第382話 昇格試験の内容

「あ、そうそう。言っておくけど、昇格試験の時はその娘とスライムは連れていく事は出来ないよ。代わりに内の職員を一人連れて行ってもらうからね」

「まあ、そうですよね。分かりました、ならこの子達はここで預かって貰っていいですか?」

「まあ、別にいいけどさ……お嬢ちゃんも大丈夫かい?このお姉ちゃんと離れて大丈夫かい?」

「きゅろっ、問題ない」

「きゅろ?良く知らないけど、変わった子だね」

「じゃあ、この子たちをお願いします。あ、うちのクロミンの主食は水なんですけど、塩水は苦手です。それとジュースが大好きなんですけど、あんまりやりすぎると色が変色しちゃうんで気を付けてください」

「ぷるぷる(面倒をかけるぜ)」

「なんだかこっちも変わったスライムだね……いいさ、私が二人とも面倒を見てやるよ」



リンはレイナに付いてきたサンとクロミンの面倒を見る事を約束すると、彼女に依頼書を手渡す。正式な手順で受けていれば評価点が「20点」も貰えるらしく、内容の方はホブゴブリンの討伐とだけ記されていた。


この王都の西の方角に存在する鉱山にホブゴブリンの集団が住み着き、鉱夫が被害を受けているという。内容の方はホブゴブリンの討伐らしいが、相当な数が潜んでいると予想されるため、受注する際は大人数の冒険者集団パーティで挑む事が勧められていた。



「ホブゴブリンの集団ですか」

「ああ、時々あるんだよ。急にゴブリンどもの上位種が一気に誕生して人間が住んでいる山を奪い取って自分の縄張りにする事がね。この依頼も最初の内は結構な数の冒険者が挑んだんだけどね、結局誰も成功しなくて困ってたんだよ」

「え?そんなに手ごわいんですか?」

「いや、数自体はそれほどいるわけでもないし、特に強力な個体が潜んでいるわけでもない。だけど場所が問題でね、こいつら住み着いた鉱山の採掘場に隠れ潜んでて見つけるのが苦労するんだよ」

「なるほど……」



リン曰く、別にホブゴブリンは強敵というほどではなく、銀級以上の冒険者ならば十分に対応できる存在だった。だが、採掘場に潜んだホブゴブリン達は巧みに坑道の中に姿を隠し、闇に忍び込んで見つけるのに苦労するという。


話を聞き終えたレイナは詳しい場所と同行する職員と打ち合わせを行い、準備を整えてから出発する事にした――






――翌日、リンの元にサンとクロミンを預けたレナは今回の試験に同行する職員を紹介された。討伐系の試験に同行するだけはあって戦闘能力を持ち合わせた職員を用意すると聞いており、レナの前に現れたのは外見は30代程度の男性だった。



「グランと申します。よろしくお願いします」

「あ、こちらこそ……よろしくお願いします」

「こいつは新人でね、腕は立つから足手まといにはならないよ。とはいっても、あくまでも試験なんだからこいつがあんたを手助けする事は出来ないけどね」



身長は180センチ、体型の方はプロレスラーのように巨漢でしかも強面、一見するだけでは巨人族ではないかと言うほどの大きさと威圧感を放つグランにレイナは圧倒されるが、言葉遣いは非常に丁寧で年下のレイナに対しても丁寧に対応を行う。


リン曰く、こう見えても最近入ったばかりの新人職員らしく、実年齢は外見よりも若いという。今回の試験はレイナが途中で失敗した場合、グランが試験を達成させるつもりらしく、彼は大荷物を背中に背負って同行する。



「では、行きましょう」

「あ、はい……えっと、グランさんと呼んでいいんですか?」

「問題ありません」

「じゃあ、行きましょうか」

「はい、馬車は用意しております」



外見と違って言葉遣いは丁寧なため、レイナは違和感を覚えるが乱暴な人間が同行しなかった事に安心してギルドが用意してくれた馬車に乗り込む。移動の最中、レイナは何度かグランに話しかけたが、あまり話は長続きはせずに若干気まずい時間を過ごす羽目になった――






――そして数時間後、馬車が目的地の鉱山へと辿り着くと、最初はレイナ達は鉱山の近くに存在する街へと辿り着き、依頼人から話を伺う。依頼人はやっと現れた新しい冒険者に対して最初は喜んだ。特にグランの外見を見て随分と強そうな冒険者が訪れたと勘違いしてしまう。


だが、今回の依頼に参加するのはあくまでもレイナ1人だけであり、外見が少女にしか見えない彼女を見て依頼人は不安を抱く。しかし、もう冒険者に頼るしかないので彼等は採掘場の坑道の地図を渡す。



「これが地図です」

「へえ……結構広いんですね」

「まあ、歴史のある鉱山なので……あの、本当におひとりで大丈夫なんですか?」

「問題ありません。あ、地図は返しますね。地図製作の能力に登録したので」

「えっ?あ、はい……」

「ほう、レイナさんは地図製作の能力をお持ちなのですか?それは珍しいですね」



レイナの言葉に依頼人である鉱夫は驚き、グランも感心したように呟く。ちなみに地図製作の能力は自分が移動した範囲の地図を表示するだけではなく、正確に記された地図があれば画面に表示できるの力も持つ。

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