第424話 一先ずは帰国

「レイナ、このシゲルという人はどうする?連れて帰る?」

「う~ん、出来れば事情を話しときたいところだけど……このまま連れて行くと行方不明扱いされて面倒な事になりそうな気がする」

「ですが、この様子では目を覚ますのに時間が掛かりそうですね」

「ぷるるんっ(こいつ、起きない)」

「きゅろろっ?」

「う、う~んっ……」



試しにシルが茂の身体の上で飛び跳ねるが起きる様子はなく、サンもお腹の上に乗り込み、シロとクロが顔を舐めまわしても目を覚ます様子を見せない。思っていた以上に肉体に疲労が蓄積されているらしく、意識を取り戻すとしても数時間は掛かりそうだった。


このまま放置するべきか、あるいはケモノ王国へと連れ帰るべきかと悩んでいるとネコミンが獣耳を動かし、シロとクロも何かに気づいたように鳴き声を上げる。



「んっ……レイナ、遠くから馬の足音が聞こえてくる」

「足音?」

「「クゥ~ンッ……」」



ネコミン達が顔を向けた方向に視線を向けると、遠目ではあるが確かにこちらに近付いてくる存在を捉えたレイナは「遠視」の技能を発動させると、100を超える兵士が馬に乗って駆けつけていた。


方向的にもレイナ達が存在する場所に向かっている事は間違いなく、まだ距離はあるので相手側はレイナ達の姿が見えているのかは分からないが、少なくともクロミンの姿は捉えていてもおかしくない距離まで近づいていた。それを確認したレイナはこの場に残るのはまずいと判断し、急いでこの場を離れる事にする。



「やばい、帝国兵だ!!俺達がここにいるのを見られたらまずいよね!?」

「下手をしたら密入国者として捉えられる可能性もある」

「すぐにこの場を離れましょう!!」



装備を確認して帝国兵である事を見抜くとネコミンとティナは慌ててシロとクロに乗り込み、レイナは茂の上で飛び跳ねていたシルとサンを抱えてクロミンの元へと急ぐ。だが、このまま茂を置いていくべきか悩み、仕方なく彼の元に戻って鞄から「学生手帳」を取り出す。



この世界に転移した時に所持していた代物であり、学生手帳のメモの部分にレイナは文章を書き込むと、茂の服の中に隠す。その様子を見ていたティナが注意を行う。



「レイナさん!!早く乗ってください!!」

「分かってる!!全速力でこの場を離れてクロミン!!」

「出発!!」

「ガアアアッ!!」



シルを抱きしめたサンと共にレイナはクロミンに乗り込むと、そのまま牙路を駆け抜ける。その後にティナとネコミンを乗せたシロとクロが続き、レイナ達はその場を離れた――







――その後、兵士達は牙路の入口に辿り着くと、そこで気絶している茂の姿を確認して驚く。牙竜が現れるかもしれない危険地帯で絨毯を敷いて寝転げている茂の姿を見て兵士達は戸惑い、一応は様子を確認したところ気絶しているだけだと判明する。


茂の傍に見た事もない程の大きさの魔除けの石が置かれている事に気づき、兵士達は何が起きたのかは分からないが、何者かが気絶した茂が襲われないように魔除けの石を設置した事だけは理解した。


さらに茂の他に帝国兵は3体の牙竜の死骸を確認し、彼等は最初はまさか茂が殺したのかと思ったが、傷口を調べると明らかに刃物傷がある事から茂の仕業ではないと判断する。拳の勇者である茂は刃物の類は扱わず、彼を救った人間が3体の牙竜を倒したと考えるのが妥当だと思われた。




帝国兵は色々と気がかりではあるが、勇者である茂の命を優先してその場を離れ、城へと引き返す。その際に彼の傍に置かれていた絨毯と魔除けの石も回収し、調査を行う。尚、茂本人は数時間後に何事もなく目を覚ます。


目覚めた直後は茂は何が起きたのか理解できず、どうして自分が城に戻っているのかと戸惑ったが、すぐに彼は黒竜との戦闘で自分が疲弊したところに3体の牙竜に襲われた事を思い出す。その後の事は何故か記憶が曖昧でよく覚えておらず、いつの間にか気絶していた事を自覚する。



「いててっ……頭がいてぇっ、何だってんだいったい?」



茂はベッドから身体を起き上げると、最初に自分が飛び出した小城にある治療室のベッドの上だと気づき、彼は痛む頭を抑えながらも身体を起き上げる。どうやら寝ている間に着ていた服は脱がされたらしく、彼は全裸である事に気づいて顔色を青くした。



「うえっ!?なんで俺裸なんだ……くそ、服は何処だ?」



すぐにベッドから起き上がった茂は自分の服を探すと、ベッドの傍にたたまれている自分の衣服に気づき、すぐに着こもうとした。だが、その際に彼は衣服の上に学生手帳が置いてある事に気づき、疑問を抱く。



「なんだこれ、俺のじゃないぞ……こいつは!?」



手帳を手にした茂は自分の者ではない事にすぐに気づき、学生手帳の持ち主を確認すると姿を消したはずの「レア」の物である事を知る。驚いた茂はどうして自分の衣服と共に彼の学生手帳があるのかと戸惑うが、中身を確認した。


学生手帳の方は最初にレアがこの世界へ召喚された時に表紙に記されている学校名の名前が変化している事を除けば特に怪しい点はないが、学生手帳のメモの部分に文章が書かれている事を知り、内容を読み上げて驚く。

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