第375話 魔人の森

――それから数十分後、レイナ達は目的地である王都の東に存在する森へと辿り着く。この森はかつて凶悪な魔人族の集団が一時期住処としていた時期があり、その名残から「魔人の森」と呼ばれていた。


現在では魔人族どころか危険種指定された魔物も存在せず、せいぜい現れるとしても一角兎などの小動物型の魔獣しか生息していない。この森の何処かにユニコーンが発見されたというが、レイナの目的はユニコーンが本当に存在するのか調査を行い、同時に薬草の採取を行う。



「すんすんっ……レイナ、こっちのほうに薬草の臭いがする!!」

「本当に?じゃあ、見つけたら持ってきてくれる?」

「きゅろっ、発見!!」

「ぷるぷるっ」



クロミンをスライムに変身させた後、レイナはサンとクロミンと共に薬草を探しながら森の奥へと移動を行う。地図製作のお陰で道に迷う心配はなく、サンが鋭い嗅覚で薬草の臭いを嗅ぎ分けて次々と薬草を探し出してくれるお陰で薬草採取は順調に進んでいた。


サンはクロミンと共に次々と森の中に生えている薬草を発見し、それをレイナは回収していく。最初は薬草が見つからなければ文字変換の能力で作り出すべきか考えていたが、この調子ならば依頼に指定された数の薬草を発見できるだろう。



「きゅろ、また発見!!こっちにもある!!」

「ぷるるんっ♪」

「二人とも凄いな、でもはぐれたら駄目だよ。ちゃんと俺の後に付いて来てね」

「大丈夫、サンは鼻がいいからレイナの匂いを嗅ぎ分けられる!!クロミン、あっちにもある!!」

「ぷるぷるっ」

「あ、だから離れすぎちゃ駄目だって……」



薬草採取に夢中なサンとクロミンはレイナから離れてどんどんと森の奥地へと向かい、慌ててレイナは二人を止めようとしたとき、視界の端に何かが移った。



(えっ……今のまさか!?)



視界に映し出された物に気づいてレイナは驚いて振り返ると、木々に隠れて見えにくいが確かに銀色の白色の毛皮で覆われた動物らしき姿を発見した。まさかユニコーンかと思ったレイナはサンとクロミンを追いかけるのを辞めて動物を見かけた場所へ向かう。


念のために「隠密」「気配遮断」「無音歩行」の技能も同時に発動させ、自分の存在感と足音を消して接近する。そしてレイナは森の中を歩いている全身が白い毛に覆われた馬を発見した。




――ヒヒィンッ……




森の中に存在したのは足に怪我を負った2メートル程度の大きさの白馬である事が判明し、最初にそれを見たレイナはユニコーンかと思ったが、白馬の額には一本角が生えていなかった。


どうやら獣か何かに襲われたのか前脚から血を流し、立つ事も出来ない様子だった。それを見てレイナは白馬の元に姿を現すと、白馬は唐突に現れたレイナに警戒するように鳴き声を放つ。



「ヒヒンッ!?」

「大丈夫、落ち着いて……俺は敵じゃないよ」

「ヒィンッ……!!」



いきなり現れた人間に対して白馬は警戒心を強めるが、レイナは刺激しないようにゆっくりと近づき、白馬の様子を伺う。どうみてもユニコーンには見えず、ただの白馬にしか見えない。


もしかしたらユニコーンを発見したという人物はこの白馬を見て勘違いしたのではないかと思いながらもレイナは傷口の様子を伺い、とりあえずは治してやることにした。



「お前の傷を治してやるから、大人しくしろよ?」

「ヒィンッ?」



レイナは鞄に手を伸ばし、リリスが分け与えてくれた特別製の回復薬を取り出す。万が一の場合に備えて冒険者活動を行う前に薬剤の類も揃えており、レイナは白馬の脚の怪我に回復薬を流し込む。


回復薬は人間以外にも効果があり、むしろ人間よりも回復能力が高い生物であるほど回復効果も早い。最初は傷口に液体を流されて白馬は戸惑うが、やがて傷口が回復液を浴びる事で徐々に復元し、遂には元の脚へと戻る。



「ヒヒィンッ!?」

「これでよし、と。もう立てると思うよ?」



解析の能力を使用して状態の項目を「健康」と書き換えれば良かったかもしれないが、既にレイナはクロミンを変身させる際に8文字も使ってしまっている。


クロミンをわざわざ元に戻さなければ文字数にも余裕があったが、一人で留守番させるのも可哀想であり、しかもクロミンが一人でいるところを他の人間に見つかれば大きな騒ぎとなり得る。


白馬の傷を治したレイナはもう大丈夫だとばかりに微笑むと、ここで白馬の背中を見てある事に気づく。それは白馬の背中には小さくて最初は気づかなかったが、鳥の翼のような物が生えている事に気づく。



「あれ、お前もしかして……羽根があるという事は、ペガサスなのか?」

「ヒヒンッ?」



レイナの言葉を聞いて白馬は首を傾げ、人間の言葉は流石に理解できないらしいが、背中の部分に生えている小さくて可愛い羽根をパタパタと震わせる。


どうやらレイナが発見した白馬の正体は「ユニコーン」ではなく「ペガサス」と呼ばれる存在らしい。

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