第394話 魔石制作

「サン、あんまりシロをいじめちゃ駄目だよ」

「あ、レイナ、ネコミン!!サンはシロをいじめてないよ?」

「どっちにしても人が多い場所であんまり目立つ事はしちゃ駄目だと言ったでしょ。全くもう、うちの子は目立ちたがり何だから」

「レイナ、本当にお母さんみたいになってる」



駆け寄ってきたサンを抱き上げてシロの背中の上に乗せると、とりあえずはレイナは王城へ引き返そうとする。しかし、城に向かおうとした途中でレイナは足を止め、不意に地面に転がっている「小石」に視線を向けた。



「レイナ?どうかした?」

「いや、ちょっと思いついて……とりあえず、一旦宿に戻らない?」

「忘れ物?」

「ううん、ちょっとね……まあ、宿に行こうよ」



レイナの言葉にネコミン達は首を傾げるが、そんな彼女達を連れてレイナは宿屋へと引き返す――






――それから30分後、レイナ達は冒険者ギルドへと戻るとリンに依頼書に指定されていた火属性の魔石を渡す。まさかこんなにも早く調達してくるとは思わず、リンは驚いた。



「まさか、もう持ってきたのかい!?よくまあ、調達できたね……誰か魔石を持っている知り合いでもいたのかい?」

「えっと、まあ……そんな感じです」

「……うん、たまたま見つけただけ」

「……何で顔を逸らすんだい?」



リンの言葉にレイナとネコミンはあからさまに視線を逸らし、彼女達の反応にリンは訝しむが、入手した経緯はどうであれこれで依頼は達成された。すぐにリンは依頼書の達成手続きを行い、これでレイナとネコミンは一気に評価点を稼ぐ。


ちなみに今回の依頼に関しては宿屋に戻った後、レイナが文字変換の能力で「小石」を「魔石」に変換して作り上げた代物である。魔石を撃ち込むときに良質な火属性の魔石が欲しいと願って行ったため、結果的には火属性の魔石の製作に成功した。



「いや、本当に助かったよ。これだけの良質な魔石なら依頼人も大満足だろうね」

「……ちなみにその依頼人はどんな人なんですか?」

「あ~……こういうのは本当は教えたら駄目なんだけどね。まあ、あんたらの知っている人だよ」

「え、それって……」

「すいませ~ん!!二か月前にここで依頼を頼んだんですけど、まだ達成してないんですかぁっ!?」



会話の最中、冒険者ギルドの玄関が開かれて怒鳴り声が響き渡り、レイナとネコミンは聞き覚えのある声なので振り返ると、そこには白衣姿のリリスが存在した。


彼女が現れた事と先ほどの言葉からレイナとネコミンは嫌な予感を覚え、リンは二人に対してリリスを指差してはっきりと告げる。



「……あの人が依頼人だよ。大分前からああして定期的に訪れては催促してくるんだけど、どうにかしてくれないかい?」

「あれ?そこにいるのはレイナさんとネコミンじゃないですか、どうしたんですかこんな所に……ちょっと待ってください、何ですかその目は?私、何かやらかしましたっけ……?」

『…………』



よりにもよってお前かよとばかりにレイナとネコミンはジト目でリリスを睨みつけると、彼女は困惑した表情を浮かべた。


その後は軽く事情説明を行い、まさかリリスは自分が冒険者ギルドに依頼した仕事が塩漬け依頼扱いされ、しかもレイナとネコミンが依頼を達成したという話を聞かされて驚く。



「あ~……なるほど、そういう事情でしたか。すいませんね、面倒な仕事を引き受けてもらって……」

「まあ、お陰で高い評価点を手に入れられたから問題はないけど、それにしてもどうして火属性の良質な魔石なんて集めようとしてたの?」

「いえ、色々と実験を行うためにどうしても必要になりまして……まあ、実際の所は先日にレイナさんのお陰で大迷宮でたくさん魔石を手に入れたので別に今回の依頼はキャンセルしても良かったんですけどね」

「なんという我儘……理不尽過ぎる」

「いや、だって二か月も前に発注した依頼が達成されないなんてこっちだって迷惑でしたよ」

「そこら辺を言われるとギルドとしても辛いねぇ……」



リリスの言い分も一理あり、彼女は別にレイナ達に迷惑を掛けるために依頼を発注したわけではない。だが、こうして再会できたのも何かの縁なのでレイナはリリスも共に冒険者活動を行うのかを尋ねる。



「俺達はしばらくは冒険者活動をする事になるんだけど、リリスも一緒にどう?」

「あ、いえ私は冒険者の資格を持ってないので……」

「え、持っていないの!?」

「私は他の方と違って銀狼隊には属していないんですよ。基本的に王城に引きこもって研究に没頭しています」

「リリスの研究はお金が掛かるけど、時々便利な魔道具を作ってくれる。だからリルもリリスの行動を止めない」

「時々とはなんですか、失礼な……それよりも丁度良かったです、レイナさんのために作っておいたあれを渡しておきますね」

「あれ?」



レイナはリリスの言葉に疑問を抱き、自分は彼女に何か頼んでいたのかと不思議に思うと、リリスは背中のリュックからレイナ専用の道具を渡す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る