第429話 塩漬け依頼の連続解決

レイナ達の様子を見ていたギルドの冒険者達は興味深そうにレイナ達の様子を観察する者、にやにやと笑い顔を浮かべる者、あまりの仕打ちに同情する者もいたが、リンとしてはこれぐらいの条件を果たせなければ金級冒険者には相応しくないと考えているため、一切退く気はなかった。


ティナとネコミンはリンの出す条件に不満を抱くが、レイナの方は特に顔色も変えず、今回の試験の厳しさに文句はない。普通に考えれば本来ならば地道に依頼を達成し、評価点を集めて試験を受けなければならないのに昇格試験の機会を与えられただけでも感謝するべき事だと考える。



(結構な数があるな……それに期日も迫っているのもある。これを全部解決するとなると時間が掛かりそうだな)



全ての依頼書に目を通していくレイナに対してリンも流石に無茶な条件を押し付けたかと思ったが、彼女は一応は試験の合格の条件を付けくわえた。



「ああ、そうだ。もしもあんたがその依頼書の半分まで達成できた場合は白銀級の昇格を認めてあげるよ。全部達成すれば金級冒険者の昇格、半分だけなら白銀級冒険者への昇格、これがギルドの最大限の譲歩だよ」

「え?半分だけでも達成したら白銀級の昇格を認めてくれるんですか?」

「そういう事さ、だけど金級への昇格に関しては依頼を全て達成しない限りは認めないよ。もしも依頼の一つでも失敗すればあんたを金級冒険者とは認められない。この条件で試験を受ける覚悟はあるかい?」

「はい、分かりました」

「レイナ?」

「レイナさん!?本当にいいんですか?」

「ぷるるんっ(マジかよ)」



レイナはあっさりとリンが出した条件を引き受けると、とりあえずは全ての依頼書の手続きを行い、ここから先は一人で解決する事を決意した。リンはそんな彼女に対して自分から出した条件とはいえ、本当に平気なのかと心配する。



「あんた、本当に試験を受けるのかい?いや、別にこっちとしては止める事はできないけどさ……一応は言っておくけど、白銀級の昇格試験だけなら今から実技試験と筆記試験を受けるだけでも良いんだよ?」

「でも、その場合だと金級への昇格は出来ないんですよね?」

「まあ、それはそうだね」



リンがレイナが試験の変更を望むのならば正式に白銀級冒険者の昇格試験を受けさせるつもりだったが、最初に提示された条件を達成すれば金級冒険者へ合格できるとあればレイナが挑まない理由はない。それに依頼の半分まで達成するだけで白銀級冒険者になれるのであればレイナとしては不満はない。


黄金級冒険者の捜索とレイナ自身も黄金級冒険者への昇格する事をリルから言付かっているレイナとしては方法は早急に黄金級冒険者になるため、方法を選ぶ選択肢はない。全ての依頼書に目を通してレイナはリンに手続きを行ってもらい、ここから先は一人で試験を受ける事を告げた。



「じゃあ、ティナとネコミンは悪いけどしばらくは一人で頑張るから、二人は一旦自分の仕事に戻ってね」

「分かりました……レイナ様がそこまでおっしゃるのならば私は止めません」

「レイナ、頑張って……金級冒険者に昇格したら皆でお祝いする」

「ぷるりんっ(頑張れ)」

「うん、ありがとう……じゃあ、行ってきます」



レナは複数の羊皮紙をまとめて冒険者ギルドの外へと飛び出し、その様子を冒険者達は呆れた表情で見送る。今まで誰も手を出さなかった塩漬け依頼を一人でしかも数枚分の仕事を受けようとするレイナに呆れるのも無理はない。



「あの女の子、本気であれだけの数の塩漬け依頼をどうにか出来ると思ってるのか?」

「いや、絶対に無理だろ……あ~あ、可愛そうに」

「ほっとけよ。黄金級冒険者の知り合いに頼んで階級を昇格させようとする奴なんて碌なもんじゃねえ」

「それもそうだな、金級冒険者になりたいからって欲を出したのが間違いなんだよ。普通の試験を受ければいいのに……」



冒険者達はギルドから立ち去ったレイナの陰口を叩き、その様子を見てネコミンは眉を顰め、ティナも面白くない表情を浮かべる。


流石にリンも黙っていられずに冒険者達を黙らせようとしたとき、外へ飛び出してから1分も経過しないうちにレイナが戻ってきた。その姿を見て冒険者達は驚き、一方でレイナは羊皮紙を確認しながら受付のリンの元へ向かう。



「ただいま戻りました」

「いや、戻りましたってあんた……何か忘れ物をしてきたのかい?」

「いえ、収集系の依頼書に記されている物品を全部集めてきたので確認してください」

『何ぃいいっ!?』



あまりにも早く戻ってきたレイナにリンは戸惑い、そんな彼女に対してレイナは3枚の羊皮紙を提出すると、机の上に鞄を置く。リンは慌てて依頼書の確認を行い、本当に記されている内容の物品の回収を終えたのかを尋ねる。

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