)



霧を抜け出した途端、レイナは岩陰に隠れている弓矢を装備した男を発見し、どうやら一人ではなかったのか男の傍にはもう一人剣士のような男が存在した。それを見てレイナはフラガラッハを握りしめて一気に距離を詰める。



「はぁあああっ!!」

「なっ!?こ、こっちに来やがった!!」

「馬鹿、早く撃てっ!!」



弓矢を構えた男に剣士が怒鳴りつけると、慌てて狙撃手は矢を撃とうとしたが、その前にレイナはフラガラッハを狙撃手に向けて投げつける。その結果、フラガラッハは見事に弓に的中して破壊に成功した。



「うぎゃあっ!?」

「なっ!?剣を投げるなんて……この小娘が!!」

「おっと」



剣士は武器を失ったレイナに向けて剣を振り下ろすが、それに対してレイナは軽く回避して先に狙撃手の方へと近づく。弓矢を失った男は慌てて逃げようとしたが、レイナの移動速度に敵うはずがなく、腹部に掌底を食らわせられる。


手加減はしたが、レイナの掌底を受けた男は苦悶の表情を浮かべて膝を崩し、嘔吐した。その光景を確認した男は慌てふためき、剣を持っていたので相手を剣士だと思い込んでいたが、掌底一発で相棒を沈めた姿を見てレイナの事を格闘家だと勘違いした。



「お前、剣士じゃないのか!?」

「剣はよく使いますけど、違います」

「くっ、そうか!!剣闘士だったのか!!」

「剣闘士?」



初めて聞く単語にレイナは疑問を抱くが、自棄になった剣士はレイナに向けて刃を振り下ろす。その光景を確認してレイナは両手を広げると、真剣白刃取りを実行した。



「ふんっ!!」

「うなっ!?」



左右から勢いよく掌を叩きつけられた剣士の剣は刃が折れてしまい、その光景を見て剣士は唖然とする。一方でレイナの方もまさか受け止めるつもりが刃をへし折る事態になった事に驚き、すぐに気を取り直して男の身体を掴む。


普段からレイナは騎士団の面子に手ほどきを受けており、素手で敵と対峙した時の術も教わっている。また、地球の格闘技の知識を生かしてレイナは剣士を投げ飛ばす。



「一本背負い!!」

「うぎゃあっ!?」



柔道の一本背負いで剣士を地面に叩きつけると、レイナの馬鹿力のせいで剣士は気絶してしまい、残された狙撃手も未だに腹部を抑えて苦悶の表情を浮かべて悶絶していた。


その様子を見てレイナは安堵したのも束の間、視界の端に自分の顔面に迫りくる矢を確認して咄嗟に上体を逸らして回避する。



「うわっ!?」



矢を回避する事には成功したが、何処から撃たれたのかとレイナは辺りを見渡し、そして100メートル以上も離れた場所にファングに乗り込んだ人物が存在するのを確認する。狙撃手が二人存在したという事実にレイナは驚き、一方で相手の方はすぐにファングを走らせて離れていく。

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