第433話 狙撃

「す、すまない……助かった」

「お礼を言うのは早いかも……何処から撃たれた?」

「分かりません……外に出て確かめない限りは」

「ぷるぷるっ……」



ティナは鎧を身に付ける暇もなく、彼女は自分の大剣を握りしめて外の様子を伺う。そして彼女は頭を射抜かれた馬と馬車に突き刺さった矢を確認し、すぐに異変に気付く。



「これは……どうやら毒矢のようです。しかも相当に強い毒が塗られているようです」

「うん……この臭い、かなり強い毒」

「ぷるぷるっ(怖い)」

「きゅろろっ……」



頭を貫かれた馬は射抜かれた箇所が紫色に変色し、馬車に突き刺さった矢の方も同様の毒が塗られていた。この事から相手は確実に殺すつもりで矢を撃っている事が判明し、例の盗賊が現れたと考えるのが妥当だろう。


馬を射抜いたのは逃げられないようにするためだと思われるが、馬車を引いていた1頭しか狙われておらず、もう1頭に関しては何故か放置されていた。


どうして最後の馬を始末しないのかは不明だが、もしかしたら敵の狙いは馬車その物かもしれず、中にいるレイナ達を始末して馬車ごと奪い去ろうとしている可能性もある。だからこそ馬は全て殺す事はせず、馬車の中に隠れたレイナ達が出てくるのを待ち構えているのかもしれない。



「くそ、姿さえ分かれば……ネコミン、敵の位置は分からないのか!?」

「流石に外に出ないと分からない。でも、外に出れば狙い打たれる」

「私が出向いて探しますか?」

「え、大丈夫なの?」

「飛んでくる矢など叩きと落とせば問題はありません」



ティナ曰く、彼女の技量ならば放たれた矢を弾き返す事も出来るらしく、自分が外に出向いて敵の姿を探すべきか尋ねる。他に方法がなければ彼女に任せるしかないのだが、レイナは地図製作の技能を思い出す。



(そうだ、馬車が通った場所に敵がいれば反応があるかも……)



地図製作の技能を発動させたレイナは視界に画面を表示させ、地図を確認して気配感知と魔力感知の技能も同時に発動させて敵の位置を探る。敵が範囲内に存在すればマーカーが表示されるのだが、ここで予想外の出来事が起きた。


レイナの視界に表示された画面に突如として複数の敵のマーカーが出現し、驚いた彼女は馬車の後方を振り返ると、灰色の狼の集団が迫っている事に気付く。



『ウォオオンッ!!』

「あれは……ファングか!?」

「こっちに向かってきてる……」

「こんな時に限って!!いえ、もしかしたらこのファングも敵の……!?」



立ち止まった馬車の元にファングの群れが接近している事を知ったレイナ達は戦闘準備を整えるが、ここで下手に外に飛び出せば矢で射抜かれる可能性を考慮する。敵の狙いがファングと戦うためにレイナ達を狙う撃つ事ならば迂闊には動く事は出来ない。


しかし、このまま馬車の中に留まればファングの群れが到着し、逃げ場のない馬車の中に乗り込まれてしまう。そうなればレイナ達は馬車の中で戦わなければならないのだが、それ相応の人数が馬車に乗り込んでいるため、武器を振るうだけでも他の人間を巻き込む可能性がある。その場合は思うように戦えず、一方でファングは容赦なく襲い掛かるだろう。



(何か方法は……あ、そうだ!!)



レイナはある事を思い出したように木箱を開くと、ファングが到達する前に箱の中からある魔石を取り出す。そして馬車に近付いてきたファングに向けて構えた。



「これならどうだ!?」

「魔除けの石!?そうか、これがあれば……」



木箱の中にはレイナが改造を加えた魔除けの石も入っており、この魔除けの石が放つ波動を受ければ大抵の魔物は嫌がり、近づく事もできない。


レイナの行動にその手があったかとチイは感心するが、ファングの群れはレナが魔除けの石を取り出しても特に怯む様子もなく、接近してきた。その様子を見てネコミンは呟く。




「駄目、このファングたちもシロやクロのように魔除けの石の魔力の反動を耐える訓練を受けてるみたい」

「ええっ!?」

「戦うしかありません!!私が迎え撃ちます!!」



魔除けの石すらも効果はなく、ファングの群れは止まらずに馬車へと接近する光景を見てティナは大剣を握りしめる。レイナは仕方なく自分も戦おうと木箱を開き、デュランダルを取り出そうとしたとき、ネコミンがクロミンとシルを抱えて前に出る。



「仕方ない、こうなったら私の新しい必殺技を試す」

「ネコミン!?何をする気だ?」

「いいから見てて……クロミン、シル、みずてっぽー」

「「ぷるっしゃあああっ!!」」



ネコミンの言葉に従って2匹のスライムは口内から大量の水を放出し、まるで消防車の放水の如く凄まじい勢いで水が外に放出された。その結果、広範囲に水が飛び散ると、ファングの群れの前に水たまりが出来て先頭を走っていた集団が転ぶ。



「ウォンッ!?」

「ギャインッ!?」

「ガアッ!?」



先頭集団が水たまりに嵌まった事で後列のファングたちは慌てて止まろうとしたが、その隙を逃さずにネコミンは両手を前に差し出し、外に散布させた水を利用して魔法を発動させる。

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