第387話 うわばみ
ホブゴブリンの死骸に関しては迂闊に触れると何らかの感染症を引き起こす危険性もあるため、その場で焼却する事が決まる。魔物の死骸は非常に燃えやすく、油を注いだ後に火を灯すと、全身が一気に燃え尽きてしまう。
死骸は炎に包まれた瞬間に灰と化して崩れ落ち、時間からすれば10秒足らずで燃え尽きてしまう。その様子を確認したレイナは無意識に両手を重ねて瞼を閉じると、グランは死体の焼却を終えた事を確認してからレイナに告げる。
「お疲れさまでした。これで試験は終了です、結果の方は冒険者ギルドに戻ってからお伝えする決まりですが、正直に言うとここまで成果を見せつけられては不合格など言い渡せませんね」
「あ、ありがとうございます。グランさんもお疲れ様でした」
「では冒険者ギルドへ戻る前に街に立ち寄り、報告を行いましょう」
グランは暗に合格を言い渡すとレイナは喜び、そんな彼女を見てグランは依頼人が滞在する街へ引き返す事を提案した――
――街に戻り、レイナ達は依頼人の元へ訪れると非常に驚かれた。鉱山に向かってから時間的には3時間程度で戻ってきたレイナ達に対して依頼人は動揺を隠せず、何か忘れ物でもして戻ってきたのかと問うと、もう依頼を達成させたという話に心底驚いた。
「ホブゴブリンの討伐を完了しました。死体の処分も行っていますので、もう大丈夫ですよ」
「ほ、本当か!?まさか、こんなに早く戻ってくるとは……いや、助かったよ!!」
「礼を言うのならば私ではなく、レイナさんにおっしゃってください。私は同行人に過ぎませんので……」
「あ、ああ……そうだったな。ありがとう、あんたのお陰で助かったよ」
「いえ、お気になさらずに」
依頼人は話を聞いて嬉しさのあまりにグランに握手を求めるが、すぐにグランは自分ではなく、レイナに感謝するように告げる。依頼人はレイナの顔を見て驚き、本当にこんな少女が自分達でもどうにもならなかったホブゴブリンを討伐したのかと驚きながらも握手を交わす。
話を聞きつけてきた他の耕夫達も訪れ、彼等は明日から鉱山に戻って仕事を再開できるという話に喜び、レイナ達に深く感謝した。今日は日が暮れてきたため、冒険者ギルドに戻るのは明日にしてレイナ達は街で一泊することにした。
「いや、あんた見かけは可愛いのに凄く強い冒険者だったんだな!!どうだ?うちの倅と結婚しないか?」
「いえ、お断りします。女の子にしか興味ありませんので……」
「お、おう……あんた、そっちの趣味だったのか。まあ、それだけ綺麗なら男も女もいくらでも寄ってくるだろうからな」
「ほら、あんたも飲め飲め!!今日は無礼講だ、遠慮するな!!」
「いえ、一応は職務中なので酒は……」
レイナとグランは酒場にて一晩中耕夫達に絡まれ、結局彼等が良い潰されるまで付き合わされそうな雰囲気だった。レイナはグランと同じ席で食事を行っていると、一人の男性が彼女の元に酒を置く。
「おいおい、今日の主役なのに酒飲んでないじゃないか!!ほら、遠慮するな!!」
「いえ、俺は未成年でして……あ、この国では違うのかな?」
「はっはっはっ!!この国では15才から酒が飲めるんだよ、ほら遠慮するな!!」
「レイナさん、私に気にせずに飲んでください。もう試験は終わっていますし、私に遠慮する必要はありません」
「はあっ……なら、一杯だけ?」
「おう、遠慮せずに飲みな!!」
酒を飲むのが断れない雰囲気に陥り、レイナは仕方なく酒を受け取ると、冷静に考えれば自分が酒を飲むのは初めてだと気づく。恐る恐るレイナは口元に酒を近づけて一気に飲み込むと、割と味はすっきりとしていた。
レイナが口にしたのは葡萄酒らしいが、味の方は酒というよりも葡萄で作り上げたジュースのように感じ、一気に飲み込んでも特に身体に変化は起きない。結構な量を飲んだはずだが、特に身体に異変はない。
「あ、意外と美味しいですね。飲みやすいというか……」
「おおっ、なんだ結構イケる口じゃねえか!!よし、それならおじさんと飲み比べするか?」
「あの、流石にそれは辞めておいた方が……」
「おいおい、固い事は言いっこなしだ!!ほれほれ、そこの席を開けろ!!」
「おおっ!?飲み比べか、やれやれ!!」
「はっはっはっ!!冒険者なんかに負けるなよ!!いくら世話になったとはいえ、酒の飲み比べで負けたら耕夫の恥だ!!」
調子に乗った一人の耕夫がレイナと酒の飲み比べを申し込み、レイナも酒が意外と美味しいので引き受けると、グランは困った様子でそれを眺める。
――しかし、耕夫達は知らなかった。現在のレイナは「悪食」を習得したお陰でどんなにアルコール度数が高い酒を飲もうと、それを栄養分として身体に蓄える事が出来る事を彼等はこの時知らなかった。
数時間後、夜が明けるころには十数人の耕夫が酔いつぶれて地面に倒れ込み、その様子を困った表情で酒瓶を片手に持った状態で見下ろすレイナと、唖然とした表情で彼女を見つめるグランの姿があった――
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