第379話 商人のお礼

「終わりました。もう大丈夫ですよ」

「あ、ああ……た、助かりました」

「ありがとうございます、冒険者様!!」

「貴女は命の恩人だ……!!」



レイナは商団の従業員と思われる男達に声をかけると、彼等は涙目を浮かべて助けてくれたレイナに感謝すると、レイナはそんな彼等の反応に照れ臭そうに頭を掻く。


とりあえずは死傷者はいない事を確認すると、一人だけ大怪我を負った人間の元に集まり、すぐに治療を施す必要があった。レイナは怪我人の様子を確認すると、商団の人間に問う。



「誰か回復薬を持っていませんか?すぐに治さないと……」

「ああ、それなら荷物の中に……」

「なら、今すぐ持ってきてください」

「はい、分かり……」

「勝手な事をするんじゃない!!」



男性の怪我の具合を確認してレイナは他の人間に回復薬を持ってくるように促したとき、今まで隠れていたのか一番大きな馬車の中から偉そうな態度の大男が姿を現す。


大男と言っても別に巨人族というわけではなく、単純に小太りした大柄な男性だった。従業員は人間に対して彼だけが獣人族らしく、馬車の荷物を漁って回復薬を取り出そうとした男性に大男は叱りつける。



「その回復薬は我が商団の商品だ!!勝手に使うんじゃない!!」

「で、ですけど……このままだとあいつが死んでしまいます!!」

「ふん、それならば金を払ってもらうぞ。お前達の給金から回復薬代を引き抜くぞ!!」

「そんな……俺達はこの馬車を守るために戦ったんですよ!?護衛でもないのに……」

「どういう意味ですか?」



大男と従業員の会話を聞いてレイナは驚いて他の人間に問うと、彼等はすぐに事情を説明した。



「実はオークが現れた時、傭兵の護衛が逃げ出したんですよ。普段は偉そうにしてたくせにオークが現れた瞬間に逃げ出してしまって……それで俺達に会長が死んでも荷物を守れと無理やり……」

「酷い……」

「余計なことを口にするな!!……冒険者殿、こいつらのいう事は無視してくだされ。そんな事よりもお礼がまだでしたな」



レイナに話しかける男性に商団の会長は怒鳴りつけると、改めてレイナと向き直り、彼女の容姿を見て態度を一変させる。見目麗しく、しかもオークの集団を追い払うほどの実力を持つ彼女に対して商団の会長は笑顔を浮かべて彼女に握手を求める。


正直に言えば先ほどからの男性の態度にレイナは嫌悪感を抱くが、仕方なく悪手を行う。すると男性は馴れ馴れしくレイナの手を掴み、彼女に顔を近づけてきた。



「いや、貴女のお陰で助かりました。まだ随分とお若いようだが、オークの集団を蹴散らすその腕前、惚れ惚れしました!!」

「……ずっと、見てたんですか?」

「ええ、貴女の勇ましい戦いぶり、感動しましたよ」



レイナは会長の言葉を聞いて瞳を鋭くさせ、自分の部下に命を賭けて戦わせていたのにこの大男は戦いもせずに馬車の中で様子を伺っていたのかと考えると苛立つ。


だが、そんなレイナの気持ちも気づかずに男性は彼女の身に付けているアスカロンに視線を向ける。



「しかし、そちらの剣……中々の名剣のようですな。オークの肉体を軽々と切り裂くなど、もしかしたらミスリル……いや、それ以上の魔法金属で構成された剣ではありませんか?」

「……うちの家に伝わる家宝です」

「なるほど!!それは大切な代物でしょうな……おっと、そんな事よりもお礼がまだでしたな。おい、さっさと持って来い!!」

「は、はい!!」



馬車の中に大男は声をかけると、今度は随分と身長が小さい男性が現れ、その手には小袋が握りしめられていた。会長はその小袋を手にすると、レイナに手渡す。



「さあさあ、どうぞお受け取り下さい。これはお礼です」

「……どうも」



一応は小袋を受け取ると、レイナは怪我をした男性に視線を向け、既に危険な状態だた。一刻も早く治療する必要があり、仕方なくレイナはリリスから受け取っていた回復薬を取り出す。



「これ、飲ませてください」

「えっ!?い、いや……でも、それは」

「いいから早く!!」

「は、はい!!」

「おやおや……随分とお優しい事で」



レイナが回復薬を取り出して怪我人の治療を行おうとすると、会長は若干呆れた表情を浮かべるが止めはしない。やがて男性に回復薬を与えると容態が落ち着いたらしく、先ほどまで苦しそうに呻いていたが楽になった表情を浮かべる。


男性が回復した事を確認するとレイナは安堵した表情を浮かべ、このまま残ると面倒になりそうだったのでサンとクロミンを呼び掛けて先に戻る事にした。



「サン、クロミン、もう行くよ」

「きゅろっ!!」

「ぷるるんっ!!」

「おや、もうお行きに……!?」



王都までそれほど距離は存在せず、馬車の方も壊れているわけではないのでオークを追っ払えば彼等が王都に辿り着くまでにまた襲われる心配はないと思ったレナは先を急ごうとする。


商団の会長は王都へ向けて歩き出そうとするレイナ達を見て何かに気づいたように目を見開き、慌ててレイナを引き留めようとした。

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