第421話 3体の牙竜
「ちっ……何だよ、その目は……まだ戦うつもりか?」
「ガアアッ……」
「お、おい!!動くな、お前だってもう限界だろうが!?」
クロミンは茂の言葉に反応するように起き上がろうとするが、先ほどの茂の攻撃によってあちこち負傷しており、腕も足も歪な方向に折れ曲がっていた。それでもクロミンは無理やりに起き上がると、茂と向かい合う。
まさかこの状態でも起き上がる事が出来ると思わなかった茂は焦りを抱き、もう彼も余力は殆ど残っていなかった。後は止めを刺すだけだと思い込んでいたので茂は焦りを隠せず、拳を向ける。
「ち、近寄るんじゃねえっ!!もうお前の負けなんだよ!!」
「ガアッ……!!」
「わ、分かった……今日は引き分けだ。俺も疲れたからな、お前にはこれ以上の危害は加えない。それでいいだろ?」
茂のあまりの都合のいい発言にクロミンは内心は呆れてしまうが、その提案自体はクロミンにとっても悪くない話だった。茂が大人しく引き返すのならばクロミンも手を出さずに済み、レイナとの約束を守られる。
この茂の発言は本心からの言葉であり、騙し討ちをするつもりはない。そもそも黒竜であるクロミンに人間の言葉が通じるのかと不安を感じた茂は後退り、身体の痛みを堪えながらその場を去ろうとした。
(くそっ……もう歩く事もきつくなってきた。これ以上に戦うとマジでやばそうだな。ここは大人しく引き返すしか……何だ!?)
その場を立ち去ろうと茂が振り返った瞬間、凄まじい咆哮が草原に広がり、その声を耳にした茂は驚いてクロミンへと振り返る。だが、咆哮の主はクロミンではないらしく、クロミンの方も驚いたように咆哮が聞こえた方向に顔を向ける。
クロミンが顔を向けた方向に茂も視線を向けると、そこには牙路の方から3体の牙竜が近づく姿が存在し、その光景を見て茂は震え上がった。3体の牙竜は怒りの咆哮を放ちながら二人の元へ向かい、その様子を見て茂はクロミンへと振り返った。
「お、お前……仲間を呼んだのか!?」
「ガアッ……」
『アガァアアアアッ!!』
茂の言葉にクロミンは反応する前に3体の牙竜は跳躍すると、そのまま弱り切っているクロミンの元へ目掛けて飛び込む。その光景を目にして驚いたの茂であり、まさか自分ではなく同じ牙竜のクロミンに襲い掛かってきた事に戸惑う。
「ウガァッ!!」
「ガウッ!!」
「ガアアッ!!」
「ッ……!?」
「お、おい……何してんだ!?止めろっ、仲間じゃないのか!?」
3体の牙竜は容赦なくクロミンの身体に牙を突き立て、尻尾、首、胸元の部分に噛みつく。その光景を見て茂は反射的に声をかけるが、よくよく考えれば別に茂にとっては3体の牙竜に狙われないだけでも幸運と言える。
しかし、自分との戦闘で弱り切った黒竜に対して襲い掛かる3体の牙竜を見て茂は何故か苛立ちを抱く。ここまで自分が追い込んだ相手を横から奪おうとする牙竜に怒りを抱いたのか、あるいは仲間であるはずの黒竜を躊躇なく襲い掛かる牙竜の行動に我慢できなくなったのか、ともかく茂は黙って見過ごす事は出来なかった。
(くそがっ……!!)
ハイエナの如く、自分の獲物を殺そうとする3体の牙竜の行動に茂は怒りを抱き、身体の限界を迎えているのに彼は再び先ほどの「限界強化」を発動させた。一度目ならばともかく、体力も大幅に消耗した状態で限界強化を使えば更なる肉体の負担を与えるが、怒りのままに茂は能力を発動させると牙竜へ向かう。
「うおおおっ!!」
「アガァッ!?」
「ガアッ……!?」
牙竜の内の1体に茂は飛び蹴りを食らわせ、予想外の攻撃に首元に噛みついていた牙竜は牙を離してしまう。それを見たクロミンは驚きながらも隙を見せた牙竜の首に逆に喰らいつく。
「ガアアッ!!」
「ギャアッ!?」
「はっ、いいぞ……その調子だ!!」
クロミンも反撃に移った事で茂も笑みを浮かべ、彼は今度は胸元に絡みつく牙竜に視線を向け、その尻尾を掴む。そして渾身の力を込めて引っ張り出す。
「おらぁあああっ!!」
「ガアアッ……!?」
人間とは思えぬ力で尻尾を引っ張る茂に対して牙竜は必死に抵抗するが、勇者の力を存分に発揮した茂は牙竜を無理やりにクロミンから引き剥がす。
その後は尻尾を掴んだ状態で茂はクロミンの尻尾に噛みついている牙竜に視線を向け、力任せに尻尾を掴んだ牙竜を持ち上げて叩き込む。
「離れろっ!!」
「「ギャウッ!?」」
牙竜同士が衝突して悲鳴を漏らし、地面へと倒れ込む。その様子を見て茂は満足げに微笑むと、唐突に視界が赤色に染まる。どうやら能力の反動で瞳に血が溜まったらしく、彼は頭を抑える。
(やべえ……これ以上やったらマジで死ぬ、くそっ……何してんだよ、俺?)
いくら自分の獲物を横取りされるのが気に入らないとはいえ、先ほどまで痛めつけていたクロミンを救うために今度は自分が死にかけているという事に茂は自嘲した。その様子を見た2体の牙竜は怒りの表情を浮かべ、弱り切っている茂に襲い掛かろうとした。
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