第405話 黄金級冒険者との手合わせ

「牙路を通った……それはつまり、貴方達は牙竜の住処を潜り抜けた事があるというのですか?」

「あ、はい……まあ、大変でしたけど」

「ぷるるんっ(俺の故郷だぜ)」

「ぷるっくりんっ!?(マジで!?)」



ティナの言葉にレイナは頷き、クロミンが自慢げに鼻を鳴らすとシルは驚きの表情を浮かべるが、一方でティナの方は増々と疑いを深める。牙路がどれほど危険地帯なのかはケモノ王国の住民ならば知り尽くしており、下位種とはいえ仮にも竜種である牙竜がどんなに恐ろしい存在なのか知らない人間はいない。


白狼騎士団に所属する騎士を名乗り、冒険者も兼業していると説明したレイナ達だが、ティナは彼等がどれほどの実力者なのか気にかかり、質問を行う。



「失礼ですが、レイナさんの階級を教えて貰えますか?あ、この場合は冒険者の階級の事です」

「階級は銀級です、少し前に昇格したばかりです」

「銀級……ですか」



レイナの階級を聞いてティナはあからさまに残念そうな表情を浮かべ、仮にも白狼騎士団は武芸者揃いだと聞いていたが、階級が思っていたよりも低い事を知って同行を拒否する。



「申し訳ありませんが、階級が銀級程度ならば無茶は辞めておいた方がいいでしょう」

「むっ、確かにレイナは銀級冒険者だけど、昇格試験を受けたのは冒険者登録をしてから3日も経過しないうちに昇格試験を受けて合格している。あまり舐めないで欲しい」

「……それは本当ですか?」

「あ、はい。一応は……」



ネコミンの言葉にティナは少々意外な表情を浮かべ、冒険者登録を行ってからほんの数日足らずで銀級冒険者に昇格したと聞いて驚きを隠せない。ティナでさえも銀級冒険者に昇格した時は一か月以上の月日を費やしていた。


仮にネコミンの言葉が事実ならばレイナの実力は銀級冒険者には留まらず、もっと上の実力を保有している可能性が高い。それに最初の邂逅の時に自分の一撃を受け止めた事を思い出したティナはレイナに興味を抱く。



「では……もしも本当に私に同行したいというのであれば貴方の実力を確かめさせてください」

「確かめる?どうやって?」

「簡単な話です、貴方も剣士ならばここは剣で語り合いましょう」

「あ、やっぱりそんな感じですか……」



ティナは自分の大剣を掴んで笑みを浮かべると、何となくだがこのような展開になる事は予想していたレイナはため息を吐き出し、仕方なく外へ移動した――






――キャンピングカーから抜け出したレイナはティナと向き合い、今回は「デュランダル」を装備して向き合う。ティナが大剣使いという事もあり、普通の剣では押し切られる可能性を考慮してレイナもデュランダルを装備したのだが、ティナとしてはレイナが自分が所持する武器以上の大剣を取り出した事に驚く。



「貴方も大剣が扱えるのですか?しかし、先ほどは長剣を使っていましたが……」

「えっと、騎士として活動するときはこっちの剣を使っています」

「なるほど……それにしても中々見事な大剣ですね。何処の名工が作り上げたのですか?」

「いや……この大剣は拾い物なのでよく分かりません」



デュランダルを見てティナは普通の大剣ではない事を一目で見抜き、どうやら観察眼も高く、彼女はレイナを只者ではないと判断して自分の大剣を引き抜く。一方でレイナの方もティナの大剣を見て普通の武器ではない事を見抜く。



「ティナさんの大剣も名工が作ったんですか?」

「ええ、私の知人の小髭族が作り上げてくれた「退魔剣」です。白竜と呼ばれる竜種の鱗とミスリルを組み合わせて作り上げた名剣ですよ」

「へえ……」



ティナは自慢げに自分の大剣の事を語り、竜種の鱗を利用しているという話にレイナは驚く。最初にティナが攻撃を仕掛けてきたとき、アダマンタイト製の剣と張り合った事から考えても並の武器ではないことは間違いないため、レイナは本気で戦っても問題ないと判断した。


仮に相手が生半可な武器を所持していれば聖剣の攻撃を受けて耐え切れるはずがないが、ティナの所有する大剣も普通の武器ではないのならば遠慮は必要なく、レイナは本気で挑むことにした。仮にも相手は黄金級冒険者のため、手加減をする余裕はない。



「じゃあ、審判役は私が勤める……公平を期すためにシルにも手伝って貰う」

「ぷるっくりん(不正は見逃さない)」

「開始の合図はこのコインが地面に落ちた時でいい?」

「構いません」

「問題ないよ」

「それ、サンが投げたい!!」



審判役はネコミンとシルが勤め、サンが開始の合図のコインを投げる事が決まり、準備を整えたレイナとティナは向かい合う。そしてサンがコインを握りしめると、元気よくコインを振りかざす。



「きゅろっ!!」



普通の決闘ならばコインを上に弾くのだが、やり方を理解していないサンは元気よく腕を振り回し、上空へと投げ込む。遥か上空まで上がったコインを見てレイナ達は慌てて視線を向け、コインが落ちる瞬間を捉える。

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