第393話 塩漬け依頼

――時刻は昼を回ると、レイナはとりあえずは魔爪術の訓練を中断して冒険者ギルドへと向かう。訓練の最中にとりあえずは自分の体内に存在する魔力を感じ取る事は出来たが、あまりに長時間の訓練は身体に悪いというネコミンの判断で訓練は切り上げられてしまう。


肉体を鍛える訓練よりも魔力を操作する事は非常に身体に負担が掛かり、理由としては魔力は生命力その物ため、あまりに不必要に魔力を操ろうとすると生命に影響を及ぼす危険性があった。それにレイナが城下町に赴いた理由は黄金級冒険者の捜索と、階級を昇格させて黄金級冒険者になるためだった。



「悪いけど、黄金級冒険者の奴等が戻ってくる予定は聞いてないね。この間、エロ爺が戻ってきたんだけどすぐに出発したからね」

「エロ爺……?」

「ああ、老聖と呼ばれている剣聖の称号を持つ剣士だよ。年齢はもう70才近いくせに若くて可愛い女を見ると手を出さずにはいられない爺だよ」

「そんな人が黄金級冒険者なんですか?」

「まあ、素行はちょっと問題があるけど、伊達に剣聖の称号は持っている人間だからね。それに女好きという点を除けば意外と気さくで気のいい爺さん何だよ」

「私はあんまり好きじゃない……レイナも気を付けた方がいい。きっと出会ったらおっぱいを触ろうとしてくる」



ネコミンは老聖と面識があるのか、珍しく表情を歪める。どんな人物なのかとレイナは興味を抱くが、リンによると少し前にここへ戻ってきたがすぐに別の依頼を引き受けて旅立ったという。


折角黄金級冒険者の一人と出会う機会だったのだが、既に立ち去ったのであれば仕方がなく、他の黄金級冒険者も戻ってくる予定がないのであればレイナは評価点をためるために依頼を受ける事にした。



「リンさんのお勧めの依頼とかありますか?」

「そうだねえ……なら、この依頼はどうだい?あんたらなら簡単に達成できると思うけど」

「これは……高純度の火属性の魔石の調達?」



レイナはリンに差し出された依頼内容を確認すると、純度の高い魔石の調達を依頼する内容だった。それを見たネコミンは面倒そうな表情を浮かべ、レイナに注意する。



「……レイナ、この依頼は全然簡単じゃない。高純度の火属性の魔石は火山の火口付近か、ゴーレムでも倒さない限りは手に入る事はない。それに日付を確認して、この依頼は二か月も前に発行されているのに未だに達成されていない」

「あ、本当だ……という事はまた塩漬け依頼ですか?」

「あはは……バレちまったかい。でもね、うちとしても本当に困ってるんだよ。依頼人からも催促されているし、このままだと冒険者ギルドの威信に関わるからね」



依頼者はそれなりに高名な魔術師らしく、どうしても火属性の高純度の魔石が手に入れたいそうだが、残念ながら王都に滞在する冒険者は誰も受けようとしない。


理由としては支払われる報酬が高いとは言えず、難易度の高さの割には報酬が少なすぎた。一応は金貨を5枚も支払うと記されているが、高純度の火属性の魔石と考えるとせめて2~3倍の報酬でなければ割に合わない。



「高純度の火属性の魔石か……これは手に入るのに苦労しそうですね」

「まあ、だから誰も引き受けないんだけどね。でも、こっちとしても困ってるんだよ。それなりに有名な魔術師からの依頼だからね、そいつの機嫌を損ねるとちょっと面倒な事になりそうだよ」

「……魔石ならリリス辺りが持っているかもしれない。前にゴーレムを討伐した時の魔石は全部リリスが持って行ったから、リリスに頼めば分けて貰えるかもしれない」

「なるほど、じゃあリリスさんの所に聞いてみようか」



ネコミンの言葉にレイナは納得し、巨塔の大迷宮で倒したゴーレムの核は全てリリスに預けた事を思い出す。ここは城に戻って彼女に相談するべきだと思い、レイナ達は依頼を引き受ける前にリリスに話を伺う事にした。


冒険者ギルドの建物から出ると、サンはクロミンとシロと共に待機していた。彼女はダークエルフなので他の人間から注目を浴びやすく、しかも2体も魔物を引き連れていれば注目の的だった。



「きゅろろ~」

「ぷるぷるっ♪」

「ウォンッ♪」

「クロミンがリフティングされてる……何か楽しそうだな」

「私も混ざりたい」



サッカーボールのように器用にリフティングを行うサンにシロは面白そうに彼女の周囲を走り回り、クロミンの方も蹴られているのに特に気にした風もなく、むしろ楽しそうな表情を浮かべる。



「へでぃんぐっ!!」

「ウォンッ!?」

「ぷるるんっ!!」



最終的には頭の上に飛び乗ったクロミンをシロの元にヘディングを行い、空中で回転しながらもクロミンは見事にシロの頭の上に着地すると、それを見ていた周囲の通行人は軽く拍手を行う。それを見てサンは自慢げに小さな胸を張り、その様子を見ていたレイナとネコミンは彼女の元に向かう。

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