第369話 実技試験 その2

「ほらほら、油断しているとすぐに死んじまうよ!!」

「うわわっ!?」

「「キュキュイッ!!」」



連続攻撃で一角兎はレイナを仕留めようとしてきたため、リンが相手が可愛らしい外見だからといって油断するなと告げる。レイナは迫りくる2体の一角兎に対して回避を続け、確かに少しでも気を抜けば大けがを負わされると判断し、意識を切り替えた。


相手がいくら可愛らしい外見をしていようと、自分を本気で殺しに向かってくるのであれば容赦はせず、レイナは剣を構える。相手は小柄で素早いとはいえ、今まで戦ってきた強敵と比べれば怖くはない。



(廃墟街のゴブリンの奴等と比べれば……どうってことない!!)



最初に自分が魔物と戦ったばかりの頃を思い出したレイナは剣を握りしめ、冷静に相手の様子を「観察眼」の技能で調べる。これまでの戦闘の傾向から一角兎の攻撃手段は額の角しかなく、突進以外の攻撃は出来ない事を見抜く。


相手の攻撃手段が突進だけだと判断したレイナはバスタードソードを横向きに構えると、精神を集中させてリルやチイの戦う姿を思い浮かべる。


残念ながらこの世界の戦闘職の称号を持つ人間ならば扱える「戦技」と呼ばれる必殺技はレイナには扱えないが、幾度もリルやチイのような剣士が戦技を扱う場面は見ているため、彼女達の動きを真似してさらに自分なりの工夫を加えてレイナは剣を振り抜く。



「はああっ!!」

「ギュイッ!?」

「キィッ……!?」

「へえっ……やるじゃないかい」



リルやチイが普段から扱う「牙斬」という戦技を参考にしてレイナはバスタードソードを振り抜くと、頭部と胴体を切断された一角兎の死骸が床に倒れ込む。その様子を見てリンは素直に感心した声を上げ、確かに剣の腕前は粗はあるが太刀筋は悪くはなかった。


一方でレイナは最後の一角兎に視線を向けると、他の2匹が破れたというのに黒色の毛皮の一角兎は特に動じた様子もなく、それどころか興奮したように鼻息を鳴らす。



「後はお前だけだな……ん?」

「ギュルルルッ……!!」

「ひとつ言っておくけど、そいつは只の一角兎じゃない。一角兎の亜種だから気を付けな」



ここでレイナは黒色の毛皮の一角兎の様子がおかしい事に気づき、リンが思い出したように忠告を伝える。最後の一角兎は鳴き声を変化させると、額の角が徐々にドリルのように回転し、レイナの元へ駆け出す。



「ギュラァッ!!」

「……とりゃっ!!」

「はあっ!?」



正面から突っ込んできた一角兎に対してレイナは左手を構えると、そのまま迫りくる一角兎の角をつかみ取る。その光景を見てリンは呆気に取られ、そんな事をすれば掌の皮膚は敗れ、勢いを殺せずにレイナの大きな胸元に角が突き刺さるだけかと思われたが、彼女の予想は大きく外れた。


城から抜け出す際にレイナは「握力」という技能を習得し、この技能のお陰で彼女は驚異的な握力を習得していた。その握力は高速回転する一角兎の角を掴み、逆に回転を行わせている一角兎の本体の方が身体を高速回転させ、やがて角から引き千切られる。


「ギュエェエエエッ!?」

「あ、取れちゃった……なんか、ごめん」

「……なんて奴だい」



攻撃を仕掛けたはずの一角兎の方が逆に吹き飛ばされる形となり、レイナは手元に残った一角兎の角に視線を向け、地面に倒れ込んだ一角兎に思わず謝罪する。だが、角から弾き飛ばされた衝撃でどうやら一角兎は事切れていたらしく、床に3体の死骸だけが残された。


その光景を確認したリンは念のために3匹の一角兎を確認し、完全に死亡している事を確認すると一先ずはの試験を突破した事を認める。



「うん、死んでいるね。なら最初の試験はあんたの合格だよ」

「あ、はい……あの、これで終わりなんですか?」

「拍子抜けしたかい?けど、こんなもんだよ。の試験なんてね」

「……最初?」



先ほどからリンが妙に試験の際に「最初」という言葉を強調する事に気づいたレイナは違和感を抱き、すぐにその意図を察する。彼女は先に実技試験を行うと言っていたが、その実技試験の内容が一角兎を倒すだけではない事に気づく。



「もしかして、試験はまだあるんですか?」

「……正解さ、こいつらはあくまでも前座に過ぎないよ。実技試験は三段階で行われる、それを説明し忘れていたね」

「やっぱり……」



レイナの言葉にリンは悪びれた様子も見せずに頷き、そんな彼女にレイナは少し呆れてしまうが確かに一角兎が試験の相手と言われても弱すぎると思った。最後の亜種に関しては驚かされたが、攻撃手段がただの突進ならば他の一角兎と同様に対処できるため、別に脅威とは言えない。


3体の一角兎の死骸を檻の中に回収したリンは自分だけが闘技台の外へ抜け出すと、再びベルを鳴らして合図を送る。すると、今度はギルドの職員だけではなく、冒険者だと思われる人間達が大きな檻を運び出してきた。

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