第422話 勇者との接触
「「ガアアッ!!」」
「くそがっ……!!」
迫りくる2体の牙竜に対して茂はもう駄目かと思い、目を閉じた。だが、激しい振動と轟音が鳴り響き、驚いた彼は目を開くとそこには予想外の光景が広がっていた。
「ぐぎぎぎっ!!」
「「アガァアアッ……!?」」
「はっ……!?」
――茂の視界に漆黒の大剣を構えた少女が立ち、彼女は2体の牙竜を受け止めていた。茂に噛みつこうとしていた2頭の牙が大剣の刃に食い込み、そのまま2体がかりで少女を圧し潰そうとするが、凄まじい膂力で少女は受け止める。
唐突に現れた黒髪の少女に茂は驚き、何が起きているのか理解できなかった。だが、少女は漆黒の大剣を力任せに振り払い、牙竜の牙を破壊した。
「ふんぬっ!!」
「「アガァッ!?」」
「うおっ!?」
空中に牙竜の牙の破片が舞い散り、それを見た茂は驚きの声を上げる。一方でデュランダルを握りしめた「レイナ」は大剣を振りかざし、刃を振動させて衝撃波を放つ。
「はああっ!!」
「「ギャアアアッ!?」」
「す、すげぇっ!?」
剣を振り払っただけで2頭の牙竜を吹き飛ばした光景を見て茂は驚愕の声を上げ、衝撃波をまともに受けた2頭の牙竜は倒れ込み、身体を痙攣させる。その様子を見てレイナはデュランダルを下ろすと、クロミンの方へと視線を向けた。
クロミンは牙竜の1頭の首筋を噛みつき、抑え込んでいたが負傷が激しいせいか力ずくで振り払われ、牙竜に逃げられてしまう。牙竜は首筋から血を流しながらもクロミンに襲い掛かろうとする。
「ガアアッ!!」
「ガウッ……!?」
「させません!!」
牙竜がクロミンに襲い掛かる前に後方から人影が現れると、銀色に光り輝く大剣を抱えたティナが背後から仕掛け、牙竜の頭部に向けて大剣を振り下ろす。切断まではいかなかったが、彼女の馬鹿力で放たれた一撃によって牙竜の頭が地面に叩きつけられる。
「グヘェッ!?」
「はぁああああっ!!」
地面に押し倒した状態でティナは両腕に力を込めると、そのまま頭部に刃を食い込ませて血飛沫を舞い上がらせる。その結果、刃は脳内まで達したのか牙竜の身体が動かなくなった。
倒したと確信したティナは刃を引き抜くと、大剣にこびり付いた血液を確認して振り払い、額の汗を拭う。しかし、すぐに彼女はレイナが吹き飛ばした2体の牙竜に視線を向け、まだ生きている事に気づく。
「レイナさん!!その2頭はまだ生きています!!」
「分かってる!!」
「レイナ?」
レイナの名前をティナが告げると、茂はここで自分が救ってくれた黒髪の美少女の名前をレイナだと知る。彼女は茂の前で重厚な大剣を振りかざし、起き上がろうとした2頭の牙竜に向けて駆け出す。
2頭の牙竜が完全に動き出す前にレイナはデュランダルを構え、まずは近くに存在した1頭目の牙竜の首に向けて刃を振り下ろす。牙竜は咄嗟に回避しようとしたが、俊足を発動させたレイナの動きは素早く、回避は間に合わずに首筋に刃が食い込む。
「はああっ!!」
「ギャアアアッ!?」
「ガアッ!?」
牙竜の首が切断され、頭部が吹き飛ぶ光景を確認した3体目の牙竜は目を見開き、すぐに危険を察して逃走に移ろうとした。しかし、その光景を確認したレイナは地面に振り下したデュランダルを手放すと、腰に差していたフラガラッハを引き抜く。
フラガラッハを構えたレイナは牙竜に向けて跳躍し、空中から牙竜の頭部に向けて刃を突き刺す。フラガラッハの刃は牙竜の頭部を貫通した。
「だああっ!!」
「アガァアアアッ……!?」
「す、すげぇっ……!!」
瞬く間に2体の牙竜を倒したレイナを見て茂は興奮を隠しきれず、ここまで強い女性などアリシア以来だった。しかも恐らくはレイナの方がアリシアよりも強く、同時に彼女の所有する聖剣フラガラッハを見て茂は疑問を抱く。
(あの剣、王女が持っていた聖剣にそっくりだな。どういう事だ?まさか、同じ剣か……?)
本来ならばこの世に一つしかない聖剣フラガラッハの所有者はアリシアだが、そのアリシアが所持するはずの聖剣を手にしたレイナを見て茂は戸惑い、同時にレイナの姿を見て何処か気になった。
この世界では比較的に珍しい黒髪に聖剣フラガラッハを所持している少女、茂の頭の中で様々な疑問が沸き上がり、そして結論に至る。
(まあ、本人に聞けば分かるか……面倒くさい)
考える事が苦手な茂はいちいち推察するよりも本人に直接問い質した方が早いと判断し、自分を救ってくれた彼女達に尋ねようとした。だが、そんな茂の背後から近づく影が存在し、茂の後頭部に強烈が衝撃が走る。
「ていっ」
「あぐぅっ!?」
「えっ……ね、ネコミンさん!?いったい何を……」
「ぷるるんっ(やったか)」
背後からこっそりと近づき、茂に気づかれないようにネコミンが剣の柄で彼の頭を叩き、気絶に追い込む。その様子を見てティナは焦った声を上げるが、ネコミンは傷だらけの彼の身体に回復魔法を施す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます