第412話 ヒトノ帝国の領地へ
「ガウッ」
「きゅろろっ……クロミン、またでっかくなった」
「えっ?」
「ああ、いやいや!!気にしないで下さい!!この子、黒いのを見ると全部クロミンに見えるので……」
サンの言葉にティナは顔を向けると、慌ててレイナは誤魔化し、彼女の身体を抱き上げる。そのままクロミンの背中の上に移動させると、サンはクロミンの頭を掴んではしゃぐ。
「きゅろろっ!!オウソウより高い!!」
「ガアアッ♪」
「だ、大丈夫なのですか!?」
「平気、レイナの魅力ならどんな魔物でも従う」
「その言い方はちょっと止めてくれないかな……恥ずかしい」
「ぷるぷるっ(魔性の女だ)」
「「クゥ~ンッ……」」
シロとクロは黒竜の姿を見て怯えた表情を浮かべ、やはり野生の本能なのか竜種を前にすると本能的に恐れてしまうらしい。一方でサンの方は特に黒竜の姿のクロミンに怯える様子もなく、背中の上ではしゃぐ。
レイナはクロミンを黒竜に変化させたのは牙路を早急に安全に抜けるためであり、この状態のクロミンが同行していれば他の牙竜に襲われる心配はない。仮に見つかったとしてもその時はレイナが対処すれば問題はなく、他の者にも背中に乗るように告げる。
「さあ、この子がいる限りは襲われる事はないから早く行きましょう」
「こ、この牙竜に乗るのですか?」
「大丈夫です、人間は襲わないように調教してますので」
「あの短時間で!?」
「ガアアッ(早く乗れや嬢ちゃん)」
「ぷるぷるっ……」
クロミンが鳴き声を上げると、シルは怯えたようにティナの背中に隠れ、ティナ自身も未だに信じられない表情を浮かべる。そもそも竜種が人に懐くという光景があり得ず、彼女は警戒心を抱く。
しかし、黒竜が味方ならばこれ以上に心強い存在はおらず、彼女は意を決したようにレイナの後ろに回り、背中に乗り込む事にした。黒竜を利用すれば確かに安全に早く目的地に到着できるかもしれず、彼女は覚悟を決めた様にレイナの肩を掴む。
「ほ、本当に大丈夫なのですか?」
「大丈夫です、信じてください」
「……分かりました」
「レイナ、私はシロに乗っていくから速度を合わせて」
「分かった。話は聞いていたね、クロ……じゃなくて、えっと……もういいや、とにかくお願い」
「ガアアッ(了解)」
レイナに指示されたクロミンは立ち上がると、移動を開始する。その速度は凄まじく、並の牙竜よりも早い。牙竜は竜種の中では下位の存在だが、その機動力は高く、瞬く間に加速して平原の移動を行う。
「きゅろっ♪早い早いっ!!」
「よし、その調子だよ」
「は、早すぎませんかっ!?」
「ぷるるるるっ(←風圧によって激しく振動する)」
クロミンが駆け出すと背中に乗るサンは嬉しそうにはしゃぎ、そんな彼女をレイナはしっかりと抑え込み、ティナは振り落とされないようにしっかりと背中に抱き着く。
その後方をシロに乗り込んだネコミンも追いかけ、クロも後に続く。この速度ならば前回に徒歩で平原を通過した時よりも早く抜けられることが予想され、今日中には目的地に辿り着けそうだった。
「ガアアアッ!!」
「ガウッ!?」
「ガアッ!?」
途中で何体か牙竜の姿を目撃したが、咆哮を放ちながら移動を行うクロミンを見た瞬間に牙竜たちは怯え、慌てて逃げ出す。かつてクロミンはこの牙路に生息する牙竜を複数体喰らっているため、同族とはいえ、他の個体からは恐れられていた。
いくら牙竜が獰猛な種族とはいえ、自分よりも大きく、しかも圧倒的な力の差が存在する相手ならば野生の本能で逃走を選ぶのは無理はない。仮に襲われたとしてもレイナが文字変換の能力や聖剣を使用すれば問題はなく、何事もなく牙路を移動する。
「この調子なら多分、1、2時間ぐらいで牙路を抜けると思います!!ヒトノ帝国へ辿り着いたらどうしますか?このまま牙竜に乗って目的地へ向かいますか?」
「い、いえ……とにかく、牙路さえ抜け出せれば問題ありません。第一、この牙竜を連れて下手に領地内を移動するとどんな騒ぎになるかも分かりませんし……」
「確かにティナの言う通り……牙竜だと目立ちすぎる」
レイナとしてはこのままクロミンを黒竜に変化させたまま帝国領地を移動するべきかと思ったが、そんな事すれば大きな騒ぎになるかもしれず、第一に牙路を監視している兵士に見つかる恐れがある。
ヒトノ帝国でも牙路に関しては常に警戒態勢を敷いており、ケモノ王国ほどではないがヒトノ帝国も牙竜の被害を受けていた。そのため、牙路の付近には監視所が設けられていた。
前回の時はレイナ達は夜間の間に監視所を抜け出す事に成功したが、今回は昼間でしかも黒竜と化したクロミンを連れているため、この状態のまま連れ出すと面倒な騒ぎを引き起こす。第一にレイナはヒトノ帝国から指名手配されており、一応は性別を変化しているので気づかれる恐れはないが、あまり長居するべきではないだろう。
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