第376話 ペガサス

「ヒヒンッ」

「きゅろ、レイナ。この白いのがお礼言ってる」

「あれ、サンはスライム語だけじゃなくて馬語も分かるの?」

「ぷるぷるっ」



ペガサスは傷を治してくれたレイナに頭を下げる動作を行い、その様子を見てクロミンが馬の頭に乗り込む。特にペガサスは嫌がる様子を見せず、サンも馬の胴体を撫でるとくすぐったそうに鼻息を鳴らす。


先ほどまでは警戒していたが、怪我を治してくれた事でレイナ達の事を味方だと認識したらしく、ペガサスはレイナに顔を摺り寄せてくる。そんなペガサスに対してレイナは頭を撫でていると、ペガサスは何かに気づいたように顔を逸らし、警戒するように鳴き声を上げた。



「ブルルルッ……!!」

「え、どうしたの……ん?」

「あっちから何か来る!!」



サンとレイナも自分達に接近する気配を感じ取り、どうやらこの二人よりもペガサスの方が一早く「敵」の気配を感じ取ったらしい。やがて木々の間から予想外の生物が姿を現す。



「ガアアッ!!」

「虎!?いや……何だ!?」

「きゅろっ!?」



木々の間から姿を現したのは虎の顔をした人型の生物であり、まるで人間のように二本足で立った化物が現れる。ゴブリンやオークのように他の動物の毛皮を剥ぎ取って衣服のように身に付け、その手には石斧が握りしめられていた。


始めてみる魔物にレイナは驚き、二本足で立っている事から魔人族かと思う。即座にレイナは「解析」を発動させて相手の正体を調べる。



―――――人虎―――――


種族:人虎種


性別:雄


状態:飢餓


特徴:人虎と呼ばれる西方地方に生息する魔人族。他の魔人族と比べても気性は荒く、常に何かを食べ続けていなければ落ち着いていられない。他の生物を食らいつくすため、生態系を狂わせる危険種として指定されている


――――――――――――



詳細画面に表示された文章を見てレイナは冷や汗を流し、どうやら魔人族の中でも凶悪で危険な存在らしい。しかも飢餓状態なのでレイナ達の事を完全に餌としか認識しておらず、もしかしたらペガサスに怪我をさせたのもこの人虎の可能性もある。


ペガサスの方は人虎が現れると威嚇を行い、一方でサンとクロミンも危険を察したようにペガサスの傍で身構える。そしてレイナの方は鞄に手を伸ばすと、フラガラッハを引き抜いて人虎と向かい合った。



「西方にしか生息しない魔物がどうしてここにいるのかは気になるけど……悪いけど、襲ってくるなら容赦はしないよ」

「ガアアッ!!」



人虎はレイナの言葉を理解しているのかは不明だが、彼女の態度を見て挑発されたと判断したのか襲い掛かってきた。


右腕の爪を剥き出しにして人虎はレイナの頭上に目掛けて振り下ろすが、その攻撃に対してレイナはフラガラッハを構えると、逆に振り下してきた腕に向けて刃を放つ。



「はああっ!!」

「ギャウッ!?」



振り下ろした右腕がフラガラッハの刃に切り付けられ、人虎は悲鳴を上げて右腕を抑える。完全な切断には至らなかったが、フラガラッハの刃によって毛皮は切られ、血が滲む。


アスカロンのような切断力やデュランダルのような破壊力を持ち合わせないフラガラッハだが、それでも並の武器とは一線を画すほどの切れ味を誇り、更に攻撃力を3倍増させる優れた能力を持つ。


しかも今のレイナのレベルは50を迎えているため、召喚されたばかりの頃と比べると剣の腕も肉体の強さも比較にならない。レイナはフラガラッハを構えると、サンがクロミンの頭を掴んで人虎に接近する。



「クロミン、みずてっぽー!!」

「ぷるっしゃああっ!!」

「ガアッ!?」

「ナイス援護!!」



クロミンの口内から水鉄砲のように水が噴射されると、人虎の顔面に水が当たって視界を塞ぐ事に成功し、その隙を逃さずにレイナはフラガラッハを振り抜く。人虎は咄嗟に身を守ろうとするが、レイナは人虎の胴体に向けて刃を放つ。



「せいりゃあっ!!」

「ガハァッ……!?」



人虎の胴体に血飛沫が舞い上がり、胸元の部分に深い傷跡を受けた人虎は目を見開き、レイナは仕留めたと確信した。


しかし、人虎は大量の血液を流しながらもレイナの方へと振り返り、最後の力を振り絞るかのように噛みつこうとしてきた。



「ウガァッ!!」

「っ!?」

「ヒヒィンッ!!」



だが、人虎が噛みつく前にペガサスの鳴き声が響き渡ると、人虎の顔面に向けて強烈な勢いで放たれたペガサスの後ろ脚の蹄が衝突し、そのまま人虎の肉体を吹き飛ばす。


人虎は顔面を陥没するほどの勢いで蹴りつけられた影響で完全に死亡したらしく、地面に倒れ込むと動かなくなった。その様子を見ていたレイナは呆気に取られるが、ペガサスの方は「参ったか!!」とばかりに鼻を鳴らす。



「お、おおっ……助けてくれてありがとね」

「ヒヒンッ!!」



自分を守ってくれたペガサスにレイナは礼を告げると、ペガサスはどういたしましてとばかりに頷く。

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