第383話 坑道

「じゃあ、行きましょうか」

「えっ!?も、もう行かれるのですか!?」

「はい、早く倒した方がいいんですよね?」

「それはそうですが……あの、御一人で本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。今日中に終わらせますから」

「今日中にって……」



依頼人はレイナの言葉に呆れ、今までも十数名の冒険者が挑んだが、結局は誰一人として果たせなかった。それなのに自信満々に答えるレイナに対して依頼人は本当に大丈夫かと思うが、グランの姿を見て納得する。



(まあ、この娘が失敗したところでギルドの職員が何とかするだろう。それにしても今日中に終わらせるとは随分と自分の力に自信があるようだが……ホブゴブリンを舐めているのか?)



レイナの言葉を大言壮語だと受け取った依頼人は同行したグランに希望を抱き、彼が何とかホブゴブリンを倒す事を期待する。しかし、そんな依頼人の考えなど知らずにレイナは鉱山へ向けて出発する事にした。


鉱山は街からそれほど離れておらず、ここからは馬車ではなく徒歩で移動する事になる。クロミンがいれば途中まで牙竜に変化させて乗せて貰う事も出来たのだが、今回は仕方なく徒歩で山道を登らなければならなかった――






――それから1時間後、汗を流しながらもレイナ達は遂に採掘場へと辿り着く。採掘場には人気が存在せず、ホブゴブリンが現れたせいで耕夫達も近づけない状況だった。レイナは地図製作の能力を発動させ、視界に画面を表示させた状態でグランに頷く。



「じゃあ、ここから先は気を付けて進みましょう」

「分かりました。ですが、戦闘になった場合は私は防御に徹しますので助力は出来ません。それを忘れないように……」

「はい、気を付けます」



グランの言葉にレイナは頷き、鞄の中からアスカロンを取り出す。その様子を見てグランは驚き、一応は報告を受けていたがレイナは鞄から様々な道具を取り出す様子を見て本当に彼女が「ストレージバック」と同じ効果を持つ鞄を持っている事を知る。


実際の所はレイナの所持している鞄は元々は何処にでもある普通の鞄なのだが、文字変換の能力によって無限に収納できる鞄に変化した代物である。最も他の人間から見れば魔道具の一種にしか見えず、今回のレイナは乱戦になる事を予想して新しい武器を取り出す。



「後はこれも……」

「その剣は……あまり見た事ありませんね」

「え?ああ、別にたいした代物じゃありませんよ」



レイナが取り出したのは巨塔の大迷宮で回収した装備品の一つで「アダマンタイト」と呼ばれる金属で構成された長剣だった。一応は回収してきたが、聖剣と比べると特別な能力は一切付与されていない。


但し、下手にアスカロン以外の聖剣を取り出すとその外見から聖剣だと見抜かれる恐れもある。あまり知名度がないアスカロンでさえも先日に商人に目を付けられたばかりのため、冒険者活動を行う間はレイナはアダマンタイト製の武器も扱う事を決めていた。



「じゃあ、進みましょうか。足元に気を付けてくださいね」

「はい……あの、松明は用意しないのですか?」

「あ、そうだった……すいません、暗視の技能も覚えているので忘れてました」

「地図製作だけではなく暗視の技能まで覚えているのですか……?」



レイナの言葉にグランは動揺を隠せず、暗視の技能を覚えられる職業は制限され、戦闘職の人間の中でも暗殺者や忍者などといった特別な職業の人間しか覚えられない。


リンの話によるとレイナは剣の腕前は立つので剣士系統の職業だと彼は予想していたが、まさか暗視の技能まで覚えていた事に驚きを隠せなかった。



「じゃあ、行きましょうか」

「はい……足手まといにならないように気を付けます」



レイナはグランと共に坑道へと入り、そこから先は事前に記録していた坑道の地図を頼りに探索を行う。レイナの地図製作は移動した場所ならば気配感知と魔力感知の技能のお陰で地図の範囲内に存在する敵の存在を確認できる。定期的に画面の確認を行い、足元に気を付けて進む。


グランが同行していなければレイナも暗視の技能で明かりもいらずに先に進む事が出来るが、今回は試験なので見届け人が存在しなければならず、グランに合わせて坑道を進む。


しかし、坑道の地図のだいたい半分程は歩き回ったのだが、未だにホブゴブリンらしき反応は見つからなかった。



「おかしいな、ホブゴブリンが見つからない。見落としているはずはないんだけど……んっ?」

「どうかされましたか?」

「いや、見せて貰った地図にはここは行き止まりだったはずなんですけど……奥に続いていますね」



レイナは地図製作の画面の確認し、事前に依頼人から見せて貰った地図には記されていない通路が存在する事に気づく。その事に疑問を抱いたレイナは様子を確認すると、奥の方から物音がする事に気づいた。

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