第399話 黄金級冒険者との邂逅

「「ウォンッ!!」」

「うわ、びっくりした……おはよう、シロ君、クロ君」



キャンピングカーの外に出ると既に目を覚ましていたのかシロとクロがレイナの元に駆け寄り、御飯をねだる様に尻尾を振る。その様子を見てレイナは2匹にドックフードを用意してやると、剣の鍛錬を行う。


鍛錬といっても剣の素振りを行う程度の事しか出来ず、リルやチイが傍に居る時は二人に指導してもらうのだが、一人の時はレイナは黙々と素振りを行う事しか出来ない。教えられた剣の型を行い、ただひたすらに剣を振り抜く。



「1、2、3、4……」



素振りを行う時は数を数えるように心掛け、最低でも1日に300回は素振りを行うようにとリルとチイから注意されている。毎日の鍛錬の積み重ねが重要であるらしく、レイナは二人の言い付け通りに素振りを行う。


やがてレイナの身体に汗が滲み、様子を観察していたシロとクロが暇そうに欠伸を行う頃、一旦休憩を挟もうかとレイナが考えた時、不意に彼の気配感知に反応があった。



(敵!?そんな馬鹿な……魔除けの石があるのに!?)



レイナは咄嗟に周囲を振り返ると、シロとクロの様子を伺う、気配感知が発動した以上はそれほど遠くない場所に生物が隠れているはずだが、嗅覚に鋭いはずのシロとクロは特に反応を示す様子がない。


2匹が警戒心を抱いていない事を確認するとレイナは更に驚き、優れた嗅覚を持つはずのシロとクロが存在を確認できないほどの相手が現れたのかと戸惑うと、足元の方から声が聞こえてきた。



「ぷるぷる~♪」

「うわっ!?な、なに!?」

「ウォンッ?」

「クゥンッ?」



足元に違和感を感じたレイナは驚いて視線を向けると、そこにはいつの間にか自分の脚に擦り寄る「銀色」のスライムが存在した。最初はクロミンかと思ったが、クロミンとは体色が違い、それに一回り程小さい。


レイナは唐突に現れて自分の足元に擦り寄ってきたスライムに気づいて戸惑うが、特に敵意はないらしく、スライムは甘えるようにレイナに擦り寄る。



「ぷるるんっ♪」

「……あはは、君どこから現れたの」



スライムは比較的に大人しく、人に危害を加えない魔物であるため、レイナは安心してスライムを抱き上げる。スライムはレイナに抱えられると嬉しそうな声を上げ、胸元に擦り寄ってきた。



「ぷるるるっ」

「ちょっ……もう、甘えん坊だな。よしよし、いい子だから大人しくしてね」

「「クゥ~ンッ」」



レイナに抱きかかえられたスライムを見てシロとクロは微笑ましい表情を浮かべ、どちらともスライムの存在を脅威とは考えていないらしく、だからこそレイナに警告を行わなかったらしい。


スライムを抱きかかえた状態でレイナは周囲を見渡し、このスライムが何処から現れたのかと不思議に思っていると、ここで彼女は背後から強烈な圧迫感を覚え、同時にシロとクロが騒ぎ出す。



「ウォンッ!?」

「ガアアッ!!」

「何だっ……!?」

「ぷるんっ?」



背後から異様な気配を感じたレイナは反射的にスライムを手放すと、手にしていたアダマンタイト製の剣を構える。その直後、レイナの視界に金色の髪の毛の少女が現れると、彼女は手にしていた銀色の大剣を放つ。



「はっ!!」

「くっ!?」



少女が繰り出した大剣に対してレイナは咄嗟にアダマンタイトの剣で受け止めると、激しい金属音が鳴り響く。その一撃の重さにレイナは腕が痺れ、一方で少女の方も驚いたように目を見開く。


即座にシロとクロはレイナに危害を加えようとした少女を見て動き出そうとするが、その前にレイナから離れたスライムが間に割って入り、必死に何かを訴えるように鳴き声を上げた。



「ぷるんっ!?ぷるぷるっ!!ぷるっくりんっ!!」

「……なるほど、そういう事でしたか」

「えっ?」

「「ウォンッ?」」



スライムの言葉を聞いて少女は大剣を引くと、背負いこむ。少なくとも重量は100キロは超えそうな大剣を軽々と扱う少女にレイナは戸惑うが、彼女は自分の元に訪れたスライムを抱きかかえると、レイナに振り返って頭を下げた。



「申し訳ありません、勘違いで貴方に危害を加えようとしたことを詫びます」

「え、あの……」

「この子を攫った賊と間違えて貴方に攻撃を加えてしまいました。大変、失礼な真似をしました、お許しください」

「この子?」

「ぷるるんっ!!」



少女の行動にスライムは少し怒った風に彼女の頭の上で跳ねると、レイナはどういう事なのかと戸惑い、とりあえずは剣を収めた。相手が謝罪してきたのでシロとクロも警戒心を解いたのか、大人しくレイナの元に近付く。


とりあえずは少女から話を聞くためにレイナはスライムに視線を向け、まずは自分の名前を告げて相手の正体を尋ねる事にした。

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