第377話 調査の報告

「さてと……とりあえず、こいつの素材を回収するか」

「レイナ、こいつ肉が硬くて不味い……」

「あ、こら!!生で食べちゃ駄目だって言ってるでしょ!!めっ!!」

「あうっ」



サンが倒れた人虎に向けて嚙り付いているのを見てレイナは叱りつけると、彼女を引き剥がして人虎の死骸の様子を伺う。完全に死んでいる事を確認すると、とりあえずはどの素材を回収するのかを考える。


切れ味が鋭いアスカロンを鞄から取り出して毛皮を剥ぎ取り、ついでに牙や爪の回収を行う。但し、牙に関してはペガサスが蹴りを叩きつけた時に殆どの牙が折れてしまい、ペガサスの攻撃力の凄まじさを思い知らされながらも素材の回収を終えた。



「ふう、これでよしと……肉の方は流石に食べられそうにないな」

「きゅろ、こいつ不味い!!オークの方が好き!!」

「ここで放置しても他の魔物に食べられるかもしれないけど、一応は埋葬してやるか」



残された死体の方はレイナは火葬する事に決め、鞄の中から適当な道具を取り出し、火を放つ。燃えていく人虎の死骸を見てレイナは両手を合わせると、改めてペガサスの方へと振り返る。



「さてと、後は君の事だけど……多分、ここで発見されたユニコーンの正体は君の事だろうね?」

「ヒヒンッ?」



ペガサスはレイナに背中を撫でられて不思議そうに首を傾げるが、恐らくだが同じ白馬という理由で森の中に存在したペガサスを見た人間がユニコーンと勘違いした可能性が高い。こちらのユニコーンは背中に羽根が生えているのだが、かなり小さくて遠目では羽根の存在は見えにくく、白馬のようにしか見えない。


仮にも危険度は低いとはいえ魔獣が住んでいる森に存在する白馬を発見すれば、ユニコーンと勘違いしてもおかしくはない。だが、本当にユニコーンが生息している可能性も残っているため、レイナはとりあえずは調査を続ける事にした。



「それにしてもなんでこんな場所に人虎なんていたんだ?西方にしか生息しない魔物がこんな場所に暮らしているなんておかしいな……」

「きゅろっ……レイナ、あっちの方から変な臭いがする」

「変な臭い?」



燃え尽きた人虎の死骸を確認してレイナは疑問を抱いていると、サンがレイナの服の袖を引いて何か臭いを感じ取った事を告げる。サンの嗅覚の鋭さを信用しているレイナは何を感じ取ったのか気にかかり、サンの案内の元で森の奥へと進む。


ペガサスもレイナ達の後に続き、2人と2匹の一向は森の奥地へと移動すると、やがて森の中に存在する岩山へと辿り着く。そして岩山には洞穴が存在し、随分と奥まで続いているらしく、奥の方が暗くて何も見えなかった。



「きゅろっ……この奥から凄い血の臭いがする」

「血の臭い……まさか、さっきの人虎の住処か?とりあえず、調べてみるか……あ、皆はここに残っててね」

「ブルルルッ……」



レイナはサンとクロミンをペガサスの傍に残して洞穴の中を進んでいくと、暗視の技能を発動させて中の様子を伺う。特に曲がり路や他の通路が存在するわけでもなく、正面に真っ直ぐに伸びているだけである。


奥へ進むごとに洞窟の規模も小さくなっていき、血の臭いが酷くなっていく。口元を抑えながらもレイナは一番奥まで進むと、そこには大量の動物の骨が転がっていた。どうやらこの場所で捕食した動物の骨を放置していたらしく、大量の骨の山が形成されていた。



(これは……やっぱり、さっきの人虎の住処なのか?)



骨の中には明らかに小動物だけではなく、人間の頭蓋骨らしき物も交じっており、更には人間が身に付けていたと思われる装備品の類も存在する。


装備品の中には首輪も存在し、それを拾い上げたレイナは大きさから考えても先ほど遭遇した人虎を拘束していた物だと悟った。



「この首輪は……解析」

『魔獣封じの首輪――小型、中型、人型の魔獣を拘束するための首輪。ミスリル製なので非常に頑丈に出来ており、サイズの大きさも自由に変えられる』

「なるほど、そういう事か。あの人虎は人間が連れ出した魔獣だったわけか」



レイナは洞穴の中で発見した首輪を確認すると、転がっている頭蓋骨に視線を向け、粗方の予想がついた。どうやら先ほどの人虎は何者かが外国から連れ出してきた魔物らしく、何らかの事故が遭って人虎を拘束していた人間が死んでしまい、そのまま自由になった人虎はこの森に住み着いてしまったらしい。


外国に生息するはずの人虎がこのような森の中で暮らしていた理由も判明し、念のためにレイナは人虎をここまで連れてきた人間の遺品だと思われる装備品の回収を行い、ひとまずは洞穴を出る事にした――





――その後、放置している間に仲が良くなったのかサンとクロミンはペガサスの背中に乗せてもらい、元気に外を駆け巡っていた。その様子を見てレイナはいい事を思いつく。


文字変換の能力の文字数が更新されるのを待つより、ペガサスに街まで運んで貰った方が早く戻れると思ったレイナはペガサスに頼み込むと、ペガサスは快く承諾してくれてレイナ達を乗せて草原を駆け抜け、王都の方角に向けて移動してくれた。

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