第392話 魔爪術と魔法剣

「目が冴えちゃったし、ちょっと素振りでもしてくるか……」



レイナは剣を手にすると全員が起きる前に素振りでもするため、宿屋の裏庭の方へと移動を行う。流石に今の時間帯は誰も起きておらず、人に邪魔される事はなくレイナは素振りを行えた。


この世界に訪れてからレイナはリルやチイから剣を教わっており、旅をしていた時は二人から剣の指導を受けていた。最も指導と言っても獣人族に伝わる剣技は彼等の身体能力に合わせた剣技のため、人間であるレイナではどうしても彼女達のような剣技は扱えない。



『とりあえずは基礎だけを教えておこう。後は君自身で考えてどんな剣を使うべきかを考えればいいよ』



剣術の基礎だけを教えて貰ったレイナは毎日素振りだけは欠かさず、自分に適した剣技を模索する。しかし、この世界の武芸者ならば誰もが扱える「戦技」を扱えないという点に関してはレイナにとっては最も大きな難題だった。



(俺も戦技を扱えるようになればな……今まではどうにか身体能力のゴリ押しでどうにかしてきたけど、やっぱり俺も覚えたいな)



この世界の武芸者が扱う「戦技」が覚えられない事にレイナは思い悩み、どうして自分は戦技を覚えられないのかと悩む。職業的に戦技を覚えられない可能性が高いというのがリルの見解だが、その割にはレイナの身体能力は人間にしては高い。


無論、剛力などの複数の技能のお陰で限界近くまで身体能力が上昇しているというのも理由の一つだろうが、それに比べてもレイナの素の身体能力は戦闘職の人間にも劣らない。これはレイナが勇者という特別な職業だからという理由もあるかもしれないが、他の勇者は普通に戦技や魔法も扱えるのにどうして自分だけが利用できないのかと思う。



(文字変換の能力でどうにか覚えられないかな……駄目か、そもそも戦技や魔法の項目がない)



ステータス画面を開いても普通の人間ならば表示されるはずの「戦技」の項目が存在せず、いくら文字を書き換える能力があってもどうしようもない。


だが、逆に言えばレイナはこの能力のお陰で普通の人間以上に技能や固有スキルを覚えられると考えれば一概にも他の勇者に劣っているとは言えない。



「あ~あ、戦技や魔法じゃなくても相手を倒せる必殺技とかがあればな……」

「……なくはない」

「うわっ!?びっくりした!?」



背後から声を掛けられてレイナは驚くと、そこにはネコミンが存在した。彼女は自分の鍵爪を胸に抱きしめた状態で立っており、眠たそうに瞼を擦りながらもレイナの疑問に答えた。



「戦技や魔法には属していない技術もいくつか存在する……私の魔爪術が一番分かりやすい」

「えっ……ネコミンの魔爪術?あれって、ネコミンの魔法じゃないの?」

「私の職業は治癒魔導士、本来は攻撃系統の魔法は覚えられない」



レイナはネコミンの言葉に驚くが、彼女の職業である「治癒魔導士」は攻撃系統の魔法は習得しない。正確に言えばアンデッドなどに対して高い効果のある魔法は覚えるが、普通の生物に対して害を為す魔法は覚える事はない。


そんなネコミンが攻撃手段として覚えたのが「魔爪術」と呼ばれる技術らしく、この魔爪術は獣人族の魔術師の中でも極一部の者しか扱っていない。しかし、魔力を扱える人間ならば習得も可能だという。



「私の魔爪術は自分の魔力を実体化させて刃物のように変化させる。実を言うとリルの「氷結剣」も同じ原理で生み出しているのは知ってた?」

「氷結剣……なるほど、言われてみれば確かに」



戦闘職のリルが時折扱う「氷結剣」という剣技もネコミンによると彼女の「魔爪術」と原理は同じで発動させているらしく、言われてみれば戦闘職のリルが魔法の力を扱える事自体が不思議な話だった。


基本的に魔力は魔法の力を構成するエネルギーだが、決して魔術師だけが扱える力ではなく、戦闘職の人間も訓練を行えば扱える力らしい。ネコミンの場合は魔力を実体化させて刃物のように変化させ、リルの場合は魔力を刀身に纏わせる事で冷気を宿す事が出来る。


前者のネコミンは魔術師だが、後者のリルは完全な戦闘職の人間のため、本来ならば魔法は扱えない。なのに魔力を操作して剣に魔法のような力を発動させる事を考えれば戦技も魔法も使えないレイナでもリルの様に魔力を武器に宿す事が出来るかもしれなかった。



「でも、俺は魔法は使えないから……」

「大丈夫、生き物であるなら必ず魔力を宿している……はず。レイナもきっと扱える」

「そっか……なら、使い方を教えてくれる?」

「分かった……やっと私もレイナの指導が出来て嬉しい」



チイやリルがレイナの指導を行っている事はネコミンも知っていたが、そんな二人の事が羨ましかったらしく、ネコミンは嬉しそうに自分の扱う魔爪術の発動方法を教える。


結局は朝食の時間までレイナはネコミンから魔爪術の使用方法を教えて貰い、取り合えずは彼女のように自分の体内に存在する「魔力」を感じ取れる所から修行が始まった――

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