第374話 すれ違い

――晴れて冒険者になったレイナはリンの頼みを引き受け、王都の東に存在する森へ向けて出発を行う。馬で移動するにしても1日はかかる距離だと言われているが、レイナの場合は更に早く移動する手段が存在した。


その手段とは王城から連れ出してきたクロミンを利用し、一時期的にクロミンを元の文字変換の能力で「牙竜」に変化させ、その背中の上に乗り込んで移動を行う。



「シャアアッ!!」

「うわっとと……クロミン、急がなくていいからもう少しゆっくりでもいいよ?」

「きゅろろ、早い早いっ!!」



クロミンは久々に元の姿に戻れたことに嬉しいのか、全速力で移動を行う。その背中にはレイナだけではなく、お弁当を抱えたサンも同行していた。


今後、冒険者活動を行う時はレイナが困ったときは白狼騎士団の面子が力を貸してくれる事が決まった。今回はサンとクロミンに手伝ってもらい、クロミンが森の場所まで運んでもらい、サンには薬草採取を手伝ってもらうつもりだった。



(まあ、薬草の方は見つからなくても文字変換の能力でどうにか出来そうだけど、ユニコーンの方はどうすればいいかな。簡単に見つかるといいけど……)



レイナはサンを抱えながらもクロミンの背中の上で考え込んでいると、不意に視界の端に馬車を発見した。現在、レイナ達は高原地帯を移動しており、遠目ではあるが馬車らしき姿を発見したレイナはクロミンに注意を行う。



「あ、まずい馬車だ……クロミン、あんまり大きな声を上げないでね」

「シャウッ?」



クロミンの姿を見れば馬車の人間達はどうしてこんな場所に牙竜が存在するのかと慌てふためくのは目に見えていたため、レイナは出来る限りクロミンに目立たないように注意を行う。


既に発見されている可能性もあるが、その時は開き直ってレイナはクロミンの事を自分が従えている事を暴露するしかない。馬車に見つかっていないことを祈って先に進もうとしたとき、サンが声をかける。



「レイナ、あの馬車……オークに囲まれてる」

「えっ!?本当に!?」

「間違いない、ここからでもオーク臭い!!」



レイナはサンの言葉を聞いて慌てて遠視と観察眼の技能を発動させると、確かに彼女の言う通りに馬車の周囲にはオークの集団が存在した。


オークたちは自分で作り出したのか棍棒のような武器を握りしめ、馬車の護衛と思われる兵士達と交戦していた。その様子を見てレイナ達は兵士達が劣勢に立たされている事を知り、このままでは馬車の人間達が殺されると判断して仕方なくクロミンに告げる。



「クロミン、大声を上げて!!オークの奴等を追い払って!!」

「アガァアアアアッ!!」

「きゅろっ!?」



クロミンはレイナの命令を受けて大声を放つと、オークの集団と兵士達は驚いた表情を浮かべて自分達からそれほど離れていない場所に存在する「黒竜」の存在を確認する。真っ先にオークたちは野生の本能で危険を悟り、悲鳴を上げて逃げていく。




――プギィイイイッ!?




オークの集団は逃げていくのを確認すると、レイナはそれを見て安堵する。これで馬車の人間達は大丈夫だろうと判断して先に急ぐ事にした。



「よし、これで大丈夫かな。よくやったねクロミン、先に急ごう」

「クロミン、偉い偉いっ!!」

「シャアッ♪」



背中の二人に褒められてクロミンは上機嫌になると、そのまま移動を再開する。その様子を馬車を取り囲んでいた護衛の兵士達は唖然とした表情を浮かべて見送るしかなかった――





――立ち去っていく黒竜の姿を見送った兵士達はいったい何が起きたのか理解できなかった。どうしてこのような場所に牙竜のしかも亜種が存在したのか、それに牙竜の背中に人間らしき姿をした二人組が存在した事に戸惑う。



「た、隊長……今のはいったい、なんだったのでしょうか」

「わ、分からん……だが、奴のお陰で我々は命拾いしたようだ」

「命拾いですか?牙竜がこんな場所まで現れたんですよ、すぐに王都の王城に報告するべきでは……」



護衛を行う兵士達が騒ぎ出す中、馬車の扉が開き、中から現れたのは老人だった。彼は杖を使って降りてくると、慌てて兵士達は迎え入れる。



「ふむ、いったい何の騒ぎじゃ?人がよく眠っているときに起こしおって……」

「ろ、老師様!!目を覚まされたのですか?」

「あれほど大きな声を聞けば目も覚ますわい。それより、これは何の騒ぎかと聞いておる」

「あ、それが……じ、実はオークの集団に襲われ、その対応をしていた時に突如として牙竜が現れて……」

「なるほど、先ほどのバカでかい声は牙竜か……しかし、不思議と敵意は感じなかったのう。それよりもお主等、オーク如きに苦戦するとはなってないのう」

「面目ありません」



老人は周囲の様子を伺い、倒れているオークの死骸と負傷した兵士達の姿を見て頭を掻く。自分が眠っている間にオークの集団に襲われていたらしいが、たかがオークに苦戦した兵士達に呆れてしまう。


その老人の胸元には黄金に光り輝くバッジが取り付けられ、レイナが探し求めている黄金級冒険者の一人だった。レイナは運悪く、黄金級冒険者とすれ違っていた事に気づかずに森に向かってしまう。

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