第431話 残された依頼書

「やりましたねレイナ様、遂に残された依頼書も3つです」

「金級冒険者まではあと少し、油断したら駄目」

「う~ん、なんか本当にこんな感じでいいのかと思い始めたけど……まあ、別に不正はしてないからいいのかな」

「はあっ……あんたね、言っておくけど残った依頼はそう簡単に達成できる内容じゃないよ?」



レイナの手元に残された3枚の依頼書はどれもこれもが討伐系の依頼であり、その内の1枚に関しては魔物ではなく、盗賊に関連する依頼書だった。


盗賊の討伐に関する依頼書の内容を確認すると、どうやら王都から結構離れた場所に存在する「ハナノ」という街の付近で盗賊が出没し、街に訪れようとする商団や旅人が被害を被害を受けているという。


盗賊の規模は少なくとも50名は存在し、早急に盗賊を討伐して街を守って欲しいという内容だった。そして、この依頼の生殺与奪は冒険者に一任すると記されていた。



「この依頼書、結構前に張り出されているようですけど……誰も盗賊を討伐出来なかったんですか?」

「それがね、何組か腕の立つ冒険者集団パーティを送ってみたんだけど、結局は返り討ちにされたんだよ。どうやら盗賊の中に魔物使いがいるようだね」

「魔物使い……?」

「あんたも聞いた事ぐらいはあるだろ?魔物を使役して戦わせる力を持つ魔術師さ、普通の魔物は人間なんかには従わないんだけど、魔物使いの場合は自分の力量レベルに見合った魔物を従える力を持っているのさ」

「「魔物使い……」」

「ちょっと、なんで二人とも俺を見るの」



魔物使いという単語にティナとネコミンはレイナに視線を向け、黒竜(クロミン)を従えるレイナもある意味では魔物使いと言える。しかし、レイナの場合はクロミンを文字変換の能力で服従化させているだけに過ぎず、別に使役しているわけではない。


ただの盗賊ならば他の冒険者が対応できたのだが、魔物使いが敵の中に含まれると非常に厄介な事態に陥ったという。今まで依頼を引き受けた冒険者が返り討ちにするほどの強力な魔物を従えている事は明白であり、そんな盗賊に自分一人で立ち向かう事にレイナは少し不安を抱く。



「う~ん……街の近辺に出現する盗賊を捕まえろと言われても、一人で捜索するとなるとかなり時間が掛かりそうですね」

「ああ、ごめんごめん。そういえば言い忘れてたよ、その依頼に関しては冒険者集団パーティを組んで挑んでもいいよ。なんだったら他の冒険者集団パーティを協力者として同行しても構わない。費用に関しても冒険者ギルド側が持つよ」

「え?いいんですか?」

「ああ、うちとしても依頼人からはやくどうにかしてくれと急かされているからね……だけど、挑むのなら本当に気を付けるんだよ。どうもあたしの勘が、この依頼に指定されている盗賊はただの盗賊とは思えない。この仕事を引き受けるというのなら十分に気を付けな」

「はい、分かりました」



レイナはリンの言葉に頷き、とりあえずは盗賊の討伐に関する依頼書は期日も迫っているという理由もあるため、まずはこちらの依頼書から引き受ける事に決めた――






――それから二日後、レイナ達は依頼書に指定されたハナノという街へと辿り着く。ちなみに今回の依頼はリンの許可も得たため、ティナとネコミンも同行しており、更にチイも一緒に来てくれた。


出発前に王城に戻ってリンに相談したところ、彼女は馬車を用意してくれた。チイに関しては人手が必要だと思ったリルが派遣し、更に念のために彼女は近日中に白狼騎士団を街に送り込む準備を行う。


依頼の内容はあくまでもレイナの率いる冒険者集団パーティが盗賊を討伐しなければならないのだが、依頼人や被害を受けた人間の事を考えれば盗賊は早急に討伐しなければならない。だからこそレイナ達だけでは盗賊を見つけ出せない場合、白狼騎士団を送り込み、盗賊の対処をさせるつもりだった。



「見えてきました、あそこがハナノという街です」

「遂に辿り着いたか……ここまでの途中で盗賊の奴等が私達を襲ってくれれば都合が良かったが、そう上手くはいかないか」

「ぷるぷるっ」

「きゅろっ……やっと着いた?」



同行者の中には勝手に荷物に潜り込んで馬車の中に隠れていたサンとクロミンも存在した。二人が勝手についてきた事にレイナは驚いたが、相手の中に魔物使いが存在するのならばクロミンの場合はいざという時の戦力のため、結局連れていく事に決めた。


敵がどのような魔物を使役しているのかは不明だが、襲われた冒険者から事情を聞いた所、敵が従えている魔物は「赤毛熊」と呼ばれる熊型の魔物だと判明する。帝国から抜け出す際にレイナが倒した魔物でもあり、現在のレイナならば大した脅威ではない。


但し、依頼を失敗した冒険者の中には白銀級冒険者も多数含まれ、決して油断できる相手ではない。そのためにリルも用心のために白狼騎士団を派遣し、万が一の場合は依頼を放棄して白狼騎士団と共に盗賊の討伐に挑むようにレイナは注意されていた。

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