第402話 ティナの過去
「簡単な話、レイナは兼業が許されている」
「兼業!?」
「ちょ、その説明もどうかと思うけど……」
ネコミンの言葉にティナは驚き、レイナはあまりにも適当な説明に焦ってしまうが、別に嘘を付いているわけではない。レイナはリルの公認で冒険者活動を行い、黄金級冒険者を目指している。
その辺の事情を話すとなると長くなり、そもそもティナに詳しく話すわけにはいかない。彼女はあくまでも今日であったばかりの冒険者でしかなく、事情を全て話す必要はない。
「まあ、えっと色々と事情がありまして……簡単に言うと俺は黄金級冒険者の方達を探すために冒険者活動をやってるんです」
「それはリル王女様の命令という事ですか?」
「まあ、そんな感じです。それよりも手紙の方を確認して貰えると有難いんですけど……」
「……そうですね、では少し待ってください」
レイナの言葉にティナは頷き、彼女は手紙の内容を確認する。その一方で彼女が連れている「シル」という名前のスライムはクロミンと共にぷるぷる震えるようなダンスを繰り広げていた。
「「ぷるぷる♪」」
「はっ……あれはスライムが友好の証として披露する「ぷるぷるだんす」という踊り。クロミンもシルの事を気に入ったみたい」
「ぷるぷるだんす……まんまだな」
「きゅろろっ♪(←釣られて小躍り)」
出会ってまだ間もないがスライム達は気が合うらしく、クロミンとシルはサンを中心にぷるぷると震えながら動き回る。一方で飼い主であるティナの方は手紙の内容を確認し、難しい表情を浮かべた。
手紙に関してはレイナ達は中身は確認していないが、内容の方は事前に伝えられている。手紙には黄金級冒険者であるティナにガーム将軍が軍隊を率いて王都にまで攻め込んできた場合、ティナには王国軍として加わってもらいたいという旨が記されているはずである。
内容が戦に関わる事なのでティナがどのような反応を示すのか分からず、仮にここで断れた場合はレイナ達はティナを説得しなければならない。黄金級冒険者である彼女が味方になれば心強いが、もしも断れたとしたらせめてガーム将軍側の味方にならないように説得しなければならない。
(リルさんの話だとガーム将軍は人脈も広いから既に黄金級冒険者と知り合っている可能性もあるらしいし、もしも黄金級冒険者が敵に回ったとしたら厄介な事になる。それだけは避けないと……)
未確定情報だが、ガームを調べたところによると彼は高名な冒険者とも縁があるらしく、実際に国内で活躍している高い階級の冒険者がガーム将軍の領地に向かったという報告が届いている。もしもティナがガーム将軍の関係者ならば非常にまずく、なんとしても黄金級冒険者の彼女だけは引き留める必要があった。
「……事情は理解しました、どうやらガーム将軍がケモノ王国に大して反旗を翻そうとしている噂は本当だったのですね」
「あ、いえ……その辺に関してはまだ確認を取れていません。一応は使者を送ってガーム将軍が何を考えているのかを確かめようと……」
「ではガーム将軍が王子を利用してケモノ王国を乗っ取ろうとしているのは確定ではないと?」
「まだ、分かりません。ですけどリル王女は王国への忠義心が厚いガーム将軍がそんな真似を仕出かすとは思えないといってました」
ティナの言葉にレイナはリルから聞いた話を伝え、あまりこのような込み入った話は他の人間にしない方がいいのだが、ティナには協力してもらう立場なのだからやはりある程度の事情は伝えるべきだと判断する。
手紙を握りしめながらティナは考え込む素振りを行い、やがて決意したように頷く。そして彼女は踊りに夢中になっているシルを抱き上げ、予想外の言葉を言い放つ。
「事情は理解しました。ですが、今の私では王女様の願いを叶えるのは難しい状況にあります」
「難しい……状況?」
「……現在、私はとある事情でヒトノ国へ向かわなければなりません」
「ヒトノ国へ!?いったいどうして……」
ヒトノ国へ向かうという言葉にレイナ達は驚き、彼女はシルを抱きしめながらどうして自分が牙路へ向かっていたのかを話す。
「実を言えば私は元々はヒトノ国の人間でした。元々はヒトノ国とケモノ王国の国境近くに存在する村で暮らしていたのですが、ある時に牙竜が襲撃して私が住んでいた村の住民は私を覗いて全員が殺されてしまいました」
「そんな……」
「きゅろろっ……可哀想」
「…………」
ティナの言葉にレイナ達はなんと言葉を掛ければいいのか分からず、彼女は更に話をつづけた。家族も友人も住む場所を失ったティナは逃げる事しか出来ず、途方もなく村を離れて歩いているときに更なる不運に見舞われた。
「村から逃げ出した私は運悪く、奴隷商人の商団に捕まってしまい、身寄りがないという理由でそのまま奴隷に仕立て上げられ、ケモノ王国に流れ着きました」
「奴隷商人!?」
「幸いというべきか、私は国境を越えた時に隙を突いて逃げ出す事に成功しました。そして捕まっているときにこの子と出会いました」
ティナはシルの頭を撫でながら自分達の出会いを語り始めた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます