第398話 黄金級冒険者の手がかり

――翌日、前日に走りすぎて足に痛みを覚えたレイナはネコミンの治療を受けて回復すると、今回はサンとクロミンとシロも引き連れて冒険者ギルドに立ち寄る。するとリンがレナ達を見て待っていたかのように手招きを行う。



「ああ、丁度良かった。あんたらを呼ぼうかと思ってた所だったよ」

「どうかしたんですか?」

「お姫様に頼まれた件でね、あんた達にも一応は伝えておこうかと思ってね……まあ、とりあえずは座りな」



リンは冒険者ギルド内に存在する酒場の席にてレナ達と共に座り、率直に呼び出した理由を話す。彼女はリルに頼まれてレイナ達の協力をするように言われているため、ギルドに入ってきた情報を伝える。



「実はあんたらが捜している黄金級冒険者の一人の居所が判明したんだよ」

「そうなんですか?良かった、それで何処にいるんですか?」

「それがね……困った事に厄介な場所にいるらしくてね」

「厄介な場所?」

「ああ、実を言えばどうもそいつは牙路に向かったらしいんだよ」

「ぷるるんっ!?」



クロミンは「牙路」という言葉に動揺を示し、自分が暮らしていた地域の名前が出てきた事に驚きを隠せない。リンは唐突に鳴き声を上げたクロミンに訝しるが、レイナはクロミンを落ち着かせるように膝の上に移動させる。


牙路に関してはレイナも知っている場所であり、なにしろクロミンが牙竜の亜種であった頃に遭遇した危険地帯である。ヒトノ帝国とケモノ王国の領地の間には山岳地帯が存在するのだが、この牙路だけは草原で繋がっていた。


しかし、牙路には下位竜種である「牙竜」と呼ばれる竜種の生息地でもあり、かつてヒトノ帝国は大軍を率いてケモノ王国に攻め寄せようとした時、牙竜の群れによって軍隊は壊滅的な被害を受けた事もある。それほどの危険地帯にどうして黄金級冒険者が訪れたのかとレイナ達は驚く。



「どうして牙路に黄金級冒険者が……まさか、国境を越えようとしたんですか?」

「いや、そこら辺の情報はあたしも詳しくは知らないんだけどね。理由は分からないけど、牙路に向かったというのは間違いないよ」

「なら、牙路に向かえばその人と会える?」

「おいおい、無茶を言うんじゃないよ。まさか、あんたらだけで牙路に向かうつもりかい?あそこがどんなに危険な場所か知ってるのかい?」

「大丈夫、俺達はそこを通ってきたので問題ありません」

「……何だって?」



レイナの言葉にリンは愕然とするが、ようやく黄金級冒険者の手がかりをつかむ事が出来たレイナはネコミンに頷き、早速出発の準備を整えることにした。



「情報、ありがとうございます。それとしばらくの間はここに来れないと思うので、もしも黄金級冒険者の人たちが戻ってきたら俺達の代わりにリルさんに頼まれた事を伝えて貰えますか?」

「お、おいおい!?馬鹿を言うんじゃないよ、まさか本気で牙路に行くつもりかい!?止めときなって、あそこは本当に危険なんだよ」

「ぷるぷるっ(大丈夫だ、問題ない)」

「なんでこのスライムは自信ありげな表情を浮かべてるんだい……」



クロミンは自分に任せろとばかりにドヤ顔を行うと、リンはクロミンの反応に戸惑うが、折角掴んだ黄金級冒険者の手がかりを逃すわけにもいかず、レイナ達は早速行動に移った――






――牙路に出発する前にレイナは王城の方へ連絡を送り、すぐに出発の準備を行う。今回は急ぐ必要があるため、シロとクロにも手伝ってもらい、戦力を整えるためにクロミンとサンも同行させる。


万が一の場合はこの二人を元の姿に戻して戦ってもらう事態に陥るかもしれず、準備を整えるとレイナはネコミンと共に王都を出発した。今回はヒトノ帝国からケモノ王国までの移動経路を遡っていく形となり、前回の時と違って今回は邪魔者も現れないため、順調に進む事が出来た。



「ふああっ……キャンピングカーで夜を過ごすのも久しぶりだな」

「ごろごろっ……」

「きゅろろっ……」

「ZZZ」

「うわ、また俺のベッドに皆入り込んできて……ほらほら、パンツ見えちゃうよ二人とも」



野宿の際はレイナは文字変換の能力でキャンピングカーを作り出し、夜を過ごす。魔物に襲われる事を警戒して「魔除けの石」も持参しているため、今のところは道中で魔物に襲われた事はない。


出発を開始してから既に数日の時が流れ、レイナ達は牙路からそれほど離れていない場所にまで辿り着いた。途中でいくつかの村や街で情報収集を行ったところ、どうやら黄金級冒険者は既に訪れたという話は聞いていないため、どうやらレイナ達の方が先に辿り着きそうな様子だった。


キャンピングカーの中で夜を明かしたレイナは自分のベッドでTシャツを着こんだ状態で潜り込むネコミンとサンに毛布を掛けると、皆が起きる前に剣の稽古でも行おうかと外へ出る。

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