第410話 牙路の異変
――その後、キャンピングカーに関してはティナと行動する事が決まったため、ひとまずは森の中に隠しておくことにした。念のために魔除けの石を置いておくので魔物に襲われる事はないと思うが、用心に越した事はない。
他の人間の前で文字変換と解析の能力を見せるわけにもいかず、レイナはその後はティナと共に牙路へと向かう。途中で街に立ち寄った後、遂に牙路へと辿り着く。
「……辿り着きましたね。ここが牙路です」
「なんか久しぶりに思えるな。別にそんなに時間は経過してないはずだけど……」
「一か月ぶりぐらい?」
「ぷるるんっ(血が騒ぐぜ)」
「ぷるりんっ(血あるの!?スライムなのに!?)」
「きゅろっ……クロミンが張り切ってる。それにこの先、変な臭いがいっぱいする」
「「クゥ~ンッ……」」
牙路に辿り着いたティナは冷や汗を流す一方、レイナとネコミンは以前にも通った事がある場所なので特に緊張する様子もなく、むしろ魔獣達の方が反応していた。住処へと戻ってきてはしゃぐクロミンをサンは抱き上げ、鋭い嗅覚で周囲の様子を伺う。
ヒトノ帝国とケモノ王国が繋がる唯一の平原なのだが、ここは既に牙竜の住処のため、本来ならば慎重に進まなければならない。しかし、既にレイナは魔除けの石を用意しており、この魔道具さえ存在すれば牙竜だろうと襲われる心配はない。
「じゃあ、行きましょうか」
「待ってください!!ここから先は慎重に進まないと……シル、魔物の気配を感じたら教えてください」
「ぷるんっ(了解)」
「じゃあ、クロミンもお願い」
「ぷるるんっ(分かった)」
2匹のスライムは地上に降りると、ボールのように弾みながら移動を行う。レイナ達は2匹の後に続き、牙路の移動を開始した。ティナは周辺の様子を観察し、常に神経を張り巡らす中、レイナは魔除けの石を抱えた状態で困る。
この牙路をシロやクロ、馬などで移動するに事に関してはティナは反対を示し、派手に移動を行うと牙竜に発見される可能性があるという。一応はレイナも自分の魔除けの石は特別製で大抵の魔物は寄せ付けないと説明したが、竜種を退ける効果を持つ魔除けの石など聞いた事もなく、ティナは乗り物での移動を拒む。
「皆さん、気を付けてください。もしも牙竜に見つかった場合、まだ引き返す事は出来ます。その時は私に構わずに逃げてください」
「私に構わずって……ティナさんは?」
「どうにか時間を稼いでみます。皆さんは気にせずに逃げてください」
「それって自分を囮にして俺達を逃がすという事?」
「止めた方がいい、仮に見つかってもレイナなら何とかしてくれる」
「……レイナさんの強さは存じていますが、それでも相手は牙竜です。油断は出来ません」
ティナはネコミンの言葉に首を振り、彼女は牙竜と戦った事はないが、それでもその強さに関しては良く知っていた。最もケモノ王国では人間に被害を与える害獣として認識されているため、警戒せずにはいられない。
仮にも下位種とはいえ竜種である事は間違いなく、実際に牙竜が現れて戦闘になった時はティナでは相性が悪い。彼女のような接近して相手と戦うような戦闘職の人間では高速に動き回り、圧倒的な力で襲い掛かる牙竜の相手は分が悪すぎた。
(レイナ、本当に大丈夫?)
(うん、問題ないよ。魔除けの石があるから、クロミンの時みたいに特別な牙竜の亜種でも現れなければ平気だよ)
(そう……なら信じる)
ネコミンも牙路を通過する事に少し不安を抱いていた様子だが、レイナの言葉を聞いて彼女は安堵する。ネコミンは白狼騎士団の中でも最もレイナと仲が良く、既に信頼関係を築いているといっても過言ではない。そんな彼女の不安を打ち消すためにレイナは何があろうと自分が守る事を決意する。
(けど、この牙路を歩いて通るとなるとかなり時間が掛かるよな……どうしよう、何かいい方法はないかな……あ、そうだ。あの手を使えば……?)
レイナは名案というか妙案を思いつき、この方法ならば短時間で牙路を通り抜ける事が出来るのではないかと考え、ここで自分の所持している魔除けの石をネコミンに手渡す。
「あの、ちょっといいですか?」
「どうしました?何か気になる事があるんですか?」
「いえ、その……良い方法を思いついたのでここで待っててください。すぐに戻ってきますので……ほら、行くよクロミン!!」
「ぷるんっ!?」
「え、レイナさん!?いったい何処へ……!?」
ティナに待機するように伝えるとレイナは走り出し、引き留められる前にクロミンを抱き上げて走り出す。クロミンは唐突に自分を抱き上げたレイナに驚くが、そのまま二人は草原を駆け抜ける。
急いで追いかけようとしたが、レイナの脚は異常なまでに素早く、すぐに見えなくなってしまう。先日に習得した「俊足」の固有スキルと技能の「神速」のお陰でレイナの足の速さはシロやクロにも匹敵する、あるいはそれ以上の脚の速さだった。
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