第407話 技能を生かす

「うおおおっ!!」

「なっ!?」



レイナはティナが退魔剣を振り払う瞬間を見抜き、先日に覚えた「俊足」の技能を使用して後方へ飛ぶ。まるで獣人族並の跳躍力を見せつけたレイナにティナは驚き、そのまま彼女の退魔剣は空を切った。


攻撃をどうにか回避する事に成功したレイナは目を閉じた状態でもティナの位置を把握し、デュランダルを構えて踏み込む。衝撃波を発動させるには時間が掛かるため、ここは一か八か目を閉じた状態で剣を振り抜く。



「はああっ!!」

「くぅうっ!?」



全力でレイナがデュランダルを放つと、激しい金属音が鳴り響き、ティナの気配が遠ざかる。どうやら退魔剣で防ぐ事には成功した、想像以上のレイナの攻撃の重さに踏み止まれずに吹き飛んだらしい。


ティナの位置を感知しながらもレイナはデュランダルを構えて刃を振動させ、次は確実に倒すために先ほどよりも強烈な衝撃波を生み出す。




「これで、終わりだぁっ!!」

「きゃああっ!?」



体勢を整える前に衝撃波をまともに受けたティナの悲鳴が響き渡り、彼女は派手に吹き飛ぶ。やがて視界が回復すると、レイナの目に地面に倒れ伏したティナの姿が存在し、彼女は退魔剣を手放した状態で倒れていた。



「くっ……あ、あの、大丈夫ですか!?」

「ううっ……」



手加減する余裕はなかったため、慌ててレイナはティナの元に駆け寄ると彼女は起き上がり、右肩を痛めたのか左手で抑えていた。その様子を見てレイナはすぐにネコミンに治療を頼む。



「ネコミン、ティナさんの怪我を診て!!」

「んっ……分かった」



名前を呼ばれたネコミンは両目を擦りながらもティナの元へ向かい、彼女の怪我の治療を行う。治癒魔導士であるネコミンはすぐに回復魔法を施し、ティナの怪我を治す。


その間にレイナは落ちていた退魔剣の回収を行い、改めて持ち上げると想像以上に重量がある事に気づく。これでは並の人間には扱えず、相当な腕力を所有していないと振り回せない代物だと判明した。



(こんな重い剣をあんなに軽々と扱っていたのか……凄いな、ティナさんは)



改めてティナの実力を思い知ったレイナは冷や汗を流し、ティナが視界を封じた時にレイナが彼女の位置を探る技能を持ち合わせていなければ負けていただろう。リルが黄金級冒険者が味方というだけで戦力としては心強いと言っていた意味を理解できた。


正に黄金級冒険者は「一騎当千」の強者であり、仲間に加えれば非常に心強い。そのため、何としても彼女を味方に加えたいと思ったレイナは退魔剣を片手にティナの元へ向かう。



「大丈夫ですか?」

「……はい、ネコミンさんのお陰で傷は治りました」

「ぶいっ」



治療は既に終わったらしく、既にティナの怪我は回復していた。ネコミンは自慢するように両手でピースを行うと、レイナは彼女の頭を撫でながらティナに退魔剣を差し出す。



「これ、どうぞ」

「あ、ありがとうございます……あの、重くないのですか?」

「え?まあ、結構重たいとは思いましたけど……」



退魔剣を片手で渡してきたレイナにティナは驚き、彼女は退魔剣を両手で受け取り、背中へと戻す。そして改めてレイナと向き合うと、降参を認めた。



「私の負けです……お見事でした」

「ああ、いや……ティナさんも凄かったですよ。本当に殺されるかと思いました」

「申し訳ありません、手加減すればこちらがやられると思いましたので全力でいきました。ですが、一つだけお聞かせください……レイナさんは何者なのですか?」

「えっ!?」



ティナの言葉にレイナは戸惑い、まさか自分が勇者である事を見破られたのかと焦ったが、ティナが言いたいのはレイナがここまでの力をどうやって身に付けたのかだった。


少なくともレイナの外見は普通の人間の少女にしか見えず、外見の方も特に筋肉質というわけでもなく、細身だった。それでも大剣を軽々と扱うほどの信じられない腕力と体力を誇り、彼女はレイナが只者ではないと見抜く。


この世界ではレベルを上昇させれば身体能力は上昇し、子供でも重い武器を扱う事だって出来る。しかし、レベルを上げる方法は魔物を倒すか経験石を破壊する以外には入手できず、しかもレベルがは上昇する度に次のレベルへ上がる時の必要経験値が増えていくため、簡単にはレベルは上がらない。


普通の武芸者ならばレベルを上昇させるだけではなく、鍛錬を怠らずに身体を鍛える。しかし、レイナの場合は明らかに外見に見合わない程の異常な腕力を誇り、自分と年齢がそれほど変わらないと思えるレイナが自分以上に力を身に付けている事にティナは戸惑う。



「失礼ですが、レイナさんのレベルはおいくつですか?私は46ですが……」

「え、凄い!!そのレベルが40を超える人って、滅多にいないんだよね?」

「うん、普通はレベルは10を超える辺りから一気に上がりにくくなる。だから10代でレベルが40を超える人間は滅多にいない」



ティナの言葉にレイナは素直に驚き、ネコミンも感心した表情を浮かべる。しかし、ティナとしてはレベルが46も存在する自分よりも明らかに身体能力が高いレイナに増々疑問を抱く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る