第413話 古地図
――それから約2時間近くの時が流れ、クロミンの背中に乗り続けるのも疲れてきた頃、遂にレイナ達は牙路を通過して帝国領地へと辿り着く。ここから先は慎重に行動しなければならず、レイナは黒竜へと変化したクロミンを牙路に残しておく事にした。
「クロミン、帰る時にまたクロミンの力を借りたいからここで大人しくしててね。人間を襲ったら駄目だよ」
「ガウッ」
クロミンを牙路に残しておく理由としては今日中に帰還する場合、クロミンをスライムに戻していたら文字変換の能力が扱える1日の文字数制限を超えてしまう。そのため、クロミンは敢えて牙路へと残し、レイナ達は先を急ぐ。
監視所の兵士に見つからないように慎重に進み、もしも見つかったら不法入国として拘束されてしまう。そうなれば黄金級冒険者の資格を持つティナの身も危うく、レイナ達も無事ではすまない。
「ここから先は正体を気づかれないように姿を隠してください。もしも兵士に見つかった場合、交戦を避けて逃げましょう」
「分かった……でも、いざという時は俺に任せて。魅了の力でどうにかしてみせるから」
「おお、流石はレイナ……魔性の女」
「その呼び方は止めてくれるかな……」
「ましょうのおんな?」
「ほら、サンが変な言葉を覚えたでしょうが……あんまり変な事を言うと尻尾と耳をもふもふするよ」
「いやんっ」
レイナ達は事前に用意していたマントを羽織り、姿を覆い隠しながら遂に牙路を逃れ、帝国領へと移動を行う。ここから先は正体が気づかれないように行動する必要があり、レイナはティナに彼女が暮らしていたという村の場所を尋ねた。
「ティナさんは何処に暮らしてたんですか?牙路からそれほど離れていない場所にあるんですよね」
「え、ええ……そのはずなんですが、申し訳ありません。正確な村の位置は私にも分からないんです」
「ぷるぷるっ!?(えっ!?)」
ティナの言葉にシルは驚き、他の者達も彼女が村が存在した場所を知っていると思い込んでいた。しかし、ティナは子供の頃はずっと村で暮らしていたため、他の場所に赴いた事もないという。
彼女が初めて村を離れたのは牙竜に襲われた後の事らしく、その後は奴隷商人に掴まり、強制的にケモノ王国まで連れ出された。道中はずっと馬車に閉じ込められて捕まっていたので自分がどのような経路でケモノ王国へ辿り着いたのかも知らないらしい。
「申し訳ありません、事前に説明しておくべきでした……私は前に両親から村が牙路の近くに存在するとしか聞いていないんです。ですが、子供の頃から悪い事をすると牙竜に襲われると教わっていましたし、実際に私の村は牙竜に襲われました。だから、牙路からそれほど離れていない場所に村は存在するのは確かです」
「なるほど……でも、何の手がかりもなく村を探すのは難しそうだな」
「そういう事情なら仕方ない」
「ですが、商人からこの付近の地図を買い取りました。この地図を頼りにとりあえずは村を探せると思います」
ティナは自分の荷物から地図を取り出し、随分と古ぼけて汚れた地図だった。制作の日付を確認すると、どうやら10年以上前に発行された地図らしく、彼女は地図を開いて牙路からそれほど離れていない場所に記されている記号を示す。
「この地図はかなり古い物ですが、当時の帝国領地に存在した村の位置を示しています。人口が少ない村は残念ながら名前は表記されていませんが、それでも村が存在する場所にはこの記号が記されています」
「なるほど、ならこの地図を頼りに進めばいいわけか」
「でも、汚れてて読みにくい……それにちょっと臭う」
「申し訳ありません……ですが、古い地図の方が私の村が記されている可能性があるのです。魔物によって滅ぼされた村は新しく発行される地図上には表記されない事もありますので……」
「なるほど、村を滅ぼされる前に発行された地図なら村の位置が記載されている可能性が高い……ティナは頭が良い」
ティナは敢えて古い地図を購入したらしく、彼女は地図を頼りに地道に探し回るつもりらしい。事前に地図を確認し、彼女はある場所を指差す。
「恐らくですが、私の村はここだと思います。子供の頃の記憶では私の村の近くには湖がありました」
「あ、本当だ。この村の傍に湖がある」
「なら、ここへ向かえばいい?」
「はい、なので最初はこの村を目指します。気を付けて進みましょう」
「そうだな……ちょっと待って、地図製作で地図を記録しておきます」
「えっ……レイナさんは地図製作の技能をお持ちなのですか!?」
「しっ……声が大きい、静かにして」
「す、すいません……」
レイナの言葉にティナは驚きの声を上げ、それをネコミンが注意する。だが、地図製作の技能は滅多に覚えている人間はおらず、彼女が驚くのも無理はない。レイナは地図製作の能力を発動して地図を記録すると、これで万が一に地図を紛失したとしても問題はない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます