第425話 ティナの今後
――牙路から引き返した後、レイナ達は王都へと戻り、まずはリルに報告を行うためにティナを王城まで連れていく。謁見の間にてティナはリルの前に跪き、白狼騎士団の面々も集まっていた。
「ティナ殿よく来てくれたね、我々は君の事を歓迎するよ」
「ありがとうございます。今後はリル王女様の尽くす事を誓います」
「ん?うん、別にそこまで気負わなくてもいいんだが……」
黄金級冒険者のティナを前にしてリルは素直に喜び、他の者達も黄金級冒険者に一人が味方になった事で期待に満ちた表情を浮かべる。この国には3人しか存在しない黄金級冒険者、その中でも一番の若手ではあるが最も早く黄金級冒険者へ昇格を果たしたティナがリルの味方になった。
今現在はガーム将軍側に動きはなく、とりあえずの所は使者を送ってはいるが反応は特にない。だが、もしもガーム将軍が軍勢を率いて王都にまで攻め寄せてきた場合、黄金級冒険者のティナが味方にいるだけでも大きな戦力となり得る。
早くも黄金級冒険者の一人を味方にしたレイナに対してリルは彼女に視線を向け、有難そうに頷く。一方でティナの方は白狼騎士団の面々に顔を向け、誰も彼もがただの兵士とは比較にならない武芸者揃いだと知る。
(流石は噂に名高い白狼騎士団、巨塔の大迷宮を制覇したという噂通り、所属する団員も武人揃いですね……しかし、その中でも抜き出ているのはやはりリル王女様の側近の方々ですね)
ティナの見立てでは白狼騎士団の中でも別格なのは幹部級の地位を与えられているチイ、ネコミン、ハンゾウ、レイナと後は幹部ではないがオウソウだと見抜く。誰もが只者ではない雰囲気を纏い、更に鍛え上げればより優秀な武人へと成長する事が予測された。
「リル王女様、私は何をすればよろしいのでしょうか?」
「ああ、ティナ殿にはしばらくの間、白狼騎士団の戦闘指導員を任せたい。黄金級冒険者の君が指導役を務めて団員達の戦闘技術を磨いてほしいんだが……」
「分かりました。指導役ならば何度か経験がありますので問題はないかと思います」
「あの噂に名高い黄金級冒険者のティナに指導を受けられるのか……!!」
「これは気を抜けないな……」
「ふん……面白い、黄金級冒険者がどの程度の実力か見させてもらおうではないか」
リルの言葉に白狼騎士団の面々にも緊張が走り、黄金級冒険者から直々に指導を受けられるというだけでも貴重な機会である。その一方でティナの方はリルの側近の中で唯一武人の気配を感じないリリスに気づき、彼女は何者かと考える。
(この方からは一切の武人としての気配は感じられませんが……いえ、リル王女様が傍に置いておく御方です。きっと、内政方面で活躍する方なのでしょう)
騎士団の制服は一応は着用しているが、一人だけ白衣を纏っているリリスに対してティナは心の中で彼女はリルの補佐役か何かだと思い込む。一方でリリスの方はティナに視線を向け、ある事を思い出したようにリルに告げた。
「あ、そういえば噂では黄金級冒険者の方は他の冒険者の方を黄金級冒険者の試験を受けられるように推薦状を用意する事も出来ると聞いたんですけど、本当ですか?」
「え?はい……一応は規則上ではそうなっています」
「じゃあ、丁度良かったですね。それならここにいるレイナさんを黄金級冒険者の試験を受けられるように推薦状を書いてもらえばいいじゃないですか」
『えっ!?』
リルの発言に謁見の間に存在した全員が驚き、ティナも内心では驚きを隠せない。確かに黄金級冒険者は冒険者ギルドの規則では推薦状を書けば、他の冒険者を黄金級の昇格試験に受けさせる権限を持っている。
しかし、確かに規則上では問題はないとしても冒険者に登録してから数日足らずのレイナが黄金級冒険者の試験を受けるなど前代未聞であり、ティナは慌てて訂正する。
「た、確かに規則上では私は他の冒険者の方に推薦状を書けば試験を申請する事はできますが、黄金級冒険者へ昇格できるのは実績が存在する冒険者だけです。レイナさんの場合、実力はともかく実績の方がまだ……」
「それもそうですね、でも黄金級冒険者は無理だとしても白銀級冒険者ぐらいはどうにかなるんじゃないですか?」
「それは……可能だと思います」
「え、本当に?」
ティナは考え込み、彼女がレイナの事を白銀級冒険者に相応しい事を冒険者ギルド側に推薦状を提出すればレイナが評価点を上げずに試験を受けられる、あるいは試験を免除して白銀級冒険者に昇格する可能性は高い。黄金級冒険者はギルド内でも特別な立ち位置のため、他の冒険者の進退に関しても話を通す権力を持つ。
牙路にてティナはレイナの実力を思い知らされ、彼女は聖剣の力を借りたといっても2体の牙竜を瞬く間に倒す実力者である。リリスの言葉にティナは納得し、冒険者ギルドに推薦状を書く事を承諾した。
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