第403話 シルバースライムとの出会い

――今から10年以上前、村に牙竜が襲われた際に一人だけ生き延びて逃げる事が出来たティナは奴隷商人に捕まり、そのままケモノ王国へと行きつく。奴隷商人は非合法な方法で捕まえた奴隷を利用し、ケモノ王国には人間の奴隷を、ヒトノ国には獣人の奴隷を売り捌いでいた。


ティナは幼少の頃から容姿に優れていたので奴隷としての質は高いと判断され、彼女は丁重に扱われた。その際にティナは「シルバースライム」と呼ばれる希少種のシルと出会ったという。


商団の馬車で運ばれる際、ティナは偶然にも隣の檻に捕まっていたシルバースライムと出会い、心が荒んでいた彼女はシルのお陰で安らぎを得た。シルの方もまだ子供だったティナに懐き、二人は協力して脱走を計った。



『スライムちゃん、お願い……私に力を貸してくれる?』

『ぷるるんっ!!』



シルバースライムのシルは檻に閉じ込められようと形を自由に変化できるスライムの特性を生かし、鉄格子を潜り抜ける。そして見張りがいない隙を狙ってシルは鍵を盗み、ティナの元にまで運ぶ。


その後は深夜の時刻にティナはさぼり癖がある見張りが眠り込んでいる間に檻から抜け出し、シルと共に逃げ出した。だが、既に商団はケモノ王国の領地に移動していたらしく、彼女はヒトノ国へ戻る手段がなかった。


ケモノ王国からヒトノ国へ向かうには国境を越える必要があるのだが、ケモノ王国とヒトノ国の間には険しい山岳地帯に阻まれており、唯一平地繋がりの路は牙竜の住処と化しているので子供のティナが国へ戻る事は出来なかった。そのため、彼女はケモノ王国で生き抜く事を決意する。



『スライムちゃん……私とずっと一緒にいてくれる?』

『ぷるっくりんっ!!』



子供のティナはシルと共に生き抜く事を決意すると、彼女は国境付近に存在した街に辿り着き、助けを求めた。人間の子供が希少種のスライムを連れて現れた事に街の人間達は驚いたが、すぐに警備兵が彼女を保護してくれた。


この時に知ったのだが、シルバースライムはスライム種の中でも非常に珍しい魔物らしく、その希少性から自分のペットにしようとする貴族が多いという。だからこそ奴隷商人たちもシルバースライムを拘束し、このケモノ王国の貴族へと売り払おうとしていた事が発覚する。


警備兵に保護されたティナは身寄りがない事を話し、しばらくの間は警備兵の世話になっていた。その時に彼女は実は称号を持っている事が発覚し、彼女は戦闘職の中でも非常に珍しい「重騎士」という称号だった。



『え?私が剣士に……?』

『ああ、そうだ。称号を持っている人間ならすぐに剣術を覚えられるだろうからな。剣を扱えるようになれば一人でも十分に生きていけるだろう』

『ぷるるんっ?』



警備兵の隊長を務めていた男はティナの才能を見抜き、彼女に一から剣の技術を叩き込む。幼かったとはいえ、称号を所持していたティナは瞬く間に剣術を会得し、10才の誕生日を迎える時には既に警備兵を手伝って街に近付く魔物の討伐を行う程の腕前に成長していた。


やがて彼女の才能がただの警備兵に収まるはずがないと思った警備隊長の推薦により、彼女は冒険者になった。そして更に月日が流れ、いつの間にかティナは黄金級冒険者へと昇格を果たし、巷では「金色の剣士」と呼ばれる程の立派な剣士へと成長を果たす。


しかし、いくら冒険者の階級が昇格しても人々から称賛されてもティナの心は満たされず、彼女はどうしても叶えたい願いがあった。それはヒトノ国へと戻り、自分の村があの後にどうなったのかを確かめるために彼女はこの地まで赴いたという――






「――最初にレイナさんと遭遇した時、この場所が私を連れ去った奴隷商人が野営を行っていた場所だったんです。だからシルが消えた時、まさか私を捕まえた奴隷商人に捕まったのではないかと思い込んでいました」

「あ、なるほど……それでシルちゃんを救うためにあんなことをしたんですね」

「本当に申し訳ありません!!あの時は冷静さを欠いていました……シルが私の傍を離れる事など滅多になかったので、急に姿を消して不安を抱き、あのような軽率な行動を……」

「いえ、気にしてませんよ。うん、気にしてませんから……危うく死にかけたけど全然気にしてませんよ」

「ほ、本当ですか?」



妙に気にしていないという言葉を連呼するレイナにティナは不安の表情を浮かべるが、彼女の話を聞いて事情を察したレイナはシルの頭を撫でる。するとシルは嬉しそうにレイナの元に飛びつき、彼女の豊かな胸元に挟まれる。



「ぷるぷるっ♪」

「わ、また飛びついてきた……よしよし、結構甘えん坊なんですね」

「いえ、普段は私以外の人間にはあまり懐かないはずなんですが……おかしいですね」

「そうなの?私にも懐いてると思う」

「ぷるるんっ♪」



ネコミンが手招きを行うと、シルはそちらにも嬉しそうに飛びつき、彼女の大きな胸元に挟まれて癒された表情を浮かべる。その様子を見てサンも手招きを行う。

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