第386話 固有スキル「悪食」

「ガアッ……!?」

「……俺の勝ちだ」



肉体を切り裂かれたハイゴブリンの悲鳴が暗闇の中で響き渡り、地面に倒れ込む。レイナは剣を振り払うと、松明を拾い上げて再び火を灯す。すると、壁の方に背中を預けて大盾を構えるグランの姿を発見した。



「大丈夫ですか?」

「うっ……ま、眩しい」



ずっと暗闇の中で大盾を構えていたグランはレナが近づくと、松明が放つ火を見て眩しそうに目を閉じる。やがて光に慣れてきたのかグランは身体を起き上げると、レイナが倒したハイゴブリンの様子を伺う。


彼は驚いてハイゴブリンの遺体を確認すると、続けて他にも砕け散った大岩やゴブリンの残骸に視線を向けて冷や汗を流す。ここでレイナはハイゴブリンはともかく、他のゴブリンを倒した方法を伝えるのか悩む。



「こ、これは……全てレイナさんがやったんですか?」

「えっと、まあ一応は……」

「信じられない……ハイゴブリンはゴブリンキングの次に危険度が高いゴブリン、それを倒すなんて……」

「まあ、これぐらいの敵ならどうってことはないです」



グランは倒れたハイゴブリンに視線を向けて動揺を隠せず、その一方でレイナからすれば別に厄介な能力は持っていたが、強さ自体はホブゴブリンとあまり変わらないように感じた。


レイナが倒したハイゴブリンは知能も高く、本来は人種のみが覚えらえる技能も所有していたようだが、まだまだ成長途上だったのか強敵と呼べるほどの存在ではなかった。それでも魔人族であるハイゴブリンを倒した事にグランは動揺を隠せない。



(あ、そういえば固有スキルを覚えてるかな?)



過去にレイナは吸血鬼を倒したとき、彼女は「魅了」の固有スキルを覚える事が出来た。今回も何か新しい固有スキルを覚えていないのかとレイナはステータス画面を開くと、案の定というべきか新しい固有スキルが表示されていた。



『悪食――口内に含んだあらゆる毒物を栄養分に変化させ、体内に接種する事ができる』



画面に表示された文字を見てどうやらハイゴブリンが所有していた固有スキルだと思われるが、その内容を見てレイナは驚く。どうやら毒物を体内に仕込まれてもそれを栄養分へと変化するため、今後はレイナが毒を口にしても死ぬことはなくなった。むしろ栄養分として変化するのだから身体に良い効果をもたらすだろう。


ハイゴブリンを倒したお陰で今後は毒物に侵される事はなくなり、かなり優れた固有スキルを手に入れた事にレイナは喜ぶが、一方でグランの方はハイゴブリンの存在を確認して冷や汗を流す。



「それにしてもまさかこんな場所にハイゴブリンが生息していたとは……だが、報告によるとここを占拠していたのはハイゴブリンではなく、ホブゴブリンの集団のはず……ここに倒れているのはゴブリンだけという事はまだ仲間が残っているかもしれませんね」

「あ、言われてみれば……じゃあ、もう少しだけ探索しますか?」

「私は構いませんが、レイナさんは大丈夫なのですか?連戦は体力的にきついのでは……」

「平気です、鍛えてますから大丈夫です」



グランの言葉にレイナは問題ない事を告げると、捜索を再開した。レイナが倒したのはあくまでも通常のゴブリンとハイゴブリンでしかなく、一応は討伐の証として素材の回収だけは行い、続けてレイナ達は坑道を歩き回って他のホブゴブリンの探索を行う――






――結果から言えばホブゴブリンを発見したのはそれから数分後の事だった。レイナ達は探索の途中に死臭を感じ取り、臭いの場所を確かめると無残にも肉体が食いちぎられたホブゴブリンの集団が倒れている場所を発見した。


調べたところ、ホブゴブリンの死骸は既に死後から大分時間が経過しており、坑道内の虫たちに食い散らかされていた。グランはその様子を見て顔をしかめ、先ほどのハイゴブリンが彼等をこのような姿にしたと判断する。



「なるほど、そういう事でしたか……」

「えっ、どういう意味ですか?」

「レイナさんは魔物の共食いの事をご存じないのですか?」

「共食い……?」



物騒な言葉が出てきた事にレイナは顔を引きつらせるが、グランは無残にも食い散らかされたホブゴブリンの死骸を確認し、説明を行う。



「ゴブリンやオークのような食欲旺盛な魔物は餌が手に入らないとき、時には味方であろうと襲い掛かる事があります。この坑道に潜んでいたホブゴブリン達は坑道に訪れる耕夫を餌として襲っていたようですが、その耕夫が消えた事で餌が手に入らず、互いを喰らい合ったようです」

「そんな……」

「しかも厄介な事に同種を喰らった魔物は上位種や亜種に変化しやすくなると言われています。どうやらレイナさんが倒したハイゴブリンは他のホブゴブリンを喰らった事で進化を果たしたようです」

「…………」



グランの言葉にレイナは口元を抑え、先ほどの「悪食」の固有スキルを思い出す。どうやらハイゴブリンは自分の仲間を喰らう事で栄養分を摂取した事により、このような能力が芽生えた可能性が高かった。

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