第418話 ティナの推理

「改めてお礼を言わせてください。ここまで付き合っていただき、ありがとうございます……皆さんのお陰で無事にこの村まで辿り着く事が出来ました」

「お礼を言うならレイナだけでいい。私達はただの付き添い」

「いえ、皆さんのお陰です。本当にありがとうございます」



ティナの言葉にネコミンは少し照れ臭そうに答えると、ティナは首を振って全員のお陰だと強調する。実際の所、レイナのお陰でここまで来れたのは事実だが、ティナは受け取った花冠を抱きしめてお礼を言う。


もしも彼女が一人で戻ってくればこの場所で延々と泣き続けていたかもしれず、下手をしたら立ち直れなかったかもしれない。しかし、レイナ達が同行していたのでいつまでも泣いてばかりではいられず、ここまで連れてきて貰った恩を返すために協力する事を伝える。



「これで思い残す事はありません。今後は皆さんのお役に立てるように頑張ります」

「という事は……」

「はい、王都へ戻り次第にリルル王女様とお会いしましょう」

「やったっ……これでリルも喜ぶ」



やっと一人目の黄金級冒険者の協力を取り継ぐ事に成功したレイナとネコミンは喜び、その一方でサンもティナが共に行動してくれる事に嬉しそうにシルに抱き着く。



「きゅろっ♪これでティナもシルもサンの仲間!!」

「ぷるぷるっ♪」

「あ、ですが最後にちょっといいですか?実はレイナさんが所持していたあの乗り物の魔道具に関してなんですが……」

「え?ああ、あれがどうかしました?」



レイナは森の中に放置したキャンピングカーの事を思い出し、ティナが何か気になる事でもあるのかと思うと、驚きの言葉が返ってきた。



「実は私、思い出したのですが前にもあれと同じような乗り物を見た事があります」

「えっ!?」

「それは……本当?」

「はい、最も私が発見したのは壊れている様子でしたが……」

「レイナ、もしかしてあの村の……」



ティナ曰く、彼女は旅の道中でレイナ達が乗っていたキャンピングカーと同じ形をした車を発見したという。その場所とは随分と荒れ果てた村で人の姿は見えなかった。そんな場所でティナは横転した状態のキャンピングカーを発見した。


見た事もない乗り物にティナは戸惑い、中の方を調べてみたが酷い状態だったらしく、結局は彼女一人ではどうする事も出来ないので立ち去るしかなかった。しかし、今思い返せば彼女が見た奇妙な形の乗り物はレイナが所持していたキャンピングカーと同じ形をしていた事を指摘する。



「レイナさんが乗っていた乗り物型の魔道具、それは何処で手に入れたのですか?」

「いや、それは……」

「……それに気になる話は他にもあります。後で調べたところ、ケモノ王国の南方では牙竜の亜種を従え、吸血鬼を討伐した女剣士が現れたという噂も耳にしました。そして私が訪れた村は吸血鬼に襲われた村の一つであると聞いています」

「はうっ!?」



少し前にレイナは「紅血のアルドラ」と名乗る魔王軍の一員と戦った時、アンデッドの大群に対抗するためにクロミンを黒竜へと変貌させて戦わせた。一応はあの時の話は関係者には他言無用にするようにリルは頼んだが、やはり目撃者も多く、隠し通す事は出来なかったらしい。


ティナは吸血鬼が現れた場所の近くに存在したキャンピングカーと、レイナが牙竜の亜種(クロミン)を何処からか連れてきて従えた事、何よりも吸血鬼が扱う「魅了」という能力をレイナが扱える時点で彼女は色々と察していた。



「王都へ向かう前にレイナさんの正体を教えてください。あの乗り物に関しても、どうして牙竜を従える事が出来るのか、他にもここまでの道中で都合よく順調に進めた事もレイナさんが何かしたのではないですか?」

「ううっ……す、鋭い」

「レイナ、こうなったら素直に話した方がいい」

「サンもそう思う」

「ぷるぷるっ(話せば楽になるぜお嬢ちゃん)」



レイナはティナの言葉に追い詰められ、他の者達も素直に話すべきだと説明すると、仕方なくレイナは自分の正体を話そうかと考えた時、不意にサンが何かに気づいたように顔を向ける。



「きゅろっ!?」

「え、どうしたのサン?」

「……クロミンの声が聞こえた!!」

「クロミンの!?」



サンの言葉にレイナ達は驚き、ここでティナとシルは先ほどからクロミンの姿が見えない事に気づく。冷静になってティナはクロミンが何時から見えなくなったのかと考えると、牙路でレイナが「黒竜」を連れ出したときから見えなかった事を思い出す。


クロミンの姿が見えなくなった途端にレイナが連れてきた黒竜、そして牙路が存在する方向に顔を向けるサンを見てティナは普通ならば考えられない可能性を見出す。



「まさか……あの黒竜はクロミンですか!?」

「えっ!?それは……」

「きゅろろっ!!レイナ、クロミンがレイナを呼んでる!!すぐに戻る!!」



ティナの推理にレイナは戸惑い、どのように言い訳をしようかと考えているとサンが焦った表情を浮かべながらレイナの袖を掴む。その態度にレイナは疑問を抱き、サンはクロミンの声が聞こえるというがレイナには何も聞こえなかった。

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