第409話 種族の長所と短所

「レイナさんはどうして剛力の技能を覚えたのですか?剛力は確か、習得するためには莫大なSPを消耗すると聞いていますが……」

「え?」

「普通の人間なら剛力のような技能を覚える事は滅多にありません。戦闘職の人間でも剛力の技能を習得する者は稀です」



攻撃力を4倍まで強化する「剛力」の技能は覚えるのに相当なSPを消耗するため、ティナによると人間の中で剛力を覚えている者は少ないという。


しかし、並の人間よりも身体能力が高い人間ならば攻撃力を強化する剛力を覚える人間が大勢存在してもおかしくはないように思えるのだが、ティナによると普通の人間が剛力を覚えない理由は人間が比較的に「非力」な種族だからである。



「確かに剛力は強力な技能です、習得すれば筋力も強化されるでしょう。しかし、普通の人間の場合はいくら筋力を強化した所で巨人族や小髭族には及びません」

「基本的に全ての種族の中でも人間は力が弱い。身体を鍛えてレベルを上げても限界があるから剛力を習得するためにSPを消費する人間はいない」

「その通りです。それに比較対象の小髭族と巨人族も腕力を強化する技能を覚える事が出来るため、仮に腕力を強化する技能を習得しても相手が同じ技能を覚えていた場合は当然ですが種族的に力に優れている方が勝ります」

「あ、そうか……」



ネコミンとティナの話を聞いてレイナは納得し、普通の人間がSPを大量に消耗して剛力の技能を覚えない理由を悟る。だが、レイナの場合はSPをいくら消耗しても文字変換の能力があるため、最初の頃に考え無しに覚えたに過ぎない。


確かに普通の人間ならばレイナの行動は褒められる事ではないだろう。しかし、レイナの場合は普通の人間ではない。仮にSPを大量に消耗しても取り返しがつく能力があればどんな技能を覚えても問題はなかった。しかし、文字変換の能力を明かすわけにも行かず、レイナはどのように説明するべきかを悩む。



「えっと……俺の場合、ちょっと理由があって色々と技能を覚えやすいんですよ。だから余ったSPを消費して剛力の技能を覚えたというか……」

「技能が覚えやすい……失礼ですが、これまでにどの程度の技能を覚えたのですか?」

「20個ぐらい?」

「20!?それは……確かに凄いですね、私でも10個あるかどうかなのに」

「そう、レイナは凄い娘」

「ぷるるんっ(敬うがいい)」

「ぷるりんっ(←つぶらな瞳で尊敬の眼差し)」



レイナの言葉にティナは驚き、普通の人間ならば技能など5、6個、冒険者でも多くても10~15個の技能を覚えるのが限界だと言われているが、レイナの場合は更に多い。


確かにそれだけの技能を覚えているとしたら新しい技能を習得するよりも既存の能力を強化させる方がいいかもしれない。しかし、どうやってレイナがそれだけの数の技能を覚えたのかティナは気にかかり、内心で考え込む。



(この御方、やはり普通の人間とは違う。それにこの変な乗り物や食べ物、いったい何者なのか気になるところですが……)



ティナとしてはレイナの正体に興味を抱くが、これ以上に時間を費やすわけにも行かず、彼女はリルからの手紙を再確認して返答を行う。



「私は自分の用事を果たすまでは申し訳ありませんがリル王女様の要請であろうと応えられません。どうか、ご理解ください」

「やっぱり、牙路を通ってヒトノ帝国に渡るんですか?」

「いくら何でも危険すぎる。牙竜に見つかったら殺される」

「勿論、覚悟の上です。それに何も対策も立てずに挑むわけではありません、このシルは魔物を感知する力を持っています」

「ぷるんっ」



シルがティナの元に戻ると、彼女の腕の中で身体を震わせ、自分がティナを守るんだとばかりに主張する。その様子を見てもレイナとネコミンは不安を抱き、本当に大丈夫なのかと心配する。



「スライムの感知能力は優れているのは知ってる。でも、牙竜は嗅覚が鋭いから仮に事前に近付いている事を気づく事が出来ても、臭いを残したらすぐに追跡してくる」

「問題ありません、消臭石もあります」

「仮に牙竜と見つかったらどうするんですか?」

「その時は全力で挑むだけです」

「きゅろろっ……クロミンも連れてく?」

「ぷるるんっ(流石にスライムボディで戦うのはきついぜ嬢ちゃん)」



どうしても牙路に向かおうとすることを辞めないティナに対し、彼女の決意と覚悟を感じ取ったレイナ達は困り果てる。折角見つけた黄金級冒険者だというのにこのままでは牙竜の餌食となりかねない。


仕方なく、色々と考えた末にレイナ達も彼女に付いていく事にした。以前に牙路を通った時よりもレイナは成長しており、それに文字変換の能力で強化した「魔除けの石」を使用すればどんな魔物も寄り付かないことは証明済みだった。

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