第430話 白銀級合格確定

「ちょ、ちょっと待ちな……あんた、何を言ってるんだい」

「だから、依頼に指定された素材を持ってきました」

「いや、持ってきたって……あんた、さっき出て行ったばかりじゃないかい!?」

「はい、ちょっと用意するのに時間が掛かりました」



リンの言葉にレイナは自分の鞄を机の上に置くと、収集系の依頼書を確認して指定された回収素材を次々と取り出す。高純度の水属性の魔石、ミノタウロスの角、ゴブリンの経験石、どれもこれも入手困難な代物ばかりだった。


机の上に置かれた素材を確認してリンは目を見開き、どれもこれも本来ならば入手するのが非常に困難な代物だった。ティナもレイナが取り出した素材を見て驚き、一方でネコミンが何かを悟ったような表情を浮かべ、レイナの耳元に囁く。



「レイナ、ズルした」

「失礼な……素材を作ったら駄目なんていう条件はなかったよ」

「ぷるるんっ(どういう事?)」




――少し前、レイナは冒険者ギルドの裏手に移動して誰もいない事を確認すると、適当な道具を利用して「解析」と「文字変換」の能力で必要な素材を作り上げたのである。ちなみに今回に変換した文字は「魔石」「角」「経験石」と打ち込んだだけで作り出せた。



文字が曖昧の場合でもレイナが想像した代物が出現する法則を利用し、最小限の文字数で必要な素材の回収を行えた。運が良い事に今回の報酬の内の二つはレイナも実物を目にした代物だったので作り出す際は特に苦労せず、高純度の地属性の魔石だけは見た事もない代物なので作り出すのに少々時間が掛かったが、無事に出来上がった。


存在を知らない道具の場合は正式な名称で変換するか、あるいはレイナが心の中で「〇〇に変化しろ」と強く念じなければならない。そういう意味では見た事がない水属性の高純度の魔石は作り出せるのかは不安だったが、無事に変化した事に安堵する。



「し、信じられない……全部、本物だね」

「当たり前じゃないですか。偽物なんか用意しませんよ」

「いや、けどあんた……これ、最初から持っていたんならなんで初めから提出しなかったんだい!?」

「えっと……鞄の中に指定されていた素材が入っていたのを偶然思い出しまして」

「偶然って、あんたね……この3つがどれだけ貴重な代物なのか理解しているのかい!?しかもこいつに至っては貴重な経験石だよ、自分で壊して経験値や固有スキルを手に入れようとは思わなかったのかい?」

「あ、いやゴブリンの経験石は前にも壊した事があるので、それはお土産の品物にでもしようかと……」

「お土産!?経験石を!?」



レイナの発言にリンは呆気に取られ、一方でティナの方も瞬く間に素材を用意してきたレイナに戸惑う。彼女にはまだ解析と文字変換の詳細な能力は説明しておらず、レイナは勇者だから不思議な能力を持っているとしか知らない。


一方でネコミンの方は驚いているリンを落ち着かせ、早く達成した依頼書の受理を行うように促す。こうして話し込んでいる間にも時間は過ぎてしまい、レイナが受けている依頼の期日が迫る。



「リン、意地悪しないで早く依頼書を受理して」

「いや、別に意地悪しているわけじゃ……ああ、もう。仕方ないね、ほら貸しな!!」

「あ、はい」



本来は招集系の依頼の場合は回収した素材を入念な検査が行われ、依頼人が受け取った後に受理されるのだが、レイナが持ち帰った代物はどれもこれもが見ただけで分かるほどに完璧な状態で保存されていた。それを確認したリンは依頼書を受け取ると、判子を押す。


これで早くも3つの依頼書を達成したレイナだが、更に収集系の依頼書とは別にレイナは気になった内容の依頼書を取り出してリンに差し出す。



「それと、この王都の近辺の草原で目撃情報があった黒色の牙竜の調査に関してなんですけど……これって何なんですか?」

「ああ、それかい?実は数日ぐらい前に何組かの冒険者集団パーティが王都の近辺で牙竜を発見したという報告が届いているんだよ。最初は何の冗談かと思ったんだけどね、確かに牙竜と思われる痕跡が残っていたのを確認して困ってたんだよ」

「「「あ~……」」」

「ん?なんだい、あんたら?何か知ってるのかい?」



黒色の牙竜に関してレイナ達は心当たりがあり、どのように報告すべきか悩んでいると、仕方がないとばかりにレイナはリンに微笑みながら人気のない場所まで誘導する。



「リンさん、ちょっといいですか?」

「何だい急に……」

「いいから早く」

「どうぞ、こちらへ……」



レイナ達はリンを連れ出すと、他の人間に聞かれないように話し合い、その光景を見ていた冒険者達は何事を話し合っているのかと疑問を抱く。やがてリンは驚愕の表情を浮かべ、困惑した様子を浮かべると、大きなため息を吐き出す。


受付に戻った彼女はレイナから受け取った黒竜の調査に関する依頼書を見つめると、大きなため息を吐きながらも判子を押し、レイナに告げた。



「……おめでとう、とりあえずはあんたの白銀級冒険者の合格は確定したよ」

「やった!!」

『ええええっ!?』



試験を開始してから数分足らずで依頼書の半分を達成したレイナに冒険者達は呆気に取られ、一方でティナとネコミンはレイナに対して拍手を行う。

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