第388話 昇格《銀級冒険者》
――結局は酒場で夜を明かす事になったレイナ達だったが、宿屋に戻って少しだけ仮眠を取った後、王都へ引きかえす。ほんの1日足らずで帰還してきた二人を見てリンは特に驚きもせず、それどころか既にレイナに対して銀級冒険者のバッジまで用意していた。
「流石だね、もう戻ってきたのかい?」
「試験の方は……」
「分かってるよ、その顔を見れば合格何だろう?」
「はい、見事な腕前でした」
レイナが試験の結果を尋ねる前にリンはグランに顔を向けると、彼は報告書を差し出す前に頷く。その態度を見てリンは手に持っていた銀級のバッジをレイナに放り投げた。
「ほら、受け取りな」
「うわっとと……これが銀級のバッジですか?」
「そうさ、大事にするんだよ。ああ、それと銅級のバッジは方は返してもらえるかい?」
リンの言葉にレイナは頷き、銅級のバッジを彼女に返却すると、改めてレイナは銀級のバッジを確認した。どうやら純銀製らしく、バッジの裏側には製造番号らしき数字も刻まれている。
バッジを身に付けたレイナは晴れて銀級冒険者の昇格を果たし、冒険者になってから三日も経たないうちに昇格を果たす。その様子を見てグランはリンに告げた。
「リンさん、貴方の言う通りに彼女の力は既に白銀級……いや金級の冒険者に匹敵する力を持っています」
「そうだろう?でも、金級はちょっといいすぎじゃないかい?」
「そんな事はありません、彼女は魔人族のハイゴブリンを倒しました」
「ハイゴブリン!?おいおい、どういう意味だい!?あんたらの依頼はホブゴブリンの討伐だろう!?」
「その事に関しても色々と話したい事があるのですが……」
まさかホブゴブリンの討伐に向かったレイナが「ハイゴブリン」を倒したという話を聞いてリンは驚き、その件に関してグランは試験の詳細を離すために場所を移動する。
残されたレイナは立ち去った二人を見送って自分はどうするべきかと考えていると、不意に背後から気配を感じ取って咄嗟に振り返った。
「誰だ!?」
「きゅろっ?」
「ぷるん?」
「あ、サンにクロミンだったのか……よしよし、いい子にしてた?」
レイナの背後に存在したのはクロミンを頭に抱えたサンであり、彼女はリンに貰ったのかペロペロキャンディのような大きな飴を舐めていた。クロミンの方もサンと比べると小さめだが同じ飴を舐めており、二人と合流したレイナは頭を撫でる。
「その飴はリンさんに貰ったの?良かったね~」
「ぷるるんっ(中々美味しい)」
「ぺろぺろっ……まあまあ美味い!!」
「よしよし、今日は一旦帰ろうか」
時間帯は朝だが、碌に眠っていないのでレイナはリルが用意してくれた王都に存在する宿屋に戻ろうとしたとき、サンとクロミンを連れて引き返そうとすると後方から声を掛けられた。
「おい、ちょっと待ちな!!そのガキ、あんたの子供か!?」
「え?いや、違いますけど……」
声を掛けられたレイナは驚いて振り返ると、そこには一人の大男が立っていた。その男は何故が顔面に包帯を巻いており、その傍には困った表情を浮かべた男性が二人存在した。
自分達に何の用だと思ったレイナは包帯を顔に巻いた大男を見て不思議に思うと、サンは大男の顔を見て怒ったように声を上げる。
「レイナ、こいつサンにぶつかってリンから貰った飴を落とした奴!!」
「え?どういう意味?」
「えっとですね、それが……」
「うるさい、お前らは黙ってろ!!そのガキのせいで俺の鼻は潰れたんだぞ!?」
サンの言葉にレイナは疑問を抱くと、大男の傍に居た男性の一人が説明をしようとした。だが、事情を離す前に大男が口を挟み、サンを指差す。
「いいか、そのガキが俺に殴りかかって鼻を折ったんだよ!!どう責任取ってくれるんだ!!」
「きゅろろっ!!先にぶつかってサンの飴を踏んだのはお前!!その後にクロミンの事も笑ったから殴った!!」
「ど、どういう事ですか?」
「つまりですね、うちの兄貴がその子供にぶつかって飴を踏んづけじゃったんですよ」
「そこで謝ればいいのに子供がスライムを連れているからって笑っちゃって……『おいおい、いつから冒険者ギルドは託児所になったんだ?』とか言い出すから……」
「お前ら、どっちの味方だ!?」
男達の言葉を聞いてレイナはだいたいの事情を察すると、どうやらサンにちょっかいを掛けた大男が彼女の逆鱗に触れて鼻を折られたらしい。何気にサンは現在はダークエルフであるが、元々はサンドワームと呼ばれる強力な魔物である。
レベルは低いがサンの身体能力は非常に高く、子供だと思って油断していた大男はサンに飛び掛かられて鼻を殴られた時に折ってしまったらしい。理由はどうであれ、サンが大男の鼻を折った事に関してはレイナも一応は謝っておく。
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