第419話 黒竜VSシゲル
「サン、本当にクロミンの声が聞こえるの?」
「間違いない、クロミンが助けを求める!!」
「ネコミン?」
「……確かに、何か聞こえる」
この中では聴覚が鋭いネコミンも頭の獣耳を立てると、サンの言う通りにクロミンの鳴き声らしき音を聞き取る。レイナとティナには何も聞こえないが、普通の人間よりも聴覚が優れているサンとティナの言う事ならば信憑性は高く、ここは二人を信じてレイナは急いで戻る事を決めた。
「ティナさん、話は後にして!!すぐに牙路へ引き返す!!」
「は、はい!!」
「サン、クロミンが何処にいるのか分かる?」
「きゅろろっ……かなり離れていると思う。でも、クロミンもサン達の方へ近づいてる気がする!!」
「俺達の臭いを辿って追ってきたのかな……よし、急いで戻ろう!!」
レイナの言葉に全員が頷き、その場を駆け出す。黒竜に変身したクロミンがレイナのいいつけを破って追いかけてきた時点でただ事ではなく、レイナはクロミンの無事を祈って全速力で駆け出す――
――同時刻、牙路から離れたクロミンは一人の少年と対峙していた。相手は人間のはずなのだが、何故だか異常なまでの速さと体力を誇り、逃げ回るクロミンの後を追う。
「ガアアッ!?」
「ちぃっ!!待ちやがれ、逃げんじゃねえっ!!」
黒竜状態のクロミンを追い掛け回していたのは一人で城から飛び出した茂だった。彼は全速力で城から飛び出し、牙路へ辿り着くと
クロミンとしては急に襲い掛かってきた人間の少年に戸惑い、とりあえずは牙路から離れて逃走を図ろうとしたが、茂はしつこく追い掛け回す。どれだけ走り回ろうと茂はクロミンを逃がさず、遂には牙路を離れた草原にて両者は対峙した。
「ガアッ……ガウッ!!」
「はあっ、はっ……や、やっとやる気になったか!!さあ、来やがれトカゲがっ!!」
遂にクロミンが足を止めた事で茂は笑みを浮かべ、全身から汗を流しながらも拳を構えた。黒竜の脚の速さに追いつくなど彼も人間離れした身体能力を誇るが、それでも単純な戦闘力は黒竜が上回るだろう。
自分に対して構えてきた茂を見てクロミンは戸惑い、この姿の時でもクロミンの意識は保たれている。しかし、牙竜の本能で空腹や怒りを感じると理性を失って暴れまわる可能性が高く、クロミンはこのままでは茂を殺してしまうのではないかと不安を抱く。
レイナはクロミンに対して人間に無暗に危害を加えないように命じており、クロミンも今までその言い付けを守ってきた。だが、相手がクロミンを見ても怯えず、逃ける様子も見せないのでこのままでは戦闘に陥ってしまう。そうなればクロミンは下手をしたら茂を殺しかねない。
「ガウガウッ!!」
「ああっ!?うるせえな、さっきから何だってんだ!!」
試しにクロミンは茂に対してジェスチャーで戦うつもりはない事を伝えようとするが、走りすぎて興奮した茂にはクロミンの行動の意図が読めない。最も冷静な状態の時でも外見が恐ろしいクロミンの行動を見ても茂ならば理解できない可能性もあるが。
「ガアアッ……」
「ちっ、ごちゃごちゃとうるせえんだよ!!俺はお前を倒して、とっとと王都へ戻るんだ。いくぞおらぁっ!!」
茂はクロミンに向けて駆け出し、無謀にも自分に突っ込んできた茂にクロミンは戸惑うが、彼の拳が光に包まれる。
「喰らいやがれっ!!」
「ガアッ!?」
拳が光を放ったと思った瞬間、嫌な予感を覚えたクロミンはその場を後退して茂との距離を開く。結果的にそれは功を奏し、茂が上から振りかざした拳は空振りすると地面に叩きつけられる。
その結果、拳が叩きつけられた箇所が大きく凹み、地面にクレーターを想像させる穴が出来上がった。その拳の威力にクロミンは戸惑い、一方で茂は拳にこびり付いた土を振り払って笑みを浮かべた。
「避けたか、だが次は当てるぞ!!」
「ガアアッ!!」
今度は両手の拳に光を宿した茂はクロミンに向けて駆け出し、ボクシングのフックのように横向きに拳を振り回す。クロミンは一発でも当たれば無事では済まないと判断し、回避に専念した。
この茂が使用する技は格闘家の「気功拳」と呼ばれ、体内に存在する「気」と呼ばれる生命力を利用して拳に光の膜を纏い、相手に攻撃するという戦技だった。格闘家の中でも本来は高レベルの人間にしか扱えない能力だが、勇者である茂は最初から覚えている能力の一つでもある。
気功拳を発動させた茂はクロミンに対して執拗に拳を繰り出し、その攻撃に対してクロミンは防御も反撃も行わず、あくまでも回避に徹する。そうすればいずれ茂が攻撃してこないクロミンに対して相手が戦う意思がない事を伝わるかと思ったが、ここで茂は苛立ちを隠せずにクロミンに怒鳴り散らす。
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