第417話 荒れ果てた村

――その一方でティナと共にレイナ達は彼女の故郷と思われる村へと辿り着いていた。残念ながら村の方はティナが消えた後も復興した様子はなく、牙竜に無残に破壊され、荒れ果てた状態で放置されていた。


もう何年も人が立ち寄った様子はなく、残念ながらティナ以外の村人は生き残っていなかったらしい。死体に関しては見当たらず、牙竜に喰われたのかあるいは死体だけが帝国兵が訪れて埋葬してくれた可能性もある。



「ここが……私の村?」

「ぷるるんっ……」



ティナは悲痛な表情を浮かべながらも、自分が生まれ育った村の荒れ果てた光景を見て拳を握りしめる。そんな彼女の姿を見てレイナもネコミンも何も言えなかったが、サンだけはティナの手を繋ぐ。



「ティナ、元気出す」

「ぷるるんっ」

「……ありがとう」



自分の手を掴んで慰めてくれたサンを見てシルも共に励まそうと彼女の頭の上に移動する。その様子を見てティナは苦笑いを浮かべ、それでも礼を言う。二人の優しさに触れた事でティナは少しは元気を取り戻し、レイナ達へと振り返る。



「ここで待っていてください。私は自分の家に戻ります」

「あの……大丈夫ですか?」

「無理はしない方がいい」

「平気です……どうしても確かめたいんです」



ティナはシルを連れて自分が暮らしていた家の方向へ向けて歩き、残されたレイナ達は黙ってそれを見送る。彼女の後に付いても仕方がなく、村の出入口で待つ事にした。


レイナは待機している間、戻ってきたティナを励ます方法は何かないかと考えるが、心の傷を負った人間を癒すのは難しい。それでもティナのために何かできる事はないかと考え、ネコミンに相談する。



「ネコミン、ティナさんを慰める方法はないかな?」

「そっとしておいた方がいいと思う。部外者の私達が無暗に何かしない方が最善」

「それもそうか……」

「でも、気持ちは分かる」



ネコミンはレイナの優しさに微笑み、彼女もティナの事は心配だが、正直に言って会ったばかりのレイナ達がティナの心の傷を癒すのは難しい。故郷がこのような事になっていたのならばティナの悲しみは計り知れず、レイナ達にはどうしようも出来ない。


しかし、サンは唐突にその辺の花を摘み始め、両手いっぱいに花を集めるとその場に座り込む。彼女が何をしているのかとレイナとネコミンは覗き込むと、どうやら花冠を作っている様子だった。



「サン、何をしているの?」

「きゅろっ!!ティナが戻ってきたとき、花冠をあげる!!そうすればティナも元気になる……と思う!!」

「花冠か……でも、誰に作り方を習ったの?」

「前にハンちゃんに教えて貰った」



何時の間にかサンはハンゾウに花冠の作り方を教えて貰ったらしく、彼女は花を編んでいく。その姿を見てレイナとネコミンも頷き、サンの手伝いを行う。


本当ならば何もしない方がいいかもしれないが、ティナを慰めたいというサンの気持ちも尊重し、全員で花冠を作り上げる。満足する出来だったのサンは嬉しそうに花冠を抱え、シロとクロとはしゃぎまわる。



「きゅろろっ♪花冠、出来た!!」

「「ウォンッ(やったね)」」

「……サンは優しいな」

「サンは良い子」



嬉しそうに花冠を抱えて走り回るサンを見てレイナ達も癒されると、やがてティナがシルを抱えて戻ってきた。彼女は離れていた時間はそれほどではなかったが、どうやら泣いていたらしく、涙がなくとも分かるほどの泣き顔で戻ってきた。



「お待たせしました……ここでの用事はもう終えました、戻りましょう」

「ぷるんっ……」



ティナの様子を見てレイナ達は声を掛けられず、なんと言えば良いのか分からずに困っていると、サンが花冠を抱えて彼女にちかづき、花冠を差し出す。



「ティナ、元気出す!!」

「サン……?」

「これ、ティナのために皆で作った!!だから、元気出す!!きゅろろっ!!」

「これを、私に?」

「ぷるるんっ♪」



サンが差し出した花冠を見てティナは驚いた表情を浮かべるが、それを見たシルは嬉しそうに身体を弾ませ、貰ってあげなよとばかりに笑顔を浮かべる。


渡された花冠を見てティナは戸惑うが、皆が作り上げたという言葉に彼女はレイナ達に視線を向けると、二人とも黙って頷く。ティナはサンに視線を向け、自分を慰めるために用意してくれた花冠を見て再び涙を流しながらもサンに抱き着く。



「ありがとう……サン」

「ぎゅろろっ……ティナ、苦しい」

「ご、ごめんなさい……」



勢いあまって強く抱きしめたティナにサンはぺちぺちと背中を叩き、慌ててティナは力加減を緩めてサンを抱き抱える。その様子を見てレイナは彼女が元気になった事に安心すると、まだ空が曇りに覆われている事を知って早急にケモノ王国へ引き返す事を提案した。



「さあ、戻ろう。クロミンも待っていると思うし……王都へ帰りましょう」

「はい、そうですね……ここまで来れたのは皆さんのお陰です。ありがとうございます」

「ぷるぷるっ」



シルはティナの頭の上に移動し、彼女が元気を取り戻した事を嬉しく思う。これで用事は完全に果たし、改めてティナはレイナ達に礼を告げた。

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