第426話 ティナの覚悟

「分かりました。ではすぐにレイナさんを白銀級冒険者への推薦状をしたためます」

「え?あ、ありがとうございます」

「あ、それと他の黄金級冒険者の居場所とかは知らないんですか?」

「残念ながらそちらの件に関しては私も何も……同じ黄金級冒険者といえど、他の御二方とはあまり接点がありませんでしたので」

「そうか……なら、レイナ君にはこのまま冒険者活動を続けて貰い、調査を行ってもらいたい。それと、ティナ殿には他に話したいことがある。後で部屋に来て貰えるか?」

「はい、分かりました」



ティナはリルの言葉を承諾し、話し合いが終わり次第に彼女はレイナ達と共にリルの部屋へと招かれた――






――改めて黄金級冒険者のティナを歓迎するためにリルは自室へと招き、全員分の紅茶を用意する。部屋の中にはレイナ、ネコミン、チイ、リリス、ハンゾウ、サンも含まれ、クロミンとシルにも更に紅茶を注いで与える。



「はい、二人とも床を汚さないように気を付けて飲んでね」

「「ぷるるんっ」」

「スライムも紅茶飲むんですね……熱くないんですかね」

「そもそもスライムに紅茶を与える人間なんて初めて見たぞ……」

「仲間外れは良くない」



当たり前の様にスライム達にも紅茶を与えるレイナにリリスとチイは半ば呆れるが、ネコミンはレイナの行動に感心したように頷く。


その一方でティナはリルと向かい合う形で椅子に座り込み、一国の王女であるリルとまさか紅茶を味わう機会が訪れるなど思いもせず、緊張した様子だった。



「まあ、まずは落ち着こうじゃないか。ほら、遠慮せずに紅茶を飲んでくれ」

「は、はい……いただきます」

「お、今日のお茶菓子は豆大福ですか。レイナさんが作ったんですか?」

「うん、偶には和菓子も食べたいなと思って……」



机の上にはレイナが文字変換の能力で作り出した「豆大福」が存在し、久しぶりの和菓子にリリスは嬉しそうな声を上げる。一方でリル達の方は初めて見る食べ物に興味を抱き、緊張した様子で口に含む。



「ふむ……これは、美味しいな。中に豆が入っているのか?」

「そうですよ、普通の大福よりも歯ごたえがあって美味しいでしょう?」

「これは……前にハンゾウが持ってきた餅という食べ物によく似ているな」

「拙者の国にも存在するお菓子でござる」

「お、美味しい……!!」



ティナは甘い物が好きなのか豆大福を口にした瞬間に目を見開き、感動したように身体を震わせる。その様子を見てリルは彼女の緊張が解れたと判断すると、早速だが話を切り出す。



「食べながらでいいから聞いてくれ。君の事はレイナ君とネコミンから伺っているよ。まさか、一人で牙路に向かおうとするなんて無茶な事をするね」

「お、お恥ずかしい限りです。レイナ様がいなかったら、私はきっと牙竜に襲われて死んでいたでしょう」

「いやいや、気にしないでください……え、レイナ様?」

「はい、レイナ様は私にとっての恩人です。ですのでこれからは私はレイナ様のために尽くしたいと考えています」



自分の事を様付けしてきたティナにレイナは驚くが、ティナからすれば長年の悲願を果たしてくれた大切な恩人を様付けするのは当たり前の話だった。当然、レイナだけではなく落ち込んだ自分を慰めてくれたネコミンやサンにも深い感謝の念を抱く。


ティナの態度にレイナは戸惑うが、ここでリルは謁見の間での彼女の態度に納得し、ティナが義理堅い性格の持ち主だと知る。彼女は自分を助けてくれたレイナ達のため、全力を尽くす事を約束してくれた。



「レイナ様とネコミン様、それにサン様のお陰で私は故郷へ帰り、けじめを付ける事が出来ました。この恩を返すまで私は御三方のために全力を尽くします」

「いや、別にそこまで気負わなくても……」

「まあ、いいんじゃないですか?話を聞く限り、ティナさんにはレイナさんの正体を話したんでしょう?なら、このまま黙って返すわけにもいきませんよ」

「全く……お前達は自分の立場を分かっているのか?自ら正体を話すなど……」



既にリル達はティナがレイナの正体を知っている事を把握しており、状況的に仕方なかったとはいえ、レイナは彼女の前で勇者としての力を見せてしまった。それに聖剣の件やキャンピングカーもあって勇者である事を隠していても彼女に怪しまれるのは明白だった。


怪しまれるくらいならば自分から話した方がいいというネコミンの言葉に従い、レイナは自分がケモノ王国へ迎え入れられた勇者である事を話す。流石にヒトノ帝国からこの国に至るまでの経緯は省いたが、とりあえずはレイナの不思議な能力が勇者の力だと知ったティナは納得する。



「レイナ様達を責めないでください。私は何があろうとレイナ様の秘密は隠し通します」

「ふむ、まあ知られてしまった以上は仕方がない。それと君の話しぶりだと、今後もレイナ君のために協力してくれるのかい?」

「はい、今回の件が終わろうと私はレイナ様のために尽くします。お望みとあれば生涯の忠誠を誓いましょう」

「別にそこまで気負う必要は……」

「いえ、私の願いを叶えてくれた御方に失礼な真似は出来ません。この御恩、一生をかけてでもお返しします」



ティナの決意が固い事を知ると、レイナ達もそれ以上は言えず、まさかここまでティナが義理堅い性格だとは思わなかったレイナは困り果てる。

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