第423話 治療と後始末
「大丈夫、怪我は治しておく……私達の存在を知られるわけにはいかない」
「いや、しかし……他に方法はなかったのですか?」
「仕方ないよ、俺達の事を見られるとまずいのは本当だし……あれ?もしかしてこの人って……」
ネコミンはヒトノ国の人間に自分達の存在を知られるのはまずいと判断し、敢えて気絶させたのだが、一方でレイナは茂の顔を見て驚く。まさか襲われている相手が同じ勇者の茂だとは思わず、いったいどうして彼がここにいるのかと戸惑う。
茂の怪我の方は拳の勇者なだけはあって肉体面も頑丈らしく、回復力も高いのかネコミンの回復魔法によってすぐに回復した。しかし、疲労が蓄積していたのか茂は目覚める様子はなく、白目を剥いて気絶していた。
「お~い、茂君!!駄目だ、完全に気絶してる……」
「え、お知り合いですか?」
「まあ、知り合いと言えば知り合いかな……でも、ちょっと今は顔を合わせると面倒な事になるからここに置いておくしかないか」
「置いていくのですか!?この場所に!?」
「一緒に連れて行くと色々と問題がありそうだから……大丈夫、魔除けの石も残しておくから襲われる心配はないよ」
レイナは自分の鞄から絨毯を取り出し、その上に茂を寝かせた後に魔除けの石を設置しておく。これで彼がここに残しても他の魔物に襲われる心配はなく、目を覚ませば自力で帰れる事は間違いない。
とりあえずは茂の安全を確保した後はレイナはクロミンに視線を向け、負傷の確認を行う。随分と痛めつけられた様子を見てレイナはクロミンを心配して抱き寄せる。
「クロミン、大丈夫?」
「ガウッ……」
「クロミン?今、レイナさんはこの黒竜の事をクロミンと呼びましたか?」
「あ、しまった……まあ、仕方ないか」
「レイナ、こうなったらティナには話した方がいいと思う」
黒竜の事をクロミンと呼んだ事に対してティナは驚くと、ネコミンはもうティナには隠し事は出来ないと判断して全てを話すように促す。レイナはクロミンの様子を確認し、仕方なく彼女の前で能力を発動させた。
「ティナさん、ちょっとそこで見ててね……解析」
「えっ?」
クロミンを視界に収めた状態でレイナは「解析」の能力を発動させ、詳細画面を視界に表示させる。そして文字変換の能力を発動させ、状態の項目を変換した。
ティナの目には詳細画面は見えないが、レイナが指先を何もない空間に伸ばして動かす動作を確認すると、やがてクロミンの身体が光り輝き、傷跡が跡形もなく消えてしまう。
「ガアアッ♪」
「よしよし、もう大丈夫だよ」
「えっ……傷が、一瞬で!?まさか、回復魔法……いや、でもこんなに瞬時に治るなんて……」
「驚く気持ちは分かる。これがレイナの能力」
「レイナさんの……能力?」
「ぷるぷるっ(どういうこっちゃい)」
一瞬にしてクロミンの負傷を完治させたレイナにティナは動揺を隠せず、シルも不思議そうに目を見開く。一方でレイナの方はティナの能力を発動する姿を見られた以上は隠し事は出来ないと判断し、彼女に事情を説明する事にした。
――その後、レイナはとりあえずは自分がこの世界に召喚された勇者である事、そして現在はヒトノ帝国に追放され、リル達に招かれてケモノ王国へ迎え入れられたことを話す。
ヒトノ帝国の勇者の一人がケモノ王国へ迎え入れられたという話はティナの耳にも届いていたが、まさか勇者の正体がレイナだと知って驚く。しかも彼女が元々は男性である事に動揺を隠せず、正直に言えば先ほどの能力を見せてもらわなければ信じられなかった。
とりあえずは事情を話したレイナに対してティナは非常に混乱するが、事情は理解した。色々と尋ねたい事はあったが、彼女のお陰でティナは無事に自分の目的を果たした事もあり、一先ずはケモノ王国へ帰還するまでの間は余計な事は何も聞かない事にする。
「事情は分かりました……正直に言えば色々と信じられませんが、確かにこれほど不思議な能力、それにレイナさんのあの強さなら勇者と言われても納得できます」
「うん、出来れば他の人には秘密にしてね」
「はい、それは約束します……ですが、レイナさんの話だとこの御方も勇者様なんですよね?」
「そうだよ。なんでこんな所にいるのかは分からないけど……」
全員が気絶したままの茂に視線を向け、彼は一向に目を覚ます様子がない。二度も限界強化を使用した半面で途轍もない疲労が蓄積されているらしく、どんなに刺激を与えようと起きる気配がない。
念のために解析で状態を調べたがただ眠っているだけに過ぎず、いずれ自然と目を覚ます事は確認済みだった。レイナは困った風に茂を覗き込み、このまま彼を残しておくべきか悩む。
(目を覚ませば茂君にだけでも事情を話せるんだけどな……でも、この様子だと起きるのに時間かかりそうだし、あんまりここにいると帝国兵に見つかりそうだから困ったな)
茂が目を覚ませばレイナは自分の正体を話し、どのような経緯があってヒトノ帝国を去ったのか事情を伝えられるのだが、茂が目を覚まさない限りはどうしようもなかった。
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