第397話 固有スキル「俊足」
「ガアアッ!!」
「ア、ガァッ……!?」
シロに首筋を噛みつかれたコボルトは最初の内は必死に抵抗を試みるが、やがて力を失ったように倒れ、その様子を確認したシロは口の中の肉を吐き出す。基本的には魔物の肉を好むシロだが、自分と同じ狼種の肉は好まないらしい。
「ウォンッ!!」
「あ、待って!!もういいよシロ君、戻っておいて!!」
続けて逃げ出したもう1匹をシロは追いかけようとしたが、その様子を見ていたレイナがすぐに引き留める。無理に深追いする必要はなく、むしろシロとはぐれる事を危惧してレイナは呼び止める。
命令を受けたシロはすぐにレナの元に戻り、血まみれになった顔面を近づけて「褒めて褒めて」とばかりに擦り寄る。血が口元に付着した状態で自分にじゃれついてくるレイナは困った表情を浮かべながらも頭を撫でた。
「よ、よしよし……よくやったね、シロ君」
「ウォンッ♪」
「さてと……じゃあ、とりあえずは素材の回収を行いますか」
レイナはシロの頭から手を離すと、改めてコボルト亜種の死体へと近づく。コボルト亜種は自分が死んだことに気づいていないかのように立ち尽くした状態で絶命し、その様子を見たレイナはフラガラッハを取り出すと、一気に刃を振り下ろす。
「ふんっ!!」
コボルト亜種の肉体が真っ二つに切り裂かれると、やがて体勢を崩した死骸が地面に倒れ込む。その様子を確認したレイナは額の汗を拭うと、死骸の中から赤黒い宝石のような物を発見した。
ヒトノ帝国を抜け出す前に遭遇したゴブリン亜種の死骸にも存在した「経験石」である事をレイナは見抜き、魔物の亜種にはこの経験石と呼ばれる特殊な魔石が存在する場合がある事を思い出す。
「これがコボルト亜種の経験石か……ゴブリンの時と比べても大きいな」
「ウォンッ!!」
「ん?これをどうするのかだって?もちろん、壊すよ」
経験石を破壊すれば大量の経験値と共に新しい「固有スキル」を覚えられる可能性があるため、レイナは迷わずに破壊を行う。地面に転がった経験石に視線を向け、レイナはフラガラッハを振り下ろす。
経験値を増加させるフラガラッハを所持した状態で破壊すれば通常よりも多くの経験値が得られるかと思ったが、残念ながらレベルが上がりすぎた影響なのか今回はレイナのレベルが上昇する事はなかった。しかし、固有スキルの方は新しい能力を覚える事に成功し、ステータス画面に新しい能力が追加された。
『俊足――移動速度の上昇』
「おおっ、なんか便利そうなのを覚えたな……移動速度の上昇という事は足でも速くなったのかな。シロ君、ちょっとかけっこしてみる?」
「ウォンッ?」
レイナは新しく覚えた固有スキルを見てその効果を試すため、試しにシロとかけっこを提案する。シロは不思議そうな表情を浮かべるが、すぐにレイナの隣に移動すると準備を行う。
「よし、ならどっちが王都に辿り着くか競争をしようか。先に城門まで辿り着いた方が勝ち、シロ君が勝ったら明日の御飯はシロ君の好きなビーフジャーキーを用意するよ」
「ウォンッ(おっしゃあっ!!)」
「じゃあ、よ~い……どんっ!!」
シロはレイナの提案に張り切り、二人は同時に駆け出すと王都まで向けて移動を行う。スタートダッシュはシロが勝ったが、その後の移動に関しては徐々にではあるがレイナがシロに追いついていく。
地球の狼でも足が速い種は時速100キロを超えるが、魔獣であるシロの場合はその比ではない。しかし、そんなシロと同等かあるいはそれ以上の速度でレイナは草原を走り抜ける。
(うわ、凄い……何だこれ、こんなに早く走れるのか!?)
まるで自分が獣人族になったかのようにレイナは身体が軽く、今までとは比べ物にならない速度で駆け抜ける事が出来た。感覚的にはまるで自分の周囲の時間の流れが変わったかのように早く動き、王都までかなりの距離が離れていたはずなのに走り出してから数十秒ほどで城門を視界に捉える。
(凄い、この調子ならもっと早く動け……!?)
しかし、移動の最中に突然にレイナは自身の身体が鉛のように重くなった。やがて速度が落ちていき、最終的には立ち止まってしまう。
立ち止まったとたんにレイナの身体中から汗が滲み出し、立つこともままならずに膝を付いてしまう。レイナの異変に気付いてシロは引き返すと、レイナの事を心配するように顔を覗き込む。
「クゥ~ンッ……」
「はあっ、はっ……だ、大丈夫……疲れただけだから」
レイナは自分を心配そうに見つめてくるシロに身体を預け、肉体の異変の原因に気づく。どうやら身体能力が高くなりすぎて知らず知らずに無茶をしたらしく、限界以上の力を引き出して走ったせいで体力を消耗してしまったらしい。
結局、新しい固有スキルを覚えたにも関わらずにレイナはその後はシロに運んで貰い、宿屋まで引き返した――
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