第384話 大岩

「なんか、音が聞こえますね……行って見ましょう」

「分かりました……気を付けて進みましょう」



地図上には存在しないはずの通路を発見したレイナとグランは気を付けて進んでいくと、途中でレイナは足元に存在する縄に気づく。暗視の技能を所持していなければ気づかなかったが、どうやら罠が仕掛けられているらしく、縄に足が引っかかっていれば転んでいただろう。


罠が仕掛けられている事からこの先にゴブリンが存在する可能性は高く、悪知恵の働くゴブリンは罠を用意するという話は聞いた事がある。縄に引っかからないようにレイナはグランに注意しようとしたとき、グランは何かに気づいたように声を上げた。



「あれは……!?」

「え、どうしました?」



グランが何を見つけたのかとレイナは前方に視線を向けると、いつの間にか自分達を見つめる光り輝く瞳がある事に気づく。それを確認したレイナは敵が現れたのかと剣を身構えると、奥の方からツルハシを抱えたゴブリンの集団が出現した。



『ギィイイイッ!!』

「ゴブリン!?」

「気を付けて、普通のゴブリンではなさそうです!!」



レイナは剣を構えるとグランは背中に背負っていた大盾を構え、防御の体勢へと入った。今回の依頼はレイナが一人で行わなければならず、彼は防御に徹する。


迫りくるゴブリンの姿を確認したレイナは相手がホブゴブリンではなく、ただのゴブリンである事を確認すると足元の縄に引っかからないように切り裂く。



「邪魔!!」

「ギギィッ!?」

「ギィアッ!?」



だが、縄を切り裂いた瞬間にゴブリン達は目を見開き、何かを恐れるように立ち止まってしまう。そのゴブリンの反応を見てレイナは訝し気な表情を浮かべると、すぐにゴブリン達の恐怖の意味を知る。


背後から唐突に何かが落ちてきたような轟音が鳴り響き、嫌な予感を覚えてレイナは背後を振り返ると、そこには不自然なまでに球体の形をした岩石が転がってくる光景が広がっていた。



「ちょ、嘘っ!?そんな定番な!?」

「逃げましょう!!」



現在のレイナ達の通路は若干坂になっており、大岩がレイナ達に目掛けて転がってきた。それを確認したゴブリン達は慌てて逃げ出し、一方でレイナとグランも大岩に押し潰される前に駆け出す。


まさか足元を引っ掛けるだけの罠だと思っていたが、どうやら縄を切るとレイナ達が先ほどまで存在した通路の天井に仕掛けられた大岩が解放される仕組みらしい。予想以上に高度な罠にレイナとグランは焦りを抱き、徐々に加速して落ちてくる大岩に対して二人は二人は必死に逃げる。



「ギギィッ!!」

「ギィッ!!」

「ギィアッ!!」

「あ、ずるいぞお前らっ!?」

「言っている場合ですか!?」



小柄で素早いゴブリン達は天井に張り付き、そのまま転がってきた大岩をやり過ごす。それを見たレイナは文句を告げるが、通路の奥は行き止まりらしく、このままではレイナ達は逃げ場を失って押し潰されてしまう。


レイナだけならば「握力」の技能で天井の凹凸を掴んで回避する事も出来るが、その場合はグランを助けられない。仕方なく、レイナは鞄に手を伸ばすと大岩を破壊するために駆け出す。



「うおおおっ!!」

「レイナさん!?」



グランを横切るとレイナは鞄からデュランダルを取り出し、聖剣の能力を解放させて刀身を振動させると、大岩に叩きつけるのと同時に衝撃波を放つ。その結果、衝撃波によって大岩は粉々に吹き飛び、その余波で天井に張り付ていたゴブリン達も吹き飛ばす。



『ギャアアアアッ!?』

「ふうっ……何とかなった」

「ううっ、いったい何が……!?」



大岩とゴブリンを一度に排除する事に成功したレイナは冷や汗を拭うと、グランの方も衝撃波の余波を受けて倒れ込み、松明の炎が消えてしまう。運が良い事にレイナがデュランダルを引き抜いた場面を見たわけではなく、彼は戸惑いの表情を浮かべる。


レイナはグランが見えていないうちに慌ててデュランダルを戻すと、とりあえずは誤魔化すように松明を拾い上げようとした。だが、ここでレイナの地図製作に新しい反応が誕生し、こちらに近付いてくる反応を捉えた。



「何かが近づいてきます!!グランさんはそこでじっとしてて!!」

「えっ……!?」



接近してくる反応の速度を見てレイナは咄嗟にアスカロンとアダマンタイトの長剣を構えると、暗闇の中を駆け抜けてレイナに迫る影を捉えた。暗視の技能を使用しているのに正確な相手の姿が捉え切れず、レイナは咄嗟に剣を構えると金属音が鳴り響く。



「ガアアッ!!」

「くっ!?」

「れ、レイナさん!?いったい何が……」

「いいからそこでじっとしてて!!」



どうにか相手の攻撃を防ぐ事に成功したレイナは剣を振り払うと、敵は跳躍を行って刃を回避すると、天井近くまで浮き上がり、そのまま片手のみで天井に張り付く。


恐ろしいまでの握力を誇り、そのまま片手を天井に張り付いた状態でもう片方の腕に装着した鍵爪を振り払う。その攻撃に対してレイナは剣で防ぎ、敵の正体を見抜くために解析を発動させた。

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